【木村浩嗣コラム】VARには課題の多かった1年。人間か? 機械か? 新年はどっちに進む?

  • 2019/12/26

text by 木村浩嗣

リーガで昨季から導入されたVAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)だが、新たな課題が明らかになった1年だった。

「線引き」においてVARに勝るものはない。

オフサイドか否か、ペナルティエリア内か否か、ゴールが入ったか否か、サイドラインを割ったか否かについては、テクノロジーは人間の目には不可能なわずかな差を検出し公正なジャッジをしている。競馬で「鼻の差」というのがあるが、最終DFと最前線のアタッカーの間にある鼻の大きさ、スパイクのサイズの違いを含めた2本の線引きをし、数センチの精度でオフサイドだったかオフサイドでなかったか、正しく判断している。

「線引き」には人間を超える高精度

「正し過ぎないか」という議論はある。

先日もUEFA会長が「鼻が大きければオフサイドになる」と苦言を呈していた。最終的にジャッジするのは主審だとしても、機械に識別を担当させればとことんまで精度を追求する。そこに妥協や曖昧さは無い。近い将来、数ミリ単位でオフサイドを検出することが可能になるだろう。

こういう機械任せに対して「人間味が無い」という批判は常にあったし、これからも無くならないだろう。杓子定規の機械を前にして、人間らしくミスジャッジがあった時代に戻ろう、というノスタルジーを抱くのは人間の性である。だが、オフサイドを正しく適用している点においてVARに疑問を呈することはできない。

VARが、オフサイドなど線引きが必要なルール適用に関してのミスジャッジを劇的に減らした。人間の肉眼が減らせないレベルまで減らした、というのは厳然たる事実なのだ。

ピケ、ヴァランへの疑惑のPK。その時VARは?

だが、今VARで問題になっているのは、「VARを使うな」という話ではない。その逆、「なぜVARを使わないのか」という話である。

レアル・ソシエダ対バルセロナの後半ロスタイム。エリア内で攻撃参加したピケが、ソシエダのジョレンテ・リオスにつかまれ倒されたように見えたシーンがあった。スロー再生を見ると引きずり倒しているのは明らかである。が、主審はPKの笛を吹かなかった。彼の立ち位置からは見えにくいアクションだったが、耳に手を当てVARの判断を仰ぐこともしなかった。その試合では同じようなプレーでセルヒオ・ブスケツがファウルを犯し、PKの笛が吹かれているのに……。

その名にあるようにVARは「アシスタント」に過ぎない。VARに耳を貸すかどうかも含めて最終判断は主審にあるのだ。その結果、一方で、肉眼で見えない数センチ差でのオフサイドを検出しながら、一方で、誰の目にも明らかなシャツをつかむ行為が見逃される、というちぐはぐが起きた。

「機械並み」を要求される審判の苦しみ

クラシコではこんなシーンがあった。

バルセロナのエリアで攻撃参加したヴァランに対しファウルと思われる2つのアクションがあった。ラキティッチがシャツをつかんだことと、ラングレが太腿を蹴ったこと。どちらの行為もスロー再生では明らかだったが、問題はそれがPKに値したか否か。すぐに主審はVARに耳を貸した。そしてノーファウルを宣告した。

昨季の導入時、VARは「ミスが明らかな時のみ介入する」とされた。だが、実際にはVARはすべてのプレーをモニタリングしており、ゴールの度に数分間もプレーが中断することが日常化している。この時も主審は、前述の2つのアクションの他、ベンゼマがハンドか否か、ピケがクリアしたボールがゴールラインを割っていたか否かの4つのプレーでVARの判断を参考にしていた、という。

ピケへの疑惑のPKも、ヴァランへの疑惑のPKも、VARが無い時代なら「見逃し」とか「解釈の差」、で済んでいたのだが、今はVARがオフサイドをあまりに厳密に裁くようになったせいで、もう一方の、線引き以外の人間の解釈が介入するアクションについても曖昧さを許せなくなっているように感じる(実際には、単純なことを高精度にこなすだけの機械には、「解釈」などという超複雑なことは到底不可能なのだが……)。

問題解決へVARの権限を増やす? 減らす?

審判を助けるはずのVARの登場で、「機械並みの水準を要求される」という新たな審判の苦しみが加わった。

解決には2つの方向性がある、と思う。

VARに強制介入権を与え、主審のチェックを義務とする。これはいわば、人のテリトリーを機械に譲る格好だ。

もう一つはその逆。UEFA会長が言うように「ミスが明らかな時のみ介入する」しかも介入は主審がOKした時のみ、という原点に戻る。これは人が機械からテリトリーを奪い返す形だ。

「人間対機械」という産業革命以降から続き今後どんどん顕在化するだろう問題に、サッカー界がどう対処していくのか? 審判とVARはどう共存していくべきなのか? リーガを通じて新年も注目していきたいと思う。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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