【木村浩嗣コラム】新シーズンのニュースター・注目選手。ウィンウィンは? 日本人は? ベテランの一花は?
text by 木村浩嗣
リーガは9月12日に開幕するのにセビージャはまだ夏休み中――。リーガは例年より1カ月遅れで開幕するのだが、それでもセビージャのように間に合わないチームがある。例年なら考えられないことだ。
コロナ禍によってリーガ終了が2カ月近く、欧州カップ戦の終了が3カ月近くずれこんだことで、今季のカレンダーは変則的なことになっている。例年9月1日に閉まる移籍市場も今季は10月5日まで開いているのに加え、無観客開催ですべてのクラブが減収になることもあって、なかなか補強が進まない。多分、余剰戦力が市場に安く出る9月最終週と10月第1週に駆け込み移籍が殺到するのではないか。
よって、なかなかニューフェイスはいないのだが、それでも注目選手はいる。
チームとの相性抜群で活躍は必至
まずは10年ぶりにリーガへ復帰したダビド・シルバ。
久保建英が入ると思われたウーデゴールの抜けた大穴を埋めて余りある実績と人気。“魔術師”と呼ばれる技を、昨季最も魅力的なプレーをしたレアル・ソシエダで見られるのはうれしいサプライズだった。昨季キャリア最高の活躍をしたサンティ・カソルラもそうだったが、プレースタイルがマッチしたところで圧倒的なカリスマで周りのサポートを取り付ければ、年齢は関係ない。優秀な育成組織出身の若い選手たちも彼から多くのことを学ぶに違いない。年俸やクラブの格に目が行きがちだが、プレースタイルや他の選手との相性を考慮した、こういうウィンウィンのクレバーな移籍こそが結局は成功する。
その一方で、ウーデゴールの方は彼用のポジションが用意されているわけではないレアル・マドリードで苦戦の予感がある。
セビージャに復帰したラキティッチもウィンウィンになる要素しかない。
バネガが抜けた穴にぴったりとはまる格好で、花開いた古巣、奥さんの出身地に帰る。バルセロナへ発つ際に涙を流した男である。これだけ条件がそろっていて成功しなければ嘘である。
ビジャレアルを選んだ久保建英もベストマッチの選択だった。同タイプのタレント、カソルラが抜けたのなら後釜に収まるしかないではないか!
噂だったセビージャはサッカーが堅過ぎる(最強のメカニズムが確立しており攻撃的MFの自由度が低い)。ベティスは新監督でどんなサッカーをするかわからないしチームとの相性も未知数。グラナダは守備の負担が大き過ぎる。
不安はエメリ監督の保守的な采配だったが、親善試合では昨季の[4-4-2]を維持し、久保にはサイドをやらせているようだ。カソルラもサイドだったし、かつてはトップ下に置いたタレントをサイドに置いて中に入る自由を与え、かつ弱い守備を目立たなくする、という起用法は彼に合っている。ただ、右サイドだと驚異的な破壊力のドリブルを持つチュクエーゼと重なる。よって、久保左(順足だが彼のテクニックならできるでしょ)、チュクエーゼ右の最強の布陣で、繋ぎもカウンターもできる多彩な攻撃サッカーを見せて欲しい。
カソルラを忘れさせる存在になれば、久保の2年目は大成功だ。
課題も期待も入り混じる日本人4人
同じ日本人では1部初挑戦の岡崎慎司(ウエスカ)に注目が集まる。
"小さなベンゼマ“と呼ばせてもらった通り、彼のチームとのマッチ具合はこれ以上無いレベルだ。しかし、ボールを繋ぐ野心的なプレースタイルが、技術レベルの高い1部リーグで通用するかどうかには不安がある。昨季オサスナ、グラナダがまず守備を固めカウンターで攻めるスタイルで残留に成功したのに対し、やはり野心的なマジョルカは失敗した。
ボールを持とうとするチームがボールを持てなくなると、何もできなくなる。ボールを持てれば岡崎は輝き、そうでなければそうでなくなる。チームプレーヤーゆえにチーム力は絶対的にパフォーマンスを左右する。その意味で、開幕戦の日本人対決、ビジャレアル戦に注目したい。この試合で45%以上ボールを持てればかなりやれる、と見る。
