【木村浩嗣コラム】思ったよりも情熱的に、リーガが帰って来た!
text by 木村浩嗣
リーガが再開した! まずはおめでとうだ。
まさかこんな短期間で戻って来るとは思わなかった。感染再拡大の恐れも今のところ杞憂に終わり、緩和のステップも急ピッチ。感染の影響が小さかった久保のいるリゾート地マジョルカ島では、何と外国人観光客を受け入れ始めた。当然、スタジアムに観客を入れるべきという議論が高まっており、国が「コンペティション上不公平だから」とストップを掛けているものの、もしかすると7月からの観客一部動員があるかも——そのくらい明るい、1カ月ほど前なら信じられないほどの楽観的な空気が漂っている。
ゴールセレブレーションは以前並み
そんな中での再開だったがいろいろ面白いことがあった。
まずゴールや勝利を思い切り祝っている! 抱き締め合っている! ソーシャルディスタンスを全然守っていない! 思ったよりも情熱的で無秩序な再開だった。
スペインはドイツとは違う。スペイン人とドイツ人は違う。よってラ・リーガはブンデスリーガとは違うのである。
熱烈なセレブレーションは衛生学上はよろしくない。が、ここでも何回も書いてきたが、徹底的に消毒された場所で、PCR検査を何度も受けて陰性が確認されている選手やテクニカルスタッフの間で感染する可能性は、とてつもなく小さい。無ウイルスゾーンで無ウイルス者によって競技されているのでなければ、無マスクでシャツを引っ張り合ったり足を引っ掛け合ったりはできない。
グラナダ対ヘタフェでは33のファウルの笛が吹かれ、10枚のイエローカードが出た。選手たちはフィジカルコンタクトを怖がっていない。感染を怖がっていてはサッカーにならず、手加減しながらのプレーではコンペティションの公正さにも影響する。
もちろん、選手の行動が子供の見本という点は良くない。感染を正しく恐れて行動すべき子供は、以前と同じ様にストリートサッカーをしてはいけない——そう言い聞かせるのは親の仕事だろう。
マジョルカ対バルセロナではグラウンド上の闖入者も現れた。無観客でスタジアム内も周囲も厳重に警戒されている中で警備に穴があった。ゆゆしき事態だが、そういうところもこの国らしい。
給水タイムが文字通り“水を差す”
ただ、前回の記事で期待していた監督や選手の声を聞ける、は期待外れだった。
どうやら集音マイクの数を減らしたらしく、テレビ観戦では内容まで理解するのは難しいことがわかった。それにスタジアムのスピーカーという思わぬ敵がいた。大音量で流される録音の歓声や拍手でリアルな音が掻き消されてしまうのだ。
これ、デジタル処理によってバーチャルな応援をかぶせることはあっても、アナログ処理でスタジアムを音で満たすのはしない約束だったはずだが、どうなったのだろう?
マジョルカ戦の翌14日、バルセロナのツイッターに給水タイム中、メッシがDF陣に指示を与えている写真が「オー、キャプテン!私のキャプテン!」というコメントとともに載った。
メッシのキャプテンシーには私だけではなく誰もが注目しているのである。だが、彼が何を言っていたかはまったくわからなかった。
あと、一つ気になったのは5人の交代(ハーフタイムの分を除き回数は3回まで)+気温に関係無く実施される2回の給水タイム+VARやファウルによる中断でたびたび試合が止まり、「流れ」が切れたり変わってしまうこと。
久保の強烈なFKを最後に給水が行われ、マジョルカの押せ押せムードに文字通り“水が差され”、メッシの檄もあってか再開直後にバルセロナの追加点が入り勝敗が決してしまった。
「流れ」というのは、プレーヤーの不安や自信などの心の状態によって、優勢になったり劣勢になったりすることを指し、重要な番狂わせの演出者である。
無観客で、観客の歓声やブーイングという心を搔き乱す大きな要因はすでに失われている。そこに、給水による冷静さを取り戻せる「間」が加わって、さらに1チーム最大5人の新しい風が吹き込まれるとなると、想像できるのは、混乱とアナーキーさが抑制されたサッカーである。そうなると、順当な勝利が増えそうである。
数々の試合中断がもたらす影響と有利不利については、今後も注目して見ていきたい。
photo by getty images
text by 木村浩嗣
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