【木村浩嗣コラム】「サッカーは人間がやっている」という当たり前を再確認したい

  • 2020/11/20

【木村浩嗣コラム】「サッカーは人間がやっている」という当たり前を再確認したい

text by 木村浩嗣

中断前のヘタフェ対ビジャレアル、後者が1-3で勝ち、強さ、特に欧州カップ戦後の連戦をものともしない選手層の厚さを見せつけた試合だったが、「ああ、人間だなぁ」と思わせるシーンがあった。
32分に交代させられたヘタフェのカバコが、怒りのあまりそこにあったボールを自らのベンチへ思いっ切り蹴り込んだのだ。もの凄い弾丸シュートだったがコロナ禍のせいで誰もベンチに座っていなくて良かった。

別のカメラは、通り過ぎる際にホセ・ボルダラス監督を睨み付け何やら恨み言を吐くところ、近くに居合わせたビジャレアルのトリゲロスが、“こいつは大変なことになるぞ”とニヤニヤ笑うところ、スタンドのカバコが仲間に慰められ、うつむいているところを捉えていた。

選手は人間である。だからこういうこともある。

途中交代のカバコ、怒りの熱球

カバコの交代自体は、対面のペドラサに散々やられていたし、カバコはセンターバック(CB)で右サイドバック(SB)は本職ではないし、私も代えるなら彼かなと思っていた。代わりに入ったのはFWのアンヘル。1-2と勝ち越された直後、点を取りに行くためにDFを1人犠牲にしなければならなかった。左ウイングのククレーリャを左SBに下げ、左SBだったニョムを右SBへ移した。交代後ヘタフェのパフォーマンスは向上した。

ボロボロだった守備を修正するのにあえてFWを入れポジションを動かして、攻撃だけでなく守備のレベルを上げる。攻守両用のさすがのボルダラス采配だった。
が、選手は駒ではなく人間である。

カバコはウルグアイの熱い血がたぎるファイター、ヘタフェにうってつけの選手で、ボルダラスもお気に入りのはずだが、気が短い。感情が解放される練習ではたぶんもっと怒っているはずで、ボルダラスには予測できた反応だったろう。

だけど、選手に気を遣っていてはベストの采配はできない。

内々で厳罰を科し、輪を保つ

これ、サッカーをプレーしたり監督をしたりした人なら誰しも経験したことだろう。
交代されてうれしい、という選手を知らない。ベンチが私のベストポジションだ、という選手もいない。
よって、全試合フル出場したい、というのが選手の夢なのだが、これだけの過密日程だからローテーションは避けられず、ケガやコロナもあるから、トップチームには25人が登録されており1試合5人の交代が認められているから、そんな夢は叶わない。
よって、選手は多かれ少なかれ不満を溜めており、爆発することもある。特に脈拍が200にもなる芝生の上は危険ゾーンだ。

「試合直後のロッカールームには入らない」と言ったのはクライフだったか。選手が興奮しており聞く耳を持たないから。

「カバコの件は内部で処理する」
ボルダラスの対応も極めて正しい。「内々で処理する」というのは「穏便に済ます」という意味ではない、というのもサッカー経験者ならわかっているだろう。
エゴが抑えられ輪を保たれているのは、チーム内の厳しい規律規定のお陰。弱腰の監督は舐められて仕事にならない。
カバコは次の試合、招集外になるだろう。

選手は普通の人、チームは会社

ところで、試合後の監督会見でボルダラスは3度も「カバコの件は内部で処理する」と言わされている。
記者たちがしつこく質問したからだ。火を焚き付けてスキャンダルにしたいわけだ。
これねぇ、我が同胞ながら情けなくなる。ボルダラスが公でカバコの悪口なんて言うわけないじゃないか。あなた、部下の悪口をマスコミに漏らしますか? あなたなら、そんな上司を信用しますか?

ロッカールーム内のことは口外しない。これ、鉄則。
カバコを外部の批判から守って、内部で厳罰を科す。こうしてカバコは反省しチームメイトたちは納得して輪が維持され、サッカーは続くのである。

社内のことは口外しない。これ、一般社会の常識である。
部下が上司の決定に歯向かい、同僚(交代で入ったアンヘル)への尊敬を欠いた。よって、内規で処分した。上司は平静を装い、目撃した他社の社員はニヤニヤ笑い、ほとぼりが冷めてから同僚たちは本人を慰め、いさめた。

監督や選手は普通の人たちなのだが、サッカーがエンターテイメント産業であるせいか、メディアは監督や選手を“おもちゃ扱い”しがちだ。裏返しの“英雄視”や“鉄人視”も私は間違っていると思う。 有名な監督や選手を何人もインタビューし、中にはレジェンドと呼ばれる人もいたけど、みんな普通の人でしたよ。

人間ラモスの2本連続PK失敗

リーガで凄いプレーを見せているのは普通の人だ。だから、怒るし笑う。カバコの憂さの晴らし方なんて子どもそのものだ。
でも、そこがビデオゲームと違う魅力である。
よく、選手の能力を数値化しグラフ化しているのを見るけれど、あれには「これは平常心でプレーしている時の値です」という但し書きがいる。

実際は、連戦の疲れが溜まっていたり、ケガ上がりだったり、監督と衝突していたり、気に食わないチームメイトがいたり、最近夫婦仲が悪かったり、実家の父親の体調が心配だったりしてパフォーマンスが下がり、その逆に、得点続きだったり、移籍先が気に入っていたり、念願の新車を買ったり、素晴らしい恋人と出会えたことでパフォーマンスが向上する。
戦術論や采配論は面白いし、私もするけれど人間が不在になりがちだ。

14日、UEFAネーションズリーグのスイス対スペインで、PKを25回連続で成功させていたセルヒオ・ラモスが2本連続で外した。2本目はGKの手に力なく収まる、らしからぬキックミスだった。

失敗はプレッシャーを生む。
ならば、それとは無縁の別キッカーに蹴らせる、というのが、私の経験から得た方針。スペイン代表のルイス・エンリケ監督はキャプテンへの信頼を示すためにラモスに任せた。その気持ちもわかる。

人間ラモスゆえのあの采配だった。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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