【木村浩嗣コラム】「アグレッシブ」と「オフェンシブ」の違い。ヘタフェは守備的なチームか?

  • 2020/1/14

text by 木村浩嗣

まずみなさんに質問したい。

ヘタフェは守備的ですか? それとも攻撃的ですか?

2020年最初の試合、ヘタフェ対レアル・マドリードをご覧になった人は思い出してほしいし、ビデオがある人はぜひ見直してほしい。

あの試合(特に前半)のヘタフェの振る舞いはどうだったか? レアル・マドリードが攻撃的であることには疑いがないだろうが、ロングボールをより多用していたのはどっちだったか? より敵陣に攻め込んでいたのはどっちだったか?

攻撃的と守備的という言葉の定義については何度か書いてきたが、改めて記しておきたい。

「攻撃」とは何か?

スペインサッカー連盟の定義は極めて明快だ。「マイボールで行うすべてのアクション」である。もう20年近く前、この定義を監督ライセンス講座で習った時、私はこう解釈した。「攻撃状態が長い、つまりマイボールの時間が長いチームが攻撃的である」。単純に、ボール支配率の高いチームが攻撃的で、低いチームが守備的である、というふうに。

ボール支配率は指標となり得るか?

ボール支配率の高い方から低い方へ20チームをランキングしてみた。すると、1位バルセロナ、2位レアル・マドリード、3位セビージャ、4位レアル・ソシエダ……17位マジョルカ、18位ヘタフェ、19位アラベス、20位レガネス、となる。上位だけ見ると、何となくこの定義で良いように見える。が、18位のヘタフェを「守備的」とするのには、ヘタフェ対レアル・マドリードを見た後では納得できない。

なにせ、敵陣にGKを除く10人を送り込むこともしばしばあったのはヘタフェで、その猛烈なプレスをロングボールでほうほうのていでかわしていたのはレアル・マドリードだったからだ。

考えてみれば、ボールを支配していても相手ゴールを目指しているとは限らない訳で、自陣でボールを回せばボール支配率はぐんぐん上がるが、そんな横パスやバックパスに時間を費やすチームを「攻撃的」と呼ぶのは抵抗がある。

あのヘタフェのように敵を押し込む状態を「攻撃的」し得る指標はないものか?

スペース支配=攻撃的、という考え方

そこで登場するのが、「スペース支配」という考え方である。ボールを支配していなくてもスペースを支配し、相手チームをゴール前に釘付けにしてしまえば、それは「攻撃的」なのではないか?

実は、ヘタフェは守備的なゾーン(自らのゴールから3分の1のゾーン)で過ごす時間が最も少ないチームなのだ。その少ない方からのランキングがこちら。

1位ヘタフェ、2位エイバル、3位バルセロナ、4位レアル・マドリード……17位バジャドリード、18位ベティス、19位レバンテ、20位バレンシア。

次に、攻撃的なゾーン(相手ゴールから3分の1のゾーン)で過ごす時間の長さでランキングすると。

1位エイバル、2位ヘタフェ、3位レアル・マドリード、4位バルセロナ……17位セルタ、18位アラベス、19位バレンシア、20位バジャドリード。

ボールはほとんど持てないが(支配率18位)、スペース的な優勢(守備ゾーンでの時間の短さ1位、攻撃ゾーンでの長さ2位)を保っている典型的なチームがヘタフェなのだ。

どうやってゾーン的な優勢を保つか? これはヘタフェやエイバルの試合を見ればすぐにわかるはずだ。

最終ラインをセンターライン付近にまで上げ、相手陣内に多くの選手を送り込んで前からどんどんプレスを掛け、ボールロストを誘って相手ゴールを急襲する――。ボールを持てないから攻撃はカウンターにならざるを得ないものの、相手陣内深くで奪って直ちに攻撃に転ずるいわゆるショートカウンターが中心だから、センタリングやシュートで終わる確率は高くなる。

素晴らしいヘタフェの戦術的進化

こういうヘタフェやエイバルのようなチームをスペインでは「アグレッシブ」と形容する。

ボールを持たないから「オフェンシブ」とは呼べないもののインテンシティが高く、プレスでボールロストを誘うという意味ではイニシアティブを握っている、とも言える。ボールロストを「待つ」のではなく「誘う」というのは受動的ではなく、能動的なアクションである。

イニシアティブを握るのに今も昔もボール以上のツールは無いが、それが唯一ではない。スペースを支配することでもイニシアティブを握れる――それに気が付いた時は、あの監督ライセンスの講座からかなり経っていた。ボール支配のみで攻撃的か否かを判断するのは時代遅れで、スペース支配に代表される他の指標も勘案され、今は総合的に判断されつつある。

最後に、ホセ・ボルダラス監督率いるヘタフェの戦術的進化について述べておきたい。

17-18シーズン、昇格したばかりのヘタフェは「専守防衛」のチームだった。最終ラインを下げ、ボールの後ろに選手を割き、自陣に籠ってロングカウンターを狙う、という典型的な弱者の戦法を採っていた。ボールを持てずスペースも支配できない、アグレッシブでも何でもないイニシアティブを譲りっぱなしの受け身のチームだった。

それが攻守のタレントを補強し最終ラインを徐々に上げて、ベイルやベンゼマがいて最終ラインの裏を突かれれば一巻の終わりというレアル・マドリード相手にすら、GKを除く10人を敵陣に入れるという自分たちの勇敢なサッカーを貫き対抗するまでになった。お陰で、スコアは大差(0-3)になったものの、試合は最後まで緊張感を失うことがなかった。リーガナンバー1のロングカウンターチームに最終ラインを上げて挑んだ、バレンシア対エイバルも同じである。

リーガが「攻撃的だ」と呼ばれるのは、バルセロナやレアル・マドリードのボール支配のせいだけでなく、ヘタフェやエイバルのスペース支配のせいでもあるのだろう。勇敢な弱者の存在はスペクタクルさのアップに間違いなく貢献している。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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