【木村浩嗣コラム】新シーズン展望。補強上手、継続路線、不安材料の数と質で読む、リーガの新地図

  • 2020/09/11

新シーズン展望。補強上手、継続路線、不安材料の数と質で読む、リーガの新地図

text by 木村浩嗣

異例の夏は続いている。

いつもなら大型補強があるレアル・マドリードもバルセロナもアトレティコ・マドリードも音沙汰無し(というか、他のリーグでも噂しか聞かない)。それどころか、今は余剰戦力の放出に余念がない。レアル・マドリードは9月19日からの第2節、アトレティコ・マドリードとバルセロナとセビージャ、エルチェは27日からの第3節から参戦で、移籍市場が閉まるのは10月5日とあって、まずは慎重に構えているのだろう。余剰戦力となっている他クラブの大物を獲りに行く形での大型補強はあるかもしれない。

ということで、3強は実質的に既存戦力で他のチームはそれなりの補強をした、という現状で、今季を展望してみたい。

補強上手のビジャレアル、セビージャ、ヘタフェ

まずは戦力アップがあったチームから。

筆頭は久保建英、コクラン、パレホが加わったビジャレアル。昨季終盤快進撃をしたチームに彼らビッグネームが加われば、誰だって期待する。 が、ここは監督が代わった(代える必要なかったのに……)。ウナイ・エメリ監督の優秀さはセビージャ時代に見ているが、彼がビジャレアルの力を引き出せるかどうかは別の話。実際プレシーズンマッチでは苦戦しており、システムも久保のポジションも固まっていない。未完成のチームが選手名だけで走れるほどリーガは甘くない。よって、大きなクエスチョンマークを付けて見ていきたい。

次に良い補強をしたのはセビージャ。 欧州制覇をしたチームからバネガ、レギロンが抜け、ボノとスソを引き止め、ラキティッチ、オスカル・ロドリゲスが加わった。ここは継続路線でチームのメカニズムは確立しており、そこに最適の駒を見つけるだけ。サイドアタックが武器だからレギロンが抜けたのは痛いが、彼と似たプロフィールの選手を補充すればそれで済む。 “優勝し評価額がピークに達した時に売る”という方針でそれが成長の原動力だが、今季は市場が不況だから目玉商品ジエゴ・カルロスの売却を来夏に延ばせるかもしれない。

3番目はやはり継続路線のヘタフェ。 監督は5年目で“ボルダラスイズム”は完全に浸透し、しかも戦術的に進化している。柴崎が入った頃のチームは引いて守ってロングカウンター、という弱者の戦法だったが、残留ではなく欧州カップ戦が目標になるにつれ、それにふさわしい戦い方になってきた。具体的には最終ラインが年々上がって、今は前でプレスを掛けて相手を押し込むアグレッシブなサッカーになっている。 補強の目玉はエネス・ウナルとクチョ・エルナンデスという、ともにリーガで実績のあるFW。これはつまり、守りの方は計算できる、というメッセージだ。実際、中盤から後ろのキーマン、マクシモヴィッチ、アランバリ、ジェネ、ダビド・ソリアは不動。昨季のククレーリャも成功したし、補強もうまい。

続くグラナダ、ソシエダ、レバンテ

4番目は残留どころか史上初の欧州カップ戦参戦を決めたグラナダ。 ゴナロン、フルキエとソルダードを引き留めてブロックを維持した上に、ヘタフェからホルヘ・モリーナとケネジ(チェルシーからレンタル)、2部で活躍したミジャ(往年の名選手の息子)、ソロ(香川の同僚だった)を加えて、戦力を上積みした。 このチームの強さは継続路線であるのに加え、ケガ人が出ると補充の選手が遜色のない活躍をすること。代えが利く、似たようなプロフィールの選手を集めているのだ。これでセビージャからトップ下兼CFのカルロス・フェルナンデスの再レンタルに成功すれば、欧州での疲労を差し引いても、降格圏を彷徨うことはないだろう。

