【木村浩嗣コラム】特殊な状況で人種差別は現れる。サッカーとか……コロナウィルスとか

  • 2020/2/21

text by 木村浩嗣

サッカー界でこのところ黒人選手への人種差別のニュースが相次いだ。

スペインでは1月25日リーガ第21節エスパニョール対アスレティック・ビルバオでのウィリアムズへのモンキーチャント事件、14日にはイタリアのセリエA発のニュースとして、カリアリがモンキーチャントをした3人のファンをスタジアムから永久追放することを発表。ポルトガルでは2月16日ポルトのムサ・マレガへのやはりモンキーチャント、念のために言うと、モンキーチャントというのは、黒人を猿と見なして「ウッウッウッ」と鳴き真似を浴びせるという酷いものだ。

殴り掛かりたくなる、屈辱体験も減少

人種差別というのは屈辱的な体験だ。

どのくらいか、というと反射的に殴り掛かりたくなるくらい。こう、体の底から怒りが湧き上がって来る感じだ。だから、マレガが試合を放棄した、というのは良くわかるし、ウィリアムズの反応がスタンドに食って掛かる程度だったのには、その自制心に感心する。

スペインサッカー界には、いやスペインには、人種差別は存在する。黒人やアジア人への人種的偏見はある。

が、ずい分少なくなった。

スペインのスタジアムでモンキーチャントを初めて耳にしたのはもう20年以上前だが、ここ数年めったに耳にすることは無くなった。街を歩いていて「キェー」と奇声を上げ空手の真似をされること(ブルース・リーの影響だ)や、すれ違い様に「チーノ!」(「中国人」の意だが、時に東洋人全体への蔑称)などと叫ばれることも、ここ10年近く経験していない。

厳罰で子供を「反教育」から守る

この「数が少なくなった」というのは非常に重要なことだ。ウィリアムズへのモンキーチャントも12人の仕業であることが明らかになっている。少数だからと言って差別を正当化できないが、これが1万2000人の仕業であるというよりはずっと良い。

良い機会である。

彼ら12人に対しては永久追放なりスタンドの一部閉鎖なりの厳罰で、人種差別がどういう結果を招くかを知らしめる悪い見本になってもらおう。

ウィリアムズは「子供たちが大人の真似をするのを避けたい」と言っている。つまり、現在よりも未来を守りたいという発想だ。これは正しい。ただ、「人種差別は良くない」と教育していくのは時間がかかるし、すでに差別と偏見で凝り固まっている大人には効き目が薄いかもしれない。よって、彼らには厳罰によって身に染みさせる、というやり方もある。

大好きなサッカーを取り上げれば、反省はしないかもしれないが、とりあえずスタジアムからモンキーチャントは消滅する。

これで子供が守れる。

敵、味方という文脈で差別は現れ消える

差別というのは、異なるものへの恐怖から生まれるのだそうだ。

恐怖の段階では心の中に潜在しているが、拒絶のアクションとなって初めて顕在化する。サッカースタジアムは「敵意」――という言葉が強いなら「ライバル意識」と言い換えても良い――が現れやすい場所である。

エスパニョールにはナウドという黒人選手がいる。が、彼に対してエスパニョールファンがモンキーチャントを浴びせた、という話を聞いたことが無い。なぜか? 単にナウドは味方で、ウィリアムズは敵だからだ。

敵意に煽られる格好で、普段は潜在化している人種差別が顕在化して来る。繰り返すが、そうなるのはごく一部の者だけ。ほとんどの常識のある者には、衝動を抑えて過ちを犯さない理性というものが存在する。

要は、「たかがサッカーじゃないか」と思えるか否かである。

人種を超える、サッカー人の同胞愛

一方で、「スペインサッカー界には人種差別が無い」という話も体験談としてしておきたい。

日本人の私がサッカー先進国スペインで監督ライセンスを獲り、クラブやスクールで采配を執るのに人種で差別されたことは一度も無い。少なくとも私の耳に入ったり、見たりしたことは無い。これは不思議なことだった。

すでに書いたように、街で普段着なら嫌な体験もあったのに芝生の上でユニフォーム姿なら皆無なのだ。相手チームの監督や選手からすれば私は「敵」なのにである。

サッカー界には同じグラウンドに立つ者の間に人種を超える同朋意識というものが、あるように感じた。私はアジア人だが、サッカーをしている限り私は仲間であり、彼らの一部なのだ。

もっとも、父兄のいるスタンドからはこの限りでは無かったろう。悪口だって言われたに違いない。だが、それはスペイン人の監督にも共通する悩みだった。

フィジカルコンタクトの濃い国ゆえ…

最後に、人種差別を顕在化させる要因としてのコロナウィルスにも一言。

スペインはフィジカルコンタクトが濃い国である。異性間の挨拶がそもそも頬へのキス2回と抱擁という国なのだ。数日前、前バルセロナ監督のエルネスト・バルベルデと立ち話する機会があったが、「『日本で監督したい』って書いていいですか?」と話し掛けた私への最初の反応が、“こっちへ来い”というふうに肩を抱き寄せることだった。この近さ! これがスペインである。

モバイルフォンの大きな国際見本市がバルセロナで中止されたばかりだが、今のところ挨拶を拒否されたなんてことは無く、相変わらず抱擁とキスあるいは握手である。ただ、マスク姿の東洋人は街からいなくなった。あれは差別される恐怖なのだろう。

感染の恐怖が我われアジア人への差別となる、というのはありそうだが、今のところスペインでは起こっていない。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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