【木村浩嗣コラム】決定力の「無い」男がクラシコを決めて……。ヴィニシウスは変われるか?

  • 2020/3/6

text by 木村浩嗣

サッカーって面白いなって瞬間がある。

先日のレアル・マドリード対バルセロナ、ヴィニシウスが決勝ゴールを決めたシーンのことだ。前々回のコラムで、『決定力は「有る」か「無い」か』と書いたが、ヴィニシウスは「無い」の代表だ(失礼!)。その「無い」彼が「無い」ゆえに、優勝争いを左右しかねないゴールを決め、今後は「有る」になるかもしれないのだ!

どういうことか? 順を追って説明しよう。

狭いスペースでの加速で相手を置き去りにし抜き去ることにおいて、ヴィニシウスは傑出している。

スペースが必須で無いスピードスター

スピードのある選手は普通、スペースを必要とする。ベイル(レアル・マドリード)やウィリアムズ(アスレティック・ビルバオ)はそうだ。が、ヴィニシウスはスペース、つまり、走る距離が短いことをさほど苦にしない。止まった状態からのスピードを上げる加速と、それを何度も繰り返すリズムチェンジを高いレベルで持っているからだ。

3人の快走シーンを思い起こして欲しい。

ロングボールへ反応してベイルとウィリアムズが裏へ抜け出して突っ走るのに対し、ヴィニシウスの場合はドリブルを仕掛けてマーカーを抜く。ベイルとウィリアムズの足下にはボールが無くマーカーはすでに引き離されているが、マーカーの横をこすり抜けるようなヴィニシウスの足下にはボールが有る。

そんな、抜くことにかけて恐らく今リーグナンバー1のヴィニシウスだが、抜いて相手ゴール前に出た後がいただけない。みなさんも記憶を辿って欲しいが、とにかくシュートが枠に飛ばない。惜しいとか好セーブに阻まれた、というのではないのだ。

居残り特訓で鍛える技術と心

これ、技術の問題だけとは言えない。

というのも、センタリングの方は極めて正確だから。特に今季は誰のどこにどんな質のボールを送り込むかの精度が格段に上がっているように見える。

“ダダッと走り込んでそのまま勢いに任せて撃ってしまう。シュートする前の「間」が無い”という批判には一理ある。足を止め、マーカーを飛ばし、ルックアップし、ボールを叩く。これを一瞬のうちにやれれば精度は上がる。が、繰り返すが、センタリングの際には「間」が作れているのだ。シュートは焦って撃ってしまう、というのはやはり心の問題だろう。

本人もシュート力の無さ、決定力の無さを自覚していて、ジダンの注視の下、居残りのシュート練習をしている、と聞く。

ボールを運んで蹴るだけのシュート練習は、単純な反復練習で“時代遅れ”とされる。だが、成功イメージを繰り返すことで“決められる”と思わせて実戦での成功率を上げる効果はある。ヴィニシウスの居残り特訓も技術練習兼メンタルの練習でもあるのだろう。

あのシーン、ピケが寄せなかった理由

あのクラシコでヴィニシウスが抜け出した時、ピケは寄せてシュートコースを塞がなかった。ニアへのシュートよりもセンタリングを警戒したかのように中央で待ち構えた。で、ヴィニシウスが撃ちそうな態勢になって、慌てて飛び込んだ。結果、ピケの足にシュートが当たりコースが変わってGKが反応できなかった。

あれは、ヴィニシウスのシュートの精度を熟知していたからこその判断ミスでは無かったか? あれがベンゼマだったら迷わずニアに寄せてアングルを消していたのではないか?

決定力が「無い」から逆に守備側が迷った。で、迷ったからリバウンドで逆にゴールをアシストする結果になった――。

一方、ヴィニシウスの方は「五分の確率なら迷わず撃て!」とハーフタイムにカゼミーロに叱咤されていたようだ。シュートかパスか迷ったら、つまり、五分五分の可能性に見えたら撃て、というのは子供たちへのアドバイスとしても正しい。

世界最高峰の頂上を争う決戦の勝敗を分けたのが、こうしたシンプルで意外性のある心理的な駆け引きだったというのは、やはり面白い。

成功体験が覚醒をうながす

そうして、このあんまり実力とは言えないようなゴールをきっかけに、ヴィニシウスは本物の実力者になるかもしれない。

「開眼」とか「覚醒」とか呼ばれる瞬間を、私のような少年サッカーの指導者でも何度か目撃している。練習を積んで徐々にうまくなるのが普通なのだが、あるプレーをきっかけに爆発的にうまくなる者もいる。そうして、そのプレーはゴールであることが圧倒的に多い。例えばCBがセットプレーでゴールしたなんてことでも、本職のCBとしてのプレーが急にレベルアップすることがある。サッカーにおけるゴールが、いかに強烈な成功体験なのかの証明だろう。

実はヴィニシウスは今季リーガで18試合810分(第26節クラシコ終了時)しかプレーさせてもらっていない。ケガではなく監督の判断によるものだ。そんな、冬にはレンタル移籍の噂さえあった男が、もしかすると大変身するという夢のあるストーリーが、あの偶発的なゴールから始まるかも――そう想像すると、やはりサッカーはやめられない!

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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