【木村浩嗣コラム】矛盾だらけの“新しいサッカー様式”。リスクを負う決断をしたサッカー界

  • 2020/05/22

text by 木村浩嗣

2カ月以上ぶりにやって来たおじいちゃんを見た孫は、おもわず飛びつきました。おじいちゃんは彼女を抱き上げ頬をすり寄せました。微笑ましい光景です。

でも、これはアウトです。親戚の訪問は許されても、ソーシャルディスタンスのルールは厳然と生きているから。下手すると罰金です。

ゴールを決めたヘルタ・ベルリンの選手たちは抱き合って喜びました。監督と肘タッチする者もいました。おじいちゃんと孫ほどの感動はありませんが、理解できる反応です。

で、こっちはセーフです。ソーシャルディスタンスは「お勧め」であって「強制」ではないから。

ウイルスフリーだからサッカーは可能

一足早く再開したドイツリーグにはいろいろ考えさせられました。無観客のプレーへの影響というのは前の記事で大体想像した通りでしたが、感染予防という点ではいろいろ面白い光景がありました。

グラウンド入場はチームごとに別々に、試合前の握手は無し、コイントスは遠巻きに、ゴールセレブレーションは個別に、ボール拾いはわずか4人、控え選手たちは間隔を空けマスクを着けてスタンド最前列に座っていて、勝利チームは空のゴール裏に向かって気勢を上げる……。

どうやら遠隔で行われたらしい記者会見で、ヘルタ・ベルリンの監督は選手たちをかばいました。「我われは昨日検査を受け、これまで外部とは接触していない」と。そう、チームは練習開始から試合までPCR検査を何度も何度もクリアしてきているのです。

WHO(世界保健機関)は、人工物(ドアのノブとかボールとか)を介しての感染の証拠をまだ見つけられていません。が、用心するのに越したことはないから、ボールもロッカールームもベンチも通路も誰もいないスタンドさえも消毒済みです。チームが動くエリアというのは“ウイルスフリー”(無菌ならぬ無ウイルス状態)なのです。

人も物もウイルスフリー。

だから、ペナルティエリア内でシャツのつかみ合いをするのも、タックルで相手を引っくり返して危険なカウンターを止めるのも衛生上は許されています。ファウルではあってもソーシャルディスタンス違反ではないのです。

前半終了の笛が鳴るともうプロトコルを忘れて両チームは一緒に引き上げていましたし、交代に備えグラウンドの隅でウォーミングアップする控え選手たちの間隔はどうみても1メートルほどでした。

でも、感染予防という点でみればそれでも問題はありません。むしろウイルスフリーなのにソーシャルディスタンスを守る、というのが矛盾しているのです。

一方、あのおじいちゃんと孫はPCR検査を受けていないでしょう。よって、ソーシャルディスタンスを守らないと感染を防げない。もっと言えば、いつかかかるかもしれないという恐怖とともに生活していかないといけません。

特別な世界でのみ戻ってきた日常

WHOは「(都市封鎖の)すべての段階的緩和は新規感染を招く」と警告しています。

その通りです。人が動き集まるたびに感染の可能性が高まります。感染防止のためには家の中に閉じ籠り続けるのがベストです。

しかし、それでは経済活動は滞り人間的な生活は還って来ません。だからサッカーはリスクを負って再開することに決めました。そのために万全の措置をとることに決めたのです。

感染が最も拡大したマドリードとバルセロナではまだグループでの運動は認められていません。街で子どもたちがボールを蹴っているかどうかはわかりませんが、本来は禁止であり罰金の対象になります。

だけど、バルセロナの練習場でもレアル・マドリードの練習場でも選手たちが久しぶりのロンド(鳥かご)やミニゲームを楽しんでいます。

政府はリーガに特別な許可を出しました。症状がある人にしか認められていないPCR検査を無症状の選手に実施すること、リーガのクラブを所属地域の規制緩和の例外とすることです。バルセロナとマドリードのクラブだけが個人練習に留まったままだと、リーガ再開時にコンディションがそろわず、大きなハンデになりかねませんから。

サッカーのある日常を取り戻すためにリスクを負うことを決め、そのリスクを最小限にするために特別な扱いを受け、ウイルスフリーという非日常的な環境を手に入れた。そこには「一般」と「特別」と「日常」と「非日常」という、本来は相容れない文脈がごちゃごちゃと共存しています。

サッカー選手は子どもたちのアイドルであり見本ですから、ソーシャルディスタンスは守った方がいいです。でも、芝生の上の彼らには本来必要ありません。マスクだって外しても構わない。

矛盾しています。
が、それがウイルスとの共存という“新しいサッカー様式”なのかもしれません。

※原稿に関しては5/20時点執筆。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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