エイバルの乾貴士の今季はゴールがすべてだ。
ホセ・ルイス・メンディリバル監督7年目は主力が引退したり移籍したりで世代交代の時期であり、降格の危険は例年以上に大きい。戦術理解力は抜群、守備は計算できる、運動量も落ちていない。が、それだけでは今季はチームの危機を救い切れないだろう。
ゴールとアシストでいかに勝ち点を引き寄せられるか? 逆に言えば、クラブのレジェンドとなる扉を開くには最適のシーズンである、と言える。
香川真司(サラゴサ)、柴崎岳(デポルティーボ)にも一言ずつ。一方は昇格を逃しもう一方は降格し、とチームは挫折した。が、2人の個は光っていた。戦術的な混乱の中で都合良く便利に使われた印象だが、だからこそ日本人のマルチさ、サッカー的賢さを見せ付けることができた。決してマイナスのシーズンではなかったので、ステップアップになる移籍もあるだろう。彼ら2人のことは最終的にチームが決まれば改めて語りたい。
フレッシュな新顔と復活のエリート組
若手にも期待できそうな顔ぶれが少なくない。
セビージャはレガネスでスーパープレーを連発したオスカル・ロドリゲスをすかさず獲って補強の巧さを見せた。彼はリーグ再開後最も輝いた選手だったから楽しみだ。シャビ2世と呼ばれて久しいリキ・プッチ(バルセロナ)も大改造されそうなチームで居場所を見つけられそうだ。ブライアン・ヒル(セビージャ)とイ・ガンイン(バレンシア)がどこまで伸びるか注目している。同じバレンシアでカルロス・ソレールが本来のポジション、ボランチでパレホの跡を継げるかどうかも見ものだ。
復活を期す者たちもいる。
ジョアン・フェリックスは、守備の要求レベルの高いアトレティコ・マドリードではアタッカーは苦労する、というジンクスを崩せなかった。CLリヴァプール戦、ライプツィヒ戦など大舞台限定で見せた類稀な才能は間違いない。タレントを特別扱いしないディエゴ・シメオネ監督が、どうやってタレントを開花させるのか?
ケガで昨季をほぼ棒に振ったアセンシオ(レアル・マドリード)とイジャラメンディ(レアル・ソシエダ)を待つのは、レギュラーを奪い返すための長く簡単ではない道のり。だが、リハビリの先の見えなさを乗り越えた2人には、それも喜びだろう。
エゴを捨て他者へ献身する男たち
最後の一花を新天地で咲かせそうなベテランからも目が離せない。
昇格組カディスにはネグレドが入った。グラナダが昨季ソルダードを迎え入れて成功したのと同じような形だ。元代表クラスでテクニックは安定しており、戦術理解度も高くて犠牲的なプレーで周りの力を引き出せる。もちろん経験が豊かでリーダーシップもある。ベティス退団後のホルヘ・モリーナが2部のヘタフェに降り立って得点を量産し、チームの1部昇格と残留の原動力となった前例もある(そのホルヘ・モリーナはグラナダ入り。ソルダードとの化学変化はいかに!)。6位からサプライズでプレーオフを制したエルチェには、40歳のニノがいる。プレーオフで香川のいるサラゴサ相手に決めた決勝ゴールでの、走り込んでトラップしポスト際へ蹴り込む技は見事だった。
ベティスのホアキンもそうだったように、リーダーという地位を与えられれば、チームも本人ももう一伸びするもの。意気に感じて後進に何かを残そう、と発奮するものなのだろう。とかくエゴイストと言われる選手たちだが、他者を生かすことにやり甲斐を見つけた者たちはサッカーの別の魅力、忘れがちなチームワークやクラブ愛、を教えてくれる。
photo by getty images
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