【木村浩嗣コラム】ありそうで無い? 無さそうである? 選手経験と監督力の相関関係

  • 2019/11/29

text by 木村浩嗣

今は残念ながら退任してしまったが、スペイン代表の前監督ロベルト・モレーノは、史上初めてのプロ選手経験の無い代表監督だった。予選を首位で突破してUEFA EURO 2020TM に導いた彼が優秀な監督であることは疑いない。

そこで問う。

名監督になるのに選手経験は必要だろうか? 今回はこの古くて新しい議論について書いていこう。

元エリート選手が半数。未経験は2人

リーガの監督20人を選手時代のキャリア別に分類するとこうなる。

カテゴリー【1】:エリートプレーヤー出身者(1部リーグ経験者)10人
ジネディーヌ・ジダン(レアル・マドリード)、ディエゴ・シメオネ(アトレティコ・マドリード)、ハビエル・アギーレ(レガネス)、エルネスト・バルベルデ(バルセロナ)、セルヒオ・ゴンサレス(バジャドリード)、アルベルト・セラーデス(バレンシア)、オスカル(セルタ)、ハビエル・カジェハ(ビジャレアル)、ジュレン・ロペテギ(セビージャ)、イマノル・アルグアシル(レアル・ソシエダ)

カテゴリー【2】:プロ選手経験者(2部または2部B経験者)8人
ガイスカ・ガリタノ(アスレティック・ビルバオ)、アシエル・ガリタノ(アラベス)、パコ・ロペス(レバンテ)、ホセ・ルイス・メンディリバル(エイバル)、ルビ(ベティス)、ジャゴバ・アラサテ(オサスナ)、ビセンテ・モレーノ(マジョルカ)、パブロ・マチン(エスパニョール)

カテゴリー【3】:プロ選手経験無し(3部以下、アマチュア)
ホセ・ボルダラス(ヘタフェ)、ディエゴ・マルティネス(グラナダ)

以上ざっと見回して、結論を引き出すとすればこうだろうか?

“リーガで指揮するようなエリート監督になるのにエリート選手であった必要は必ずしも無い。プロ選手経験が有れば十分。ただ、選手経験無しでも希望を捨てるな”

もう一つ言えそうなのは――

“ビッグクラブはエリート選手経験を重視する傾向がある”

ビッグクラブには当然ながら一流選手のOBが多く、彼らレジェンドをベンチに座らせることでファンやメディアを納得させられる。これは元エリート選手だけの大きなメリットである。さらに、元一流選手は現場を知り、修羅場をくぐっており、現一流選手たちの操縦も容易だろう、と考えるのは自然なことのように思える。

選手経験無しのモウリーニョとバロンドールのジダン。どっちがリスク大?

もっとも、過去を振り返れば、レアル・マドリード元監督のモウリーニョ、ベニテス、アトレティコ・マドリード前監督のマンサーノ、セビージャ元監督のサンパオリはいずれもプロ経験が無く、先の分類では3つ目のカテゴリーに入る監督ではある。だが、いずれも監督としてすでに地位が確立した者たちで、リスクのある選択では決してなかった。

レアル・マドリードからすればモウリーニョを連れて来るよりも、トップリーグでの采配未経験だったジダンを抜擢した時の方がリスクははるかに大きかったろう。

ここからもう一つの結論を導き出せる。

“レジェンドクラスの元選手には監督未経験でもチャンスが与えられる。元無名選手は長い下積みが必要”

選手経験の無いボルダラスが監督業をスタートしたのは1993年で、2016-17シーズンの1部初采配まで足かけ20年を要している。同じくディエゴ・マルティネスは38歳でリーガ最年少監督だが20歳で選手を引退しているから、やはり18年近くの歳月が流れている。しかも2人とも1部デビューできたのは、自らがチームを昇格させたからだ(ボルダラスはアラベスを昇格後にヘタフェ監督に就任)。

元馬の騎手はいない、はその通りだが

「名選手必ずしも名監督ならず」という言葉がある。これ一見、選手経験の必要性を否定しているように見えるが、そうではない。“名監督になれない元名選手もいる”と言っているに過ぎず、“名監督になった元名選手はいない”と言っているわけでも、ましてや“選手経験が無い方が監督に向いている”と言っているわけではない。

選手経験の無い名監督の代表的存在であるアリゴ・サッキ(80年代ミランの黄金期を築いた)は、「良い騎手になる前に良い馬であった必要は無い」という有名な言葉を残している。ユーモアがあり素敵だが、監督が人で選手が馬というわけではないので、これも適切なたとえではない(当たり前だ)。

人と馬ほど違うかどうかはわからないが、監督業と選手業は確かに違う。監督に必要とされる分析力、コミュニケーション能力、人心掌握術、人望、戦術的な知識などは、選手にとってもあった方が良いが、優先順位は高くない。それよりも、ボールをちゃんと蹴れること、90分間走れることの方がはるかに重要だ。

元名選手で名監督の代表であるクライフは、選手経験の無いモウリーニョについてこんなことを指摘している。
「彼は最高の監督にはなれない。選手では無かったからだ」「微妙な何かが欠けている。彼には10万人の前でプレーをした経験が無い」

10万人の前でプレーするのはどんな気持ちだろうか? 同じく大観衆の前に立つ監督業にその経験が役に立たないわけがない。

前述のことを繰り返す。

「元一流選手は現場を知り、修羅場をくぐっており、現一流選手たちの操縦も容易だろう、と考えるのは自然なことのように思える」

元名選手のアドバンテージは揺るがず

実は私自身、プレー経験の無い監督であり、グラウンド上やロッカールームで掛けるべき適切で簡潔な言葉が見つからなくてもどかしい思いをしたことが何度もある。もし、私が元選手だったら昔の監督から言われたことをオウム返しにできただろう。

戦術は学べば良い。技術は優秀なコーチに任せれば良い。だが、例えば子供たちが動揺しチームが逆境に陥った時に反射的に掛けるべき言葉のストックが無い。それは知識の問題でなく、経験則の問題である。無い記憶は作れないのだ。私は常に欠落感を持って監督をしてきた、というのが正直なところだ。

経験というのはあるか無いかであり、クライフにはそれがあり、モウリーニョにはそれが無い。ジダンにはそれがあり、ガイスカ・ガリタノ以下10人の監督にはそれが無い。無いことが監督業においてハンディになることはあっても、あることがハンディであることは、元名選手のプライドや過信が邪魔をするという以外には思い付かない。同じ様に、元無名選手であることはハンディであっても、アドバンテージは見当たらない。

以上、まとめれば“名選手必ずしも名監督ならず。ただし、名監督になるために元名選手であることは有利な材料。元無名選手はハンディにめげず頑張れ”といったところか。我ながら当たり前の結論で恐縮だが。

心情的には、カテゴリー【2】と【3】の監督たちを応援している。だが、カテゴリー【1】の、特にビッグクラブの監督たちのまぶしさを認めないわけにはいかないのだ。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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