【木村浩嗣コラム】バルセロナ対マジョルカで考える、逆足と順足の有利と不利
text by 木村浩嗣
バルセロナ対マジョルカで活躍したメッシ、久保建英と、グリーズマンの違いが何か、わかるだろうか? 前者が「逆足ウインガー」で、後者が「順足ウインガー」なのだ。
逆足とは右利きで左サイドあるいは左利きで右サイドでプレーすることで、順足とは右利きで右サイドあるいは左利きで左サイドでプレーすること。メッシと久保は左利きだが右サイド、グリーズマンは左利きで左サイドを任されていた。
なぜ逆足だと対角線に動くのか?
利き足と逆あるいは利き足と同じサイドでプレーすることは、ドリブルの方向に決定的な影響を与える。メッシと久保のプレーを思い浮かべて欲しい。ボールを受けた彼らがどの方向へ運んで行ったか? 大半が対角方向だったはずだ。
利き足とは、ボールをより強く正確に蹴ることができるだけでなく、より強く速く一歩目を踏み出せる足のことでもある。みなさんも試してほしいが、右利きの人は右方向へ、左利きの人は左方向へより素早く動き出すことができるものなのだ。
メッシや久保がサイドラインを背負ってボールをトラップした時、動き出しやすくボールを運びやすいのは左側である。となると、自ずと内側へ、相手ゴールに向かって対角線に進むコース取りとなる。これはシュートを狙う意味でも都合が良い。対角線に侵入するにつれてゴールへの視界が開けてくる。しかもボールを蹴るのは左足なので、アングルもより広く確保できる。
逆足ウインガーの得点パターン
メッシの1点目は逆足ウインガーの特徴が良く出ていた。対角線に侵入し、マーカーが迎えに出て来たらペナルティエリアの縁を横走りしてアングルを探し、そしてシュート。左足から放たれたボールはファーポストの外側から巻き込むようにしてゴールに吸い込まれていった。久保も何度か試みたシュートはすべてこの「対角線→横走り」というパターンだった。
監督が逆足にウインガーを配置する時には、センタリングは期待していない。期待しているのはシュートであり、中へ切り込んでのゴールに直結する仕事である。
これはもちろん相手守備者も承知している。左利きのメッシと久保が右でプレーしている時に警戒すべきプレー、切るべきプレーは対角線方向であり、縦方向は捨てている。むしろ縦へ抜けて右足でセンタリングしてくれた方が、相手チームには助かる。なぜなら、精度は左足よりも落ちるし、ゴール前でハイボールのセンタリングを待っているのはほぼCF1人、バルセロナならルイス・スアレス、マジョルカならブディミールしかいないからだ。
グリーズマンは順足は苦手ではないが…
一方、グリーズマンは左利きの左サイド、順足ウインガーである。
2トップの1人だったアトレティコ・マドリード時代はゴールゲッターというイメージで、ジエゴ・コスタが落としたボールを拾って裏へ飛び出しそのままシュートというのが典型的なプレーだったが、バルセロナでは違う。左サイドに張って持ち味のスピードを生かせるチャンスを覗っている。それが最大限に生きたのが、テア・シュテーゲンのロングボールに反応して自陣から独走、ネットを揺らしたバルセロナの先制点だった。
サイドラインを背負い左足でボールを突っついて縦に飛び出し、マーカーを振り切って左足でセンタリングを上げる、というプレーは彼は決して苦手ではない。というのも、レアル・ソシエダ時代は左サイドを突破してアシストを稼ぐ順足ウインガーだったからだ。
グリーズマンが左サイドを背にしてボールを持った時、自分が動きやすくボールを動かしやすいのは利き足の方向である左、つまり縦である。しかも縦に飛び出せば、センタリングもストレスの無い体勢から左足で上げることができる。監督が順足ウインガーを起用する時は「縦への突破→センタリング」を期待しているし、相手の守備者もそれを警戒している。
結局ポジションと配置の不整合?
ただ、先にも言ったようにセンタリングのターゲットが1人しかいないので、エルネスト・バルベルデ監督がグリーズマンに期待するのは、縦突破+αだろう。2列目から上がって来たMFデ・ヨングや背後を追い越して来たSBジュニオルとのコンビで左サイドを崩し、シュートも撃って欲しい、といったところか。
彼の特徴からすればゴール前で自由にプレーさせたいところだが、それではメッシと役割が重なる。結局グリーズマンの悩みとは、“順足のサイドに追いやられたトップ下”という不自然さから来ているように思う。
順足のウインガーを置くチームは、2トップでゴール前のターゲットを2枚にしているチームが多い。典型的なのはバレンシア。今売出し中の右フェラン・トーレスと左チェリシェフの順足からのセンタリングを、ロドリゴとマクシ・ゴメスがゴール前で狙っている。
逆足SBはなぜ機能しないのか?
これまで逆足、順足ウインガーの特徴を挙げてきたが、バルセロナ対マジョルカではもう一つ逆足の例があった。それが右利きで左SBを務めたサストレだった。
ケガ人続出で右SBから急きょコンバートされたのだが、彼は穴となって対面の左SBセルジ・ロベルトの今季最高のプレーのお膳立てをしてしまった。利き足ではない左足で繰り出すサストレのステップは一歩遅れ、無理に右足を入れようとして背中を向けてしまうことすらあった。
サストレに限らず逆足SBは機能しにくい。今季の例では右利きながら左SBを任された中で合格点はバルセロナのネルソン・セメードだけ。レアル・マドリードのカルバハルは何とか守備の穴にはならなかったが、攻撃力が半減。左利きながら右SBに配置されたバレンシアのジャウメ・コスタは攻守ともに苦戦する試合が続いている。
SBの場合、逆足だと最もケアすべきサイドの守備で反応が遅れ、攻撃時にはせっかく突破しても利き足に持ち替えようとしてセンタリングのタイミングが遅れる。逆足ウイングには対角線侵入とシュートというメリットがあるが(その際サイドをフォローしたりケアしたりするのはSBである)、逆足SBにはサイドの攻守を放棄するというオプションは無い。サイドの側が利き足ではないデメリットだけが攻守で露呈してしまうのだ。
余談だが、今節はベティス対ビジャレアルでホアキンのハットトリックを目撃することができた。純粋なるウインガーで縦への突破を得意にしてきた彼は、かつては典型的な右利きの順足ウインガーだった。だが、縦へのスピードが衰えた今、技に生きる道を見出して左サイドで起用され始めた途端、この大爆発。38歳にして初のハットトリックは逆足ウイングだから生まれたのだった。
クラシコは優勝決定戦第一弾かも
最後に、感想を少々。
久保がこの試合マジョルカのMVPだったことを疑う者はいないだろう。スペインのテレビ局のフラッシュインタビューでは「自分はブーイングに値する」なんて、この国のサッカー選手からはめったに耳にすることのない謙虚な言葉を発していたが、プレーは大胆そのもの。闘志とチャレンジ精神にあふれ、しかも粘り強かった。精神的にも技術的にも負い目を感じさせるところはまったくなかった。バルセロナの選手とそん色無いプレーぶりだった、と言っていい。
バルセロナの方は一時期のもたつきから完全に脱した。軽快なパスサッカーと激しいプレスはグアルディオラ監督時代の黄金期を想わせた。レアル・マドリードの方も同じく尻上がりに調子を上げ、今季最高の状態。第16節は3位以下との差も広げ、「2強時代の再来」を強く印象付けた。18日のクラシコはもしかすると“優勝決定戦第1ラウンド”になるかも。
photo by getty images
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