ダビド・シルバを獲ったレアル・ソシエダは、ウーデゴールのマイナスを少なくとも帳消しにしたことに加え、昨季はスビメンディやゲバーラ、一昨季はル・ノルマン、アイエン・ムニョスと、次々に下部組織出身の若手が出て来る活力を評価したい。チームの継続を下部組織が保証し、要所にタレント――イーサック、ヤヌザイ、ミケル・メリーノ、モンレアルら――を連れて来る。クラブとしてこのやり方がうまく回転しており、今季も一伸びあるのではないか。

レバンテも中軸ホセ・ルイス・モラーレス、ロジェール、カンパーニャ、バルディ、ポスティゴ、ヴェーゾを維持しつつ、ここ数年の補強の成功――コケ、クレルク、ミラモン、メレーロ――で着実に力を付けている。

新監督、戦力減、昇格組。それぞれの課題

その他、監督が代わって戦術が大きく方向転換するアラベス(新監督パブロ・マチン)、ベティス(同マヌエル・ペジェグリーニ)、バレンシア(同ハビ・グラシア)は開幕してみないとわからない。ご存じのようにバレンシアは顔ぶれで言えば大きな戦力ダウンを強いられてもいる。

監督交代は無かったが上積みのないバジャドリード、アスレティック・ビルバオ、オサスナ、世代交代で戦力が下がったエイバル、昨季の終わり方があまりに悪かったセルタは、ポジティブに見ることができない。

昇格組はまずは1部のレベルに達しているかどうか。 現有戦力でいくつもりらしいウエスカと、ネグレドらを積極的に補強しているカディス。カディスの昇格は補強担当の腕の良さが大きかったから、サプライズを起こすとすればカディスか。可哀想なのが、最後に昇格を決めたエルチェ。レンタルだった主力が次々と抜けて、今のままでは登録人数にも達していない。しかも監督まで代わった……。

やはり3強。クーマン4つの課題、シメオネ1つの大問題

さて、これら17チームに3強の牙城を崩し、優勝争いをする力はあるか? 「ある」、と言いたいところだが、やはり長期戦になると地力の差――それは結局、選手全員のクオリティの総和の差――が出る。

セビージャやビジャレアルのピークの力は3強と同等かもしれない。が、それを8カ月間維持するのは難しい。3強はアウェイでセビージャとビジャレアルを破ることができるが、その逆は難しい。3強、特に2強は内容が悪くても個人の閃きだけで勝ち点3を持って行くが、その他のチームでは難しい。セビージャとビジャレアルはどんなチーム相手でもアウェイでは苦労するが、3強、特に2強が取りこぼすことはめったにない。3強のうちどこかが不調で、セビージャやビジャレアルよりも順位が下になることはあるかもしれない。だが、3強そろって不調になる偶然は起こり得ない。

では、3強の中でどこが有利か、というと、それはレアル・マドリードだろう。 昨季優勝チームのブロックは余剰戦力を放出した後でも手つかずのままで、ウーデゴールとアセンシオとアザールがプラスで、ヴィニシウスとロドリゴは伸びそうだ。ジダンの新しい、特定のスターに頼らず攻守ともに団結して戦うスタイルは、大崩れしない。ただ、ベンゼマとセルヒオ・ラモスだけは代えが利かないので、2人に何かあるとわからなくなる。

バルセロナはクーマン新監督次第。 モチベーションが下がっているメッシをどう盛り上げていくか、抜けそうなルイス・スアレスやビダルの代役の新戦力をどう組み込むか、デンベレとコウチーニョをどう再生するか、リキ・プッチ、デ・ヨング、アンスー・ファティの若手のやる気をどう生かすか。 これら4つの課題のうち、メッシ+2つがクリアできればレアル・マドリードと戦える。全部がクリアできれば優勝できる。

アトレティコ・マドリードはシメオネの継続がプラスになっていない不安がある。 堅守速攻から先への戦術的進化が止まっている。特に、リードした後の戦い方が、相手に主導権を渡してカウンター色を一層強める、しか現状ない。これでは逃げ切れず追い着かれる試合が必ず出て来る。 不安の質と数でもやはりレアル・マドリードが有利だ。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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