最終節は気持ちで決まる! 裏カードのライバルを焦らせれば逆転優勝の奇跡もあり【リーガコラム】
「頭を使え!」「頭だ!」
68分レアル・マドリードが先制。75分アトレティコ・マドリードが失点した。その時点で勝ち点81のレアル・マドリードが逆転首位、アトレティコ・マドリードは勝ち点80のまま。自分たちが勝ってレアル・マドリードが引き分け以下ならアトレティコの優勝決定という68分前での状況から、残り15分間で2点取らないと優勝困難(勝ち点で並べば直接対決の成績でレアル・マドリード優勝)という状況まで、一気に劇的に転落したわけだ。
そこで迎えた給水タイムに、ディエゴ・シメオネ監督が何を言うか注目していたら「頭だ!」の連呼だった。焦るな、というのが無理な状況で、焦るな、と繰り返すだけで戦術的な指示は一切なかった。これで大丈夫か、と正直思った。
同時開催だからこそ、気持ちがものを言う
だが、シメオネのチームは82分に同点に追い着き88分に逆転して、首位を奪い返した。最終節でアトレティコ・マドリードが勝てば優勝、レアル・マドリードはどんなことをしても追い着けない。
土壇場では一つの気合いが、百の戦術的指示を上回ることがある。
裏カードのスコアが別カードに重大な影響を与える面白さは、同時開催でしか味わえない。
裏カードに影響されないようにするにはニュースをシャットアウトするしかなく、実際ほとんどのチームがそうしているが、良い結果は選手たちに伝えたくなるもの。逆に言えば、ベンチが沈黙している時は悪い結果だと推測できるわけで、結局は隠し切れない。
レアル・マドリード先制の報が伝わり、引き分けでは優勝できないかもしれない、と焦る。得点への焦りがロングボール頼りを生む。そんな中、GKオブラクの中途半端なロングボールがカットされてカウンターを喰らい、失点の原因となった。
シメオネの指示はロングボールを避け丁寧に繋ぎサイドから崩せ、だった。そのやり方で相手をノーチャンスに抑え、チャンスの山を築いていた。が、裏カードの悪いニュースに我を失って、最初の枠内シュートを撃たれてそれが失点に繋がる。
一瞬の動揺や隙が失点に直結するのがリーガの怖さである。
アトレティコの苦戦は、最終節の自信に
シメオネの「頭を使え!」は成功した。
同点、勝ち越しのゴールはいずれもサイドから手数をかけての崩しによるものだった。
選手たちはシメオネの言うことを聞いていれば、自分たちのサッカーをすれば勝てる、と自信を持っただろう。
この自信が最終節では大きな力になる。
決勝点を決めたのが、それまで外し続けていたルイス・スアレスだった、というのも大きい。アトレティコ・マドリードはこの苦戦によっていつかのプラスαを得て、最終戦に臨む。
対戦相手のバジャドリードは、ウエスカ、エルチェを加えた3つの降格候補の中で最も流れが悪い。
セルヒオ・ゴンサレス監督の先発9人を入れ替える大胆采配が裏目に出てレアル・ソシエダ相手に35分で4失点。監督と選手の心が離れているように見える。アトレティコ・マドリードに勝っても残留は裏カードの結果次第、という過酷な条件にチームは最後まで一つでいられるだろうか? 諦めたらその時点で試合終了。アトレティコ・マドリードが勝って優勝、負けたバジャドリードは降格、という結末が透けて見える。
レアル・マドリードがその既定路線を覆し、逆転優勝するためにはどうすればいいか?
逆転優勝のシナリオ。ジダンの策略は?
これはもう、同時開催のメリットを100%活用し、序盤で大量リードすることでアトレティコ・マドリードを精神的に追い込むしかない。レアル・マドリードの勝利は確定で、勝たないと優勝はないと焦らせればアトレティコ・マドリードの歯車が狂うかもしれない。
他力本願とは、他力=ライバルへの重圧、を味方に付けることだ。
もう一つ、メンタル的に準備するという点で言えば、一部で報道されているように「監督が辞意を伝えてチームを一つにする」という手もないではない。言動から精神的な疲労がうかがえるジネディーヌ・ジダン監督は、今季限りの決意を固めているとは私も思っている。だが、正統派の彼がそんな手の込んだ、メディアに漏れればマイナスも大きい博打をうつようには見えない。
対戦相手ビジャレアルの立ち位置は微妙だ。
7位で欧州カップ戦行きの切符は手には入れているが、ヨーロッパリーグではなく格下のカンファレンスリーグに回る可能性はある。一方、レアル・マドリード戦の4日後にはEL決勝があり、優勝すれば来季のチャンピオンズリーグ行きの切符が手に入る。
というわけで、ベストメンバーでスタートし、ソシエダとベティスの結果を見ながら、後半の早い時間帯で主力を休ませていく、というやり方をしてくるのではないか。
相手は優勝を懸けたレアル・マドリードで勝ち目が薄い。徐々にELファイナルへ比重を掛ける選択は、策士ウナイ・エメリ監督なら「ある」と思う。
残留争いにも一言。
エイバルが降格決定済み、バジャドリードが苦しいとなると、残留枠の残り1枠はウエスカとエルチェが争うことになる。ウエスカは自力で残留を決めることができ、エルチェは他力本願。となると、ウエスカ有利だが、対戦相手のバレンシアは絶好調ゲデスを軸に好調で、エルチェのそれ、アスレティックよりも手強い。よって、試合終了の笛まで予断を許さない展開になるだろう。両者とも負けて現状維持のまま、エルチェ降格なんてこともあるかも。
同時中継。私ならこのカードから見始める
最後に、最終節の最重要カード、バジャドリード対アトレティコ・マドリードとレアル・マドリード対ビジャレアルのテレビ同時観戦のプランを参考までに。
私ならまずレアル・マドリード対ビジャレアルから見始める。早い時間に先制したいジダンのチームと、ベストメンバーでスタートするエメリのチームの序盤は間違いなく緊張感のあるものになる。よって、前半の開始~中盤はこの試合で、前半の残りはバジャドリード対アトレティコ・マドリードにスイッチする。中継が他スタジアムの途中経過を伝えるスタイルなら、当然スコアが動くたびにチャンネルを替えて得点シーンを確認する。
もし前半で、優勝チームが確定するようなスコアになれば、後半は優勝チームの方のカードだけを見る。アトレティコ・マドリードにしてもレアル・マドリードにしても苦しんだシーズンだっただけに、試合終了の歓喜の瞬間を記憶しておきたい。もし、それがアトレティコ・マドリードだとすれば、降格するバジャドリードとの残酷でドラマチックなコントラストも見ものとなる。
中立的な観戦者として、感動重視の理想的な展開は以下のようなものだ。
まずレアル・マドリードが先制。重圧を掛けられたアトレティコ・マドリードはゴール前の精度を欠きなかなか点が取れない。そのうちにレアル・マドリードが追加点を入れ、勝利をほぼ決める。これでアトレティコ・マドリードは勝利するしかなくなり、さらに追い込まれる。その窮地に、シメオネが打った手が……。
サッカーは気持ちだ。爆発する喜びと悲しみを、コロナ禍でどのチームも苦しみ、戦い抜いた証としてしっかり見届けたい。一部スタジアムへ観客が戻って来ている。今季の終わりは明るい来季の始まりだと思いたい。
photo by Getty Images
text by 木村浩嗣
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