【木村浩嗣コラム】日本人には理解しがたいダービーの空気感。20回目のセビージャ・ダービー後に考えたこと

  • 2019/11/14

text by 木村浩嗣

11月10日のリーガ第13節ベティス対セビージャを取材してきた。
ダービーの空気感というのは、最も日本に伝えにくいものの一つだ。正直言うと10年近くセビージャに住んでみてもよくわからないのだ。

今回はそんなことを書こう。

2008年にセビージャに居を移してから、数えてみるとちょうど20試合目(リーガ16試合、コパ・デルレイ2試合、EL2試合)のセビージャ・ダービーだった。短期間でこれだけの試合を見られたのは大変幸運なこと。というのも、両チームのファンにとってさえ、アウェイの試合を生観戦するのはほぼ不可能だからだ。

多勢に無勢。アウェイファンへの「迫害」

アウェイファンへのチケット割り当て数をいくつにするかは、毎シーズンの話し合いで決まる。今回のベティスホームの試合に関しては300。これに対して6238のセビージャファンの応募があった、という。

ダービー、と聞くとファンの応援合戦というイメージがあるが、実際には圧倒的な「多勢に無勢」。これはマドリード・ダービー(レアル・マドリード対アトレティコ・マドリード)でもバルセロナ・ダービー(バルセロナ対エスパニョール)でも同じである。アウェイファンは、日本的に言うと「迫害」という表現がぴったりのスタジアムの隅っこに隔離されており、時々上げる気勢は大ブーイングに掻き消される運命である。この「迫害」には警備上の理由もあるからしょうがないのだが、ちょっと可哀想だといつも思う。

そして、ダービーに対しては「殺伐」という言葉がまず頭に浮かぶ。というのも、最初に見た96-97シーズンのマドリード・ダービー(ラウールのゴラッソで有名な試合)の試合後にウルトラス(フーリガン)の暴力を目撃したから。

だが、安心して欲しい。あれからクラブの努力もあって、今スペインのスタジアムは極めて安全な場所になった。比較すれば、繁華街なんかよりも全然安全である。
かつて、警備員が杖で滅多打ちされた事件(02年)、ファンデ・ラモス(当時セビージャ監督)がペットボトルをぶつけられ担架で退場した事件(07年)の悲しい舞台となったセビージャ・ダービーでも、最近では暴力事件などまったく起こっていない。

だから、安心してスペインにダービー観戦に来てほしいのだが、それでも日本のみなさんに雰囲気を伝えるには、「緊迫感」という表現が適切だろう。

安全なスタジアムにも「緊迫感」は健在

スタジアムから暴力は一掃された。だけど、言葉の暴力の方は残っている。
この夜もスペイン語の最低の罵り言葉が、試合中だけでなく、試合前セビージャのバスが入って来るところなどでは巨大コールとなって響いていた。街角で耳にすれば間違いなく喧嘩、というくらいの危険フレーズがダービーでは当たり前のように口にされる。念のために言うと、これ、舞台がセビージャのホームだったとしても同じである。

サッカーで熱くなるのは国民性だから理解できる。理解できないのは、なぜそこまで憎み合うのか、だ。日本人の目にはスポーツ上のライバル意識の域をはるかに超えている。私はもうスペインに20年以上住んでいて、そのうち半分はセビージャにいるのだが、それでもわからない。

ちょっと可愛らしいエピソードを紹介しよう。

「ヒロはどっちのファンなの?」

地元のサッカーチームで監督をしていた時、ダービーが近づくと必ず子供たちに聞かれた。
「俺はセントロ・イストリコ(指導していたクラブ名)ファンだ」と答えると、「そうじゃなくて、セビージャとベティスではどっちなの?」と突っ込んでくる。練習着代わりに両チームのユニフォームを誇らしげに着ている連中の目が輝き、前のめりになってくる。

で、私が「両方だ」と返すと、「それじゃ駄目だ!!!!」と一斉にズッコケる。彼ら小さなセビジスタら、ベティコらの顔に「わかってないな」と書いてある。

両方のファン、という許されない立場

「両方」というのは社交辞令でなく、正直な気持ちである。
愛着のあるセビージャの2つのチームであり、どちらも親切で取材の便宜を図ってくれる。サッカージャーナリストとしては恩しかない。

ただ、良いサッカーをしているチームの方が勝つだろうし、勝つのが正当だ、という気持ちはある。キケ・セティエン監督がいた昨季までのベティスはセビージャをサッカーで上回っていた。だから優勢を予想していたし、実際そうなった。今季は逆。ジュレン・ロペテギ監督の率いるチームの方がルビのチームより上、そう見ていたらやっぱりセビージャが勝利した(1-2)。

セビージャとベティスのファンは街を二分している。
家族にも友だちにも恋人にもライバルチームのファンがいる、というのが当たり前であり、それで日常生活に支障が出ているという話も聞かない。なのに、試合当日、特にスタジアム内では、なぜか強烈なネガティブエネルギーとなって炸裂する。ダービーマッチが、普段見せない暗い部分を増幅し噴出させる栓を抜いているかのように見える。

私にはそのメカニズムが理解できないし、彼らは「両方好き」という私が理解不能である。

日本人にはダービーは奥が深過ぎる

可愛くないエピソードの方を紹介したい。

あるクラブ関係者と雑談をしていて、「あいつらドブネズミだからな」と言われ、心が寒くなったことがある。私の恩人であるその好人物から突然そんな言葉が出て来るとは……。

この街に生まれて育った者にしかわからない何かがあるのは間違いない。その「何か」が、私たち異国の者にでさえダービーを特別なものにしているのと同時に、感覚的には理解し難いものにしてもいる。“ダービーを生きる”なんて日本人は簡単に口にはできないのだな、と改めて思った。

帰りのバスはベティコたちでごった返していた。屈辱の夜を過ごし、明日からはセビジスタたちの侮辱にも耐えなくてはならないのだ。お気の毒様、と同情して乗り込んだが、怒号が飛ぶでもなく車内は普通の空気に戻っていた。みんな、明日から仕事だ、学校だという顔をしているのだ。

いつも感じることだが、スペインのファンは気持ちの切り替えが早い。スタジアムの内と外では顔が違う。敗戦が日常の一部になっていて後を引かない。
で、また元の疑問に戻る。

なら、どうしてあそこまで憎しみ合うの?

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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