【木村浩嗣コラム】1部リーグ総括。団結の勝利、感動のハイライト、見直し必要なVAR、対照的な乾と久保

  • 2020/08/05

【木村浩嗣コラム】1部リーグ総括。団結の勝利、感動のハイライト、見直し必要なVAR、対照的な乾と久保

text by 木村浩嗣

今季のリーガを一言で形容すると何か?

「団結」と答えたい。

集団としてマネージメント面でも戦術面でも団結しているクラブが勝利した。サッカーはチーム競技なのでそれはとても正当なことだ。

レアル・マドリードはロナウド不在後のゴール不足を補うために守備を強化。そのためにMFの数を増やし、クロースをカゼミーロの横に並べ、両SBを内側に入れ……と戦術的工夫をした。が、ジダンが最も手を入れたのは選手の意識改革。ボールロスト時のプレスや背走をサボる者は使わない、を徹底した。

タレントを捨て、献身さを取ったジダン

ジダンは冷酷なほどに首尾一貫していた。

ベイルやハメス・ロドリゲスは実質的に戦力外となった。彼らは恐らく守備をしなかったのだろう、と想像する。個人的な諍いがあったかもしれない。が、理由は別にして大事なのはジダンの決断にブレがなかったこと。得点不足なら使いたいに決まっている2人のタレントに頼ろうとしない姿が、他の選手への無言の戒めとなった。

得点者はのべ21人に及んだ。絶対的なゴールゲッターは不在だったが、その分をみんなの力で補った。それでもリーグ最少失点であれば優勝できるのだ。

バルセロナの転落には戦術面の問題もある。ネイマールが抜けて以降、新戦力のケガや不調もあって攻撃はメッシに全権を渡す、というサッカーをここ数年間、連日やっている。目をつぶればどんな顔ぶれでどう戦うかが浮かぶほどだ。テクノロジーを使ったチーム分析が進む今、変化しないことは衰退と同義である。

一丸でなかったバルセロナ、必然の衰退

が、それ以前にクラブのマネージメントがチームに亀裂を入れていた。

バルベルデ前監督解任とセティエン監督就任をめぐり不協和音があった。その雑音の中心にメッシがいた。グラウンド上の大黒柱がグラウンド外に気を遣わねばならない状況に陥った。彼もチームもパフォーマンスが低下するのは当然だろう。

セティエンは良い監督だ。だが頑固で、選手を自分のスタイルに合わせるマネージメントをする。メッシという絶対的存在がいて、完成したチームに後からやって来る途中就任監督としてはミスマッチだった。

バレンシアも同じ様な崩れ方をした。開幕直後に選手に信頼されていたマルセリーノ監督をフロントの都合で電撃解任。その禍根が最後の踏ん張りどころで響いた。

信じることの素晴らしさ見せたレガネス

団結心とか一体感というのはプラスαである。

疲労の極限でボールに足を出せるかどうかは、体力だけではなく精神面の問題でもある。仲間のために、胸のエンブレムのために、ファンのためにと歯を食いしばるからボールに伸ばした足が届く。どうでもいいや、とか怪我したくない、と思えば届かない。

この差が結果に正直に出る。特に、再開後の30度近い気温の下38日間に11試合を行う、という心身の限界が試された超過密日程ではそうだった。

信じることの素晴らしさを見せてくれたのが、レガネスだった。

サッカーを愛する人なら最終節レガネス対レアル・マドリードは絶対に見るべきだ。格上相手に残留のためには勝利しかなかった彼らが最後の1プレーまで見せた執念、そしてそれが成し遂げようとしたこと——。これ、スタジアムにファンがいれば最後の20分間は異様な雰囲気になっていたのだろう。奇跡が起きていたかもしれない。

アドゥリス、ホアキン、カソルラの味

敗戦後のキャプテン、ブスティンサの涙を流しながらのコメント、「病院で酷い状態の人たちがいる。この国の状況も酷いものだ」、「しかしサッカーが諦めずに最後まで戦い続けることの教訓になることができれば」、「結果は期待したものではなかったが、犠牲を払った甲斐があった」も含めて、今季感動的な瞬間の3本の指に入るものだった。

残り2つの1つは以前に書いた開幕節のアスレティック・ビルバオ、アドゥリスのゴール。リーグ中断中に引退してしまったことも感慨を深くした。もう1つはベティス、ホアキンの38歳にして初のハットトリック。これは目の前で見たので、ベニート・ビジャマリンのお客さんの歓喜の爆発とセットで印象深い。ベテラン好きの私には35歳カソルラの11ゴール、9アシストの大活躍も嬉しかった。9回も足にメスを入れ、22カ月間後に復帰した奇跡の人の完全復活だった。

微細なPKは不公平感を増すだけ

PK本数が史上最多(149本)を記録したシーズンでもあった。

これでVAR導入以降2季連続の増加。ここにも書いたが、要はテクノロジーが微細なファウルを厳密にとった、ということだろう。

スローで見ると足が引っ掛かり手にボールが当たっている。が、それはあまりに軽微で人間の目にはほとんど感知不能なレベル。それでも足がもつれただろうし、ボールの軌道も変わったろう。それは確かだ。

だが、狭いペナルティエリアならそのくらいのことは日常茶飯事であり、それが1得点・1失点に相当するサッカー的な大事件であって良いのか?

私が監督であれば選手にこう指示する。「エリア内ではドリブルで突っかけろ。うまく行けばPKがもらえる」と。たとえ成功率が低く、なおかつ成功してもゴールチャンスに直結しないドリブルでも、足さえ引っ掛かればほぼ1点なのだから。

VARはオフサイドをミリ単位で裁くことにおいては頼りになる。が、触れた程度の接触をPKとしてしまわないために人間が介入すべきではないか。その程度なら笛を吹かない、という判断である。それで不利になるケースもあるだろうが、得点に相応しいプレーが得点に繋がる、という点で、全体的には公正さが増すのではないか。

沈んで見えた乾、序列上った久保

最後に、日本人選手2人について一言。

古巣に復帰した乾のパフォーマンスは期待を裏切るものだった。同じ戦術で同じポジションなのに2ゴール、3アシストはエイバルでは最も悪い数字。守備ではプレスはするし、背走もするし、ポジショニングにもミスが無い。が、肝心の攻撃で、もっと正確なセンタリングが出せるはず、もっと鋭いシュートが撃てるはず、と思わされる場面が目立った。なぜだろうか、我武者羅にやっている感じが例年よりも伝わってこなかった。諦めが早いというか、悔しがり方が少ないというか。多分メンタル面の問題だと思うので、来季は巻き返してくれるものと期待する。

久保は最高の形でシーズンを終えた。序盤の守備面の不安(攻守の切り替えの遅さ)が解消され、攻撃面では4アシスト、4ゴール。が、そんな数字以上に、そのクオリティの高さ——ボールを失わずより良い状況でパスを戻してくれる、狭いスペースでドリブル打開ができ、思い切りの良いシュートが正確——で、誰もが探す存在になっていた。久保に預ければ何かやってくれる、という存在感である。精神的にもたくましく、降格のプレッシャーにも逃げ隠れせずポーカーフェイスでパスの受け手を買って出ていた。

リーガ1年目で19歳になったばかりで、チーム内でこれだけのヒエラルキーを確立できた選手は思い当たらない。活躍する新顔というのは、チームの序列の中でパーツとして、先輩のサポート役として輝く、というのが普通の姿なのだが。リーグ中断でも尻上がりのカーブは途切れず、終了したのがもったいないくらいだった。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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