【木村浩嗣コラム】なぜ、ヘタフェは“久保建英”を欲しがるのか? その戦術的理由

  • 2021/01/07

【木村浩嗣コラム】なぜ、ヘタフェは“久保建英”を欲しがるのか? その戦術的理由

text by 木村浩嗣

執筆時(1月5日)には久保建英の移籍先は確定していないが、会長とホセ・ボルダラス監督の発言からして強い興味を抱いているのは間違いない。移籍が実現するかどうかは別にして、今のヘタフェには久保を欲しがる理由がある。

現在、リーガにはクラブの歴史に刻まれる、功労者として記念碑を建ててもいいレベルの監督が5人いる。ジネディーヌ・ジダン(レアル・マドリード)、ディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリード)、ホセ・ルイス・メンディリバル(エイバル)、パコ・ロペス(レバンテ)と並び、ヘタフェのボルダラスもその一人である。監督は成績次第だから彼らだっていつかは解任されるかもしれない。が、彼が作り上げ実績を残したサッカースタイルは、後進に受け継がれるはずだ。

ヘタフェはどんなサッカーをしているのか?

ラインを上げて進化したボルダラス戦術

実はボルダラスの戦術は毎年少しずつ変化してきた。
1部に昇格して1年目の17-18シーズン、柴崎岳がプレーしていた頃は、自陣に引いて待つ典型的なロングカウンターチームだったが、そこから少しずつ最終ラインが上がっていった。昨季のデータでは、アタッキングサード(3分割したグラウンドで相手ゴール寄りのエリア)で過ごす時間の長さで2強をも上回り、エイバルに継ぐ2位だった。
エイバルもヘタフェもボールを持つチームではない。なので、敵陣深くに攻め込む時間を長くするには、必然的にラインを上げ、相手を物理的に自陣へ押し込まなければならない。

ラインを上げることは、攻守のスタイルを変化させることでもある。
守備面では、高いラインを保つことは、DFの背後にパスを送り込まれればGKとの1対1という、絶対的なピンチと背中合わせだ。これを防ぐには相手のボール保持者に前を向かせてはならず、前からアグレッシブなプレスを掛けなくてはならない。「ライン上げ」と「前からのプレス」はセットでしか機能しないのだ。

攻撃面では、引いて相手のミスを「待つ」のではなく、アグレッシブに前に出て相手のミスを「誘う」形となる。ボールを奪うのは前であればあるほど良いので、高い位置で奪ってのショートカウンターが最大の武器となる。
まとめると、ボルダラスのサッカーは「引いて待つロングカウンター」から「前に出て奪うショートカウンター」へと変化してきたことになる。シメオネもたどった受け身のスタイルから能動的なスタイルへの変化だから、これは「進化」と呼んでもいいだろう。

研究され手詰まりになった今季の攻撃

で、今季どうなるかと注目していたら、失点は少ないものの(17失点=7位)、点が取れず(12得点=最下位)で16位と沈んでいる。ボルダラスもラインを下げて昔の形に戻してみたりと試行錯誤をしているが、結果が出ていない。
低迷の最大の原因はエネス・ウナル、パラヴェルサ、ディアビら新戦力が機能していないことだが、ここでは戦術的な不足点に注目。なぜ久保、あるいは久保的な選手が求められているのかを考えてみたい。

今のヘタフェをみると、攻撃面で手詰まりに陥っているように見える。前へ前へと出て行ってみたら、相手ゴール前でスペースがない密集状態になってしまっていて、手持ちの駒では打開し切れていない。FWのアンヘルとクチョ・エルナンデスのスピードはスペースがあれば脅威であり、ハイメ・マタのハイボールの強さと収めたボールの展開力はロングボールからの崩しに対しては有効だ。が、前が詰まっていては持ち味が出せない。ここを新戦力で補おうとしたのだろうが……。

ボルダラスのサッカーも研究された。ヘタフェに対して前に出て来ようとするチームが少なくなった。前掛かりになっている相手のボールを奪って一気にゴールを襲う、得意の形を出しにくくなっている。と同時に、引かれて渡されたボールの使い道がわからないままロストし、ロングカウンターの餌食になっている。

結果的に、ボールを奪っても相手の守備陣形が整っている状態で、しかも狭いスペースでのプレーを苦手とする選手たちだから、すぐにボールを失う。それでも前線へ送り込むしか現状、手がない。単調な繰り返しである。
これがエイバルくらい勇敢でどんどん前へ行き続けるのなら、相手も裏を狙う誘惑を捨てられず前へ誘い出され、カウンターのチャンスも生まれる。
が、ボルダラスはメンディリバルほど吹っ切れていない。もともと守備を重視してきた監督だから、ボールの後ろに人数を割きリスクヘッジをしようとする。結果的に、前からプレスへ行く者と、後ろに下がって守ろうとする者とにチームが2分割する場面がよく見られる。低迷による監督の迷いが、選手の判断の迷いを生んでいる。

急募!「変化」を付けられる存在

そこで今求められているのが、攻撃の単調さを解消し変化を付けられる選手。奪ったら前線にすぐ出すのではなく、サイドでもらって一崩ししてからFWにボールを渡せる選手。みなさんが見ているであろうエイバルで言えば、ブライアン・ヒルに相当する存在である。もちろん、ブライアンと久保は違う。久保にはブライアンのようなインテンシティの高さはない。が、その代わりに「間」を作れる。

足下にボールをもらい小さく動かしてプレスをかわしキープして時間を稼ぎ、後ろの攻め上がりやFWの動き出しを待ってから決定的なパスを出すことができる。同じことをゆっくりドリブルし中へ切り込みながらも行える。もちろん、足を止めた状態からフェイントとリズムチェンジで抜け出す単独打開もOK。パスの種類も速く硬質なものだけでなく、浮かしてタイミングを外すものも送れる。つまり、久保が一枚噛むことで攻撃に種類と質のバリエーションが生まれ、相手に迷いを生じさせることでFW陣が有利な状況でボールをもらえる。

実は、この久保が任されるだろう役割をボルダラスは今、ポルティージョにやらせている。
テクニシャンの彼は、速くて激しいサッカーの中で忘れ去られようとしていたが、前々節アトレティコ・マドリード戦では大活躍した。ポルティージョよりも久保の方が単独打開力やシュート力は上だ。
もし、ヘタフェに久保が入るとすれば、ボルダラスはポルティージョと同じく、[4-4-2]の右サイドで使うつもりだろう。2トップに点取り屋タイプのFW(マタとアンヘル)を置き、左サイドにスピードがあり縦へ抜けられるウインガー的なFW(クチョ)を置き、右にテクニシャン(ポルティージョまたは久保)を置く、という特徴付けと配置は、柴崎がいた頃のヘタフェと同じである。あの時の柴崎は、2トップの一角でアンヘルとのポジション争いに敗れて出番を失っていったのだった。そのことを思い起こせば、久保とFWで2トップを組ませる使い方もあるかもしれない。

以上、想像の域を出ない中でいろいろ考えてみた。いずれにせよ、ボルダラスと久保の次の一手から目が離せない。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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