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【木村浩嗣コラム】今、日本人を見るならエイバルしかない

  • 2020/12/03

【木村浩嗣コラム】今、日本人を見るならエイバルしかない

text by 木村浩嗣

今、日本人を見るならエイバルしかない。乾か武藤の先発——うまくいけば両方——が間違いないのに比べ、岡崎、久保はそうではない。
岡崎はケガの間にレギュラーの座を失った。その間サンドロが2ゴールと結果を出した。4年前16ゴールを挙げたスーパーさを見ている分にはまだ全然もの足りないが、ゴール感覚をサンドロは取り戻しつつある。ゴールのあるサンドロと総合的に貢献度が高い岡崎。得点不足に悩むウエスカの監督なら前者を選ばざるを得ない。岡崎が途中出場で得点に絡めばこの序列は逆転すると思う。

久保はELでのレギュラー要員となっていることと、ライバルの多さがリーガの出場を阻んでいる。選手を使い回すのがうまいエメリ監督によって開幕時に戦力化できていなかった選手が加わり、層が厚くなった分、久保の優先順位が下がった。久保には今、右サイドで6人(チュクエーゼ、トリゲロス、ジェラール・モレーノ、バエナ、ジェレミ)、左サイドで4人(モイ・ゴメス、バエナ、ジェレミ、ペドラサ)、トップ下で2人(モイ・ゴメス、トリゲロス)のライバルがいる。しばらくはELに活躍の場を見出すしかないだろう。

乾のサポートでフィットした武藤

対して、エイバルの乾と武藤はレギュラーと言ってもいい位置におり、どちらかは必ず出る、と言ってもいい。
ベティス戦で初ゴールを挙げた武藤は、絶対的なレギュラーのキケ・ガルシアの出場停止をうまく利用した。ゴールも大きいが、日本人選手として不安のあった空中戦でロングボールを収められたこと、プレスを忠実に行えたことが大きい。77分に足がつって交代させられるまでプレーさせ続けたのは、ホセ・ルイス・メンディリバル監督が、チーム戦術に調和していると認めた印だろう。
武藤はおそらくスペイン語はほとんどしゃべれない(失礼な想像ではない。スペイン語は英語よりはるかに難しい)。メンディリバルもそう認めている。が、メンディリバルが「自分の戦術を一番理解している選手」と評する乾がいる。

前からどんどんプレスへ行くエイバルでは、一人の戦術的判断ミスによって、誰へ、いつプレスへ行くか、を間違うとチーム全体のプレスがガタガタになる。機能的にピチッとはまっている必要があるわけで、それが開幕後2カ月半でできている。これは乾の存在抜きにはあり得ない。

キケ・ガルシアと比べて勝っている部分もある。それが反転してのダッシュの速さ。武藤のゴールはCKから生まれたが、そのCKは反転してマーカーを抜き危険なセンタリングを上げた武藤のプレーから生まれたものだ。武藤を体格で上回るキケ・ガルシアは、空中戦や競り合いでは上だが、小回りが利かない。あの反転があるならペナルティエリア内でPKを誘うプレーもできるだろう。
私が監督ならキケ・ガルシアが帰って来ても武藤を少なくとも今週末は先発させる。それでパフォーマンスをチェックすると同時に、これまでライバルがいなかったキケ・ガルシアの発奮材料とする。

乾のミスはゴール横取りのエゴではない

乾は先発フル出場。2試合連続MVPのタレント、ブライアン・ヒルと左サイドでポジションが重なっていたが、この試合で乾が主にトップ下、ブライアン・ヒルが主に左サイド(適宜、ポジションを交替する)という、共存の形が見えたのが大きい――なんてことより、乾のミスでゴールが取り消された、というニュースの方が日本には大きく伝えられたかもしれない。
ブライアン・ヒルのシュートがゴールラインを割る寸前、オフサイドだった乾がボールに触る、という余計なことをしてしまった。
私も経験ありますよ。監督をしていて子供が触らなくていいボールに触ってオフサイドで得点取り消しになった経験が。

でもね、このプレーを伝えた『マルカ』紙のタイトル、「もしエイバルが負けていたらメンディリバルは乾に判決を下していただろう」にはまったく同意できない。
この記事が主張するように得点の手柄を横取りするために「エゴで触った」わけじゃない。思わず足が出たんです。本能的に。DFが犯す、とんでもないハンド、というのがあります。思わず無意識に手を出してしまう。あれと同じです。これ、サッカーをしていれば誰しも経験があるんじゃないかな。
こういう時、本人は平謝りだし、監督は判決を下したりしません。むしろ苦笑いして慰める。監督が判決を下すのは、怠慢プレーに対してです。

メンディリバルは乾がエゴを満たすためにチームを犠牲にするような選手ではないことを熟知している。むしろあまりにも献身的であり過ぎて、ゴール前でもっとエゴを出せ、と叱咤しているくらいだ。
あれがエゴだと解釈されていれば、ハーフタイムにベンチに下げられていただろう。そうじゃないからフルタイムプレーさせた。ピケやセルヒオ・ラモスもかつてバレーボール選手まがいの馬鹿げたハンドを犯しているが、それで出番が減ったなんてことは一切ない。本能的に手が出る、足が出る。そういうことは人間だから起こる。
いくらスペインがサッカーの本場でも、すべての報道の質が高いなんてわけがない。よく「現地紙が○○と言った」という類の報道を目にするけど、日本のみなさんの耳には「いや、大したことないのもたくさんあるよ」と小声で囁いておきたい。

華奢な怪物の爆走がエイバルを牽引

乾は今シーズン、ずっと悪くないプレーを続けているが、ベティス戦は特に良かった。PKをもらったアグレッシブさと強引さがあれば、得点に絡むプレーももっと出るだろう。

武藤と乾を目当てにエイバルを見る日本のみなさんにぜひ注目してほしいのが、ブライアン・ヒルだ。2年前からセビージャで見ているが、昨季後半戦はレガネスでドリブラーとして輝き、今はそれに加えてアグレッシブなプレスからのボール奪取でも輝いている。
2001年生まれの19歳で久保と同年代、175cm/60kgは久保の173cm/67kgに比べてもか細いが、とにかくエネルギーが凄い。ボールの有無に関係なくベティス戦では92分で11.7kmを走り切った。セビージャの先輩ヘスース・ナバスを彷彿とさせるスピード×運動量。「フィジカルモンスター」というと筋肉隆々のアスリートを想像するが、彼のような見た目とは全然違うタイプも存在するのだ。

馬力があれば少々の戦術的なミスは補える、というか、ポジショニングのミスを走ってカバーし得る馬力自体が戦術、と言っていい。これで、CKを任されるキック力、ドリブル力、パス能力と視野の広さが持ち味のテクニシャン、というのだから……。繊細なテクニシャンをあえてほとんどが守備の時間の弱小クラブにレンタルして鍛えて総合的にスケールの大きな選手に育てる、というやり方もあるのだ。
サッカーはまず走ることがインパクトであり、彼の走りっぷりを見て使わない監督はいないだろう。今のエイバルではブライアン・ヒルがナンバー1。その上で乾を使うとなると、センターラインの守備が不安だから2トップの選択肢はなく、武藤とキケ・ガルシアがCF枠を争わざるを得ない。
競い合ってチーム力が上がる。その上昇気流の中にエイバルはあり、武藤も乾もブライアン・ヒルも力の限り爆走する。単純に血沸き肉躍るサッカーができている。見逃す手はない。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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