【木村浩嗣コラム】「無観客試合」という避けられない現実が、サッカーに与える影響は?

  • 2020/04/24

text by 木村浩嗣

スペインでは今日4月21日で非常事態宣言が出て39日目、外出禁止が少なくとも5月9日までは続くのだが、ようやく状況好転の兆しがみられる。来週27日から14歳以下の子どもの外出が許されることになったのだ。緊急事態宣言下でも自粛でしかない日本では想像しにくいことだろうが、子どもたちはもう1カ月半も家に閉じ籠ったままなのだ。

この一歩前進の次の一歩は5月9日に予定通り非常事態宣言が終了することで、そうなれば5月中旬に練習再開、6月上旬のリーガ再開という、前回の記事で紹介したスケジュールも現実味を帯びてくる。

ホームアドバンテージは消える

とはいえ、子どもがやっと外に出られることから、彼らを含む観客がスタジアムを埋めることの間には、途方もない距離がある。スペインにいる私も日本にいるみなさんも、「無観客開催という現実」を受け入れる時に来ているようだ。前回書いた最大のネック、選手の陽性を避けるのにはそれしかない。

無観客はサッカーを変えるだろう。

無観客だった中断直前のエイバル対レアル・ソシエダ、2017年のバルセロナ対ラス・パルマスでは、空っぽのスタジアムで選手や監督の指示がよく響いていたのが印象に残っている。ゴールが決まっても歓声はなし。あれは練習中のミニゲームを想わせる光景だった。

はっきりしているのは、ホームアドバンテージが消えることだ。

ホームアドバンテージはプレーし慣れたグラウンドという物理的な条件の他に、観客のプレッシャーという心理的な条件によって生まれる。応援が味方選手を振るい立たせ、ブーイング(スペインの場合は「罵倒」という表現の方が近いが)が相手選手と審判を委縮させる。この差がプレーの的中とミスを分けるのだが、無観客だとこれが無くなるので、ホームとアウェイの差は最小限になる。

足が縮こまってミス、というのは減るかもしれない。ただ、プレーレベルが上がるかどうかは別問題で、スポーツ心理学の専門家からはモチベーションの欠如が指摘されている。確かに空のスタンドでは選手の自己顕示欲が満たされない、というのはあるだろう。

要は、緊張してのミスは減るかもしれないが、その反面、大胆なプレーをしようとか、魅せるプレーをしようとかのチャレンジ精神の方も失われかねない。無観客でプレッシャーがいなくて得するのは、“心理的なミスジャッジ”とも言えるホームタウン・デシジョンが減る審判だけかもしれない。

モチベーター、戦術家の監督は輝く

もっとも、応援の欠如をプライドや負けず嫌いの性格、責任感といったもので克服する選手の姿も容易に想像できる。

子どものミニゲームですら監督の話術でヒートアップさせることができる。モチベーションを上げれば子どもたちはグラウンドの外がまったく見えなくなる、というのが私の指導者としての経験だ。まして、選手はプロである。無観客にもすぐに適応することだろう。

ただ、モチベーターとしての監督の能力が重要になる一方で、サブのモチベーターとしての心理カウンセラーのサポートが不可欠になるのは間違いない。グラウンド外での感染を防ぐため、チームをホテルで長期間合宿状態にするプランが浮上している。閉じられた空間で限られた人とだけ接する選手とスタッフへの心理的なケアは絶対に必要だ。

無観客は試合を戦術的にする、という見方もある。普段なら掻き消されて聞こえないベンチからの指示が選手に的確に伝わるからだ。

プロレベルの試合では選手の並びを変えるような大きな戦術変更は、ハーフタイムの間でしかできない。これ、逆に私が指導していたようなアマチュアレベルではプレー中でも声が届くから可能なのだ。

特に経験から言って、セットプレー時のマーク漏れは密集の中の選手たちよりもベンチからの方がよく見える。指示が伝わらず悔しい思いをした監督も多いだろうが、それが改善される。

もっとも、指示は相手にも筒抜けになってしまうので、チーム内だけで通用する合言葉を作っておくべきだろう。これもアマチュアレベルでは当たり前にやっていることだけど……。

大逆転やカオスは起きにくくなる

この戦術の伝達し易さと、すでに述べた心理的なプレッシャーからの解放とを合わせると、試合が落ち着いた、整理されたものになるのは避けられないだろう。

相手があるスポーツだから、事前のシナリオ通り、という訳にはいかない。だが、シナリオの修正はリアルタイムで可能である。

逆に言えば、サッカー特有のクレイジーな時間帯というのが失われる。

歴史に残る大逆転劇というのは、大観衆の下で選手が良い意味でも悪い意味でも我を失うことで起こってきた。が、失点してもすぐに平静を取り戻せるなら連続失点は喰わない。カオスにはならない。

例えば、昨季のCLリバプール対バルセロナで起きたような大逆転劇は、心理的な混乱下でしか起こり得ない。あの有名な不意打ちCKは、無観客でならベンチの一声で不意打ちになっていないのだから。

無観客はサッカーを必ず変える。

無くなってみて改めて、私たちはテレビ画面で背景に過ぎなかった観客の大事さを認識し直すのだと思う。

※原稿に関しては4/21時点執筆。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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