【木村浩嗣コラム】『クラシコを前に乾と久保がバルサ、レアルに挑む!』‐エイバルに勝つことが「最高のクラシコ」への絶対条件だが……/エイバル対バルセロナ

  • 2019/10/16

text by 木村浩嗣

10月26日のクラシコを前にバルセロナはエイバル戦に勝つしかない。現在レアル・マドリードを2ポイント差で追う立場にあるバルセロナにとって、勝利すれば首位に立つ、という状況で宿敵との直接対決を迎えられるか否かは、大袈裟に言えば死活問題だからだ。

説明しよう。
エイバルに勝利すれば、以下のポジティブな連鎖が次々と起こる。

勝利がもたらすポジティブな連鎖

1つは、マジョルカ戦を前にしたレアル・マドリードにプレッシャーを与えられること。
今週末のリーガ第9節、19日の開催時間を見ると、エイバル対バルセロナが13時(スペイン時間)キックオフでマジョルカ対レアル・マドリードのそれが21時。エイバル戦に勝利すれば、少なくともマジョルカ戦が終了する23時までは暫定首位に立てる。レアル・マドリードにしてみればマジョルカに勝つしか首位奪還の可能性は無い。その重圧下でプレーすることはパフォーマンスにネガティブに影響しかねない。

2つ目は、カンプ・ノウが大いに盛り上がること。今回のクラシコはバルセロナのホームゲームだ。首位で迎えられればもちろん、そうでなくとも勝てば逆転という状況なら、ファンはチームを100%応援するだろう。ホームアドバンテージを確実に手にすることができるのだ。

3つ目は、チームの士気が上がる。
今季スタートでつまずいたのは、アウェイで弱く(1勝1分2敗)なかなか連勝できないから。エイバルに勝って現在の3連勝を4連勝に伸ばしてホームに帰って来ることができれば、悪い流れが変わる――。
こういうわけで、バルセロナは今週末必勝を期してくるわけだが、実はそこにエイバルが付け入る隙がある。

必勝の重圧と急造DFライン

想像して欲しい。エイバルに勝利という前提が崩れた時のバルセロナに起こる、ネガティブな連鎖のことを。レアル・マドリードは余裕でマジョルカ戦に臨み、カンプ・ノウは応援半分、批判半分の微妙な雰囲気で、またもアウェイで勝てないのか、という嫌な空気に覆われたチーム――。
クラシコを頭の隅に置きながらアウェイで絶対に勝たなければいけない状況は、レアル・マドリーにとってもバルセロナにとっても大きな重圧なのだ(レアル・マドリードについてはこちらを参照のこと)。

エイバルは伝統的にホームで強く、ここ3試合で2勝1分けと調子を上げている。しかも、バルセロナはピケとアラウホが出場停止、ウムティティが調整不十分で、ジョルディ・アルバがケガから復帰したとしてもDFラインは右からセメード、トディボ、ラングレ、ジョルディ・アルバと、急造にならざるを得ない。右サイドバックはセルジ・ロベルトの可能性もあるが、2017年5月乾が2ゴールを挙げた試合で散々やられた過去がある。

層の厚い中盤はセルヒオ・ブスケツ、デ・ヨング、アルトゥールで万全、デンベレが出場停止の前線はメッシ、ルイス・スアレス、グリーズマンの顔ぶれで間違いない。ケガから復帰済みのメッシは調子を上げており、ルイス・スアレスのゴール感覚は健在だが、グリーズマンは左サイドのポジションに慣れておらず、左サイドバックとのコンビネーションも未確立で不安材料。もっとも、どんなに低調なプレーを見せていても、一瞬、一回の閃きだけでゴールするタレントがあることは言うまでもない。

エイバルのシステム変更の意味

一方エイバルのスタイルには少し変化があった。システムが[4-4-2]ではなく[4-3-3]になったせいで、プレー上において次のようなメリット、デメリットが出て来ている。

メリット:中盤が厚くなりキープ力と抵抗力が上がり、ボール奪取力が向上しカウンターの芽を未然に摘むことができるようになった。MFの2列目からの上がりによる得点が増えた。
デメリット:FWが1枚なので前からのプレスが弱まり、ボールの回復点が下がってショートカウンターをしにくくなった。センターリングをFWの頭に合わせる得点パターンが減った。

昨季までのエイバルは、ハイライン&ハイプレスで奪ったボールを直ちに前線に送り込んで一気に攻め切ってしまう、電光石火ぶりが持ち味だったのだが、今季はややスローダウンし、コントロールを重視するスタイルにマイナーチェンジしている。ボールを少しだけ長く持ちコンビネーションに手数を掛けることで、スピードは落ちたが、安定度は増した。

この変化は、乾の存在感を高める結果になった。なぜなら、彼は1対2の数的不利な状況での守備を苦にしないからだ。

トップフォームの乾は不可欠の存在に

説明しよう。右センターバックのマーク役の左FWが前にいた昨季は、乾は主に右サイドバックだけをケアすれば良かった。が、今季は右センターバックと右サイドバックの両方をケアしなければならない。昨季はセルジ・エンリクの右センターバックへのプレスに連動した乾が、右サイドバックを追い込んでボールを奪う、いわゆる“はめ込んで奪う”シーンが良く見られた。だが、今の乾に求められているのは、「奪うためのプレス」ではなく「相手の前進を防ぐためのプレス」。まずはボールを持っている右センターバックを迎えに行き、次に右サイドバックへパスされたらそちらのボールも追う(当然その逆もある)。2対1で簡単に抜かれないためのプレスである。

それだけでなく、流れの中で、左MFに右サイドバックへのプレス役を任せられる2対2の状況になったら、猛然と右センターバックに「奪うためのプレス」を掛ける。つまり、普段は2人にプレスを掛け、チャンスの時だけ激しく前から行く、という一人二役が乾に求められているわけなのだが、それを忠実にこなせる体力と状況判断力を兼ね備えているアタッカーは、エイバルには彼しかいないのではないか。

前々節セルタ戦エイバルの2点目ではアシストを記録したが、アシストそのものよりも相手DFアイドゥへの猛チャージとインターセプトが素晴らしかった。ちなみに、相手右サイドバックはフリーで2対1の数的不利だったが、それでも行った。奪える確信があったのだろう。2対1で散々相手ボールを追い回した後の69分に、あの機転とダッシュ、冷静な味方へのパスを見せられては、メンディリバル監督も外すわけにはいかない。

今の乾が心身ともにトップフォームなのは、引き締まった表情と肉体からうかがえる。こんなに頭と体がキレているのは、もしかするとスペインでは初めてかもしれない。そんな彼と上り調子のチームがバルセロナをホームに迎える、クラシコ前哨戦。何が起こってもサプライズとは呼べない。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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