【木村浩嗣コラム】日本人選手スペイン到来で、改めて考えるサッカーと言葉の問題

  • 2019/10/11

text by 木村浩嗣

バルセロナ対セビージャを見ていたら、デンベレが審判に何か言い一発退場になった。試合後の記者会見でエルネスト・バルベルデ監督が「デンベレからスペイン語を引き出すのは難しい。長いフレーズではないはず」とコメント。17年8月の入団から2年経っても、スペイン語がおぼつかないことがわかった(退場になった暴言は「お前は酷い」である、と判明)。

このエピソードでわかったのは、デンベレにスペイン語を覚える気があまり無い、ということだ。

デンベレ、ヴァラン、ベイル、トリッピアーの例

フランス人のデンベレにとってスペイン語は決して難しくはないはず。2つの言語は発音は異なるが、単語も文法もよく似ている。

私はフランス語は喋れないが、書かれているものは何となく意味がわかる。彼にとって、サッカーをするのにも生活をするのにもスペイン語はわからなくても用が足りている、ということなのだろう。

正反対の例がヴァランである。

レアル・マドリードに入ってすぐ「個人教師を探してくれ」と頼んだ彼は、入団1年半後には試合後インタビューで、スペイン語がペラペラであるところを披露している。

同じ様な対照は、ベイルとトリッピアーの例にも見られる。

マドリードに住み始めて7年目のベイルがほとんどスペイン語で喋れないのは有名な話。彼の個人教師によれば「話す勇気が無いだけ」らしいが、今まで一度も会見もインタビューもスペイン語では受けておらず、今年3月にクラブが公にしたプロモーションビデオで、チームメイトの会話についていけてないことがバレてしまった。

一方、今夏アトレティコ・マドリードに入ったトリッピアーは1回2時間、週5回レッスンを受けており、「1、2カ月でスペイン語でインタビューを受けられるようにしたい」と意欲的だ。あれから2カ月、まだ語学力は披露されていない。スペイン語と英語は単語も文法もかなり違うから、トリッピアーの見方は楽観的だと思うが、その意気や良しである。

芝生の上では語学力は問われない

この4人の例でわかるのは、芝生の上でボールを蹴っている限り、スペイン語を学ぶ必要はあまり無い、ということだ。

そもそもプレー中は、上がれとか、前とか後とか右とか、蹴れとかパスを出せ、とかの指示だけなので、単語を覚えるだけで用が足りるし、ジェスチャーだけでも通じる。戦術ミーティングではホワイトボードやビデオも使われるし、チームメイトが通訳代わりになってくれることもあるだろう。日常生活では、フランス語の話者なら何となく理解できてしまうし、英語の話者なら相手の方で理解してくれる。

これがグラウンドを離れて食事に行こうとかになると、もちろんスペイン語が必要になる。メッシやセルヒオ・ラモスと友情を築こうとか、スペイン人女性と愛情を育もうとかするとちゃんと喋れないと駄目。ジネディーヌ・ジダンやラキティッチの奥さんはスペイン人。よってすぐにネイティブ並みにペラペラになった。

「言葉の壁」なら香川と岡崎はなぜ活躍?

一時、盛んに「言葉の壁」という言葉が使われた。ベンチ生活が長いと言葉の壁、パスが来ないと言葉の壁……と。が、最近あまり聞かれなくなった。スペイン語ができないはずの香川真司と岡崎慎司がいきなり活躍しているのと無関係ではない、と思う。

「できないはず」というのは失礼な想像ではない。日本語とスペイン語はまったく違う。特に、人称と時制によって変化する動詞活用は超難問(一動詞につき46通り!)。スペイン語ではThis is a penと言うのさえ大変であって、これに比べると英語ははるかに簡単である、とは日本人の誰もが実感する。

少年時代をスペインで過ごしている久保建英は別だが、スペイン生活が長い乾貴士、柴崎岳にしてもチームメイトと込み入った話はできていないと思う。柴崎はこの間の記者会見でスペイン語を少し喋っていて、そこでも強調していたが、言っていることは理解できても喋るのが大変だ。日本語訳できないスペイン語もあるし(特にサッカー用語には多い)、話し言葉には辞書に出て来ない隠語もあるし、自己主張しない国民性もあるしで、なかなかうまく喋れない。

言いたいことがすべて言えるわけではないし、言ったとしてもすべてが相手に伝わるわけではない、というのは、恥ずかしながらスペイン在住二十数年にして私の実感である。

だから、私は日本人選手に関しては、「言葉はできるに越したことはないが、さほど重要ではない」と言ってきた。それよりも国際共通語であるサッカーの名手であるかの方がはるかに重要だし、語学力よりもコミュニケーション能力があるか否かの方が大事。スペイン語は片言でもどんどん打ち解けて行く人がいるが、表情やジェスチャーを見ていると香川と岡崎はその能力がかなり高いのでは、と踏んでいる。

日本人にとっての真の言葉の壁とは?

ただその一方で、日本人には「言葉の壁」が間違いなく存在する。それは芝生の上ではなく外にある。

真の壁とは、すでに言ったようにスペイン人と友情や愛情を育むことが非常に難しいことだ。仲良くはなれても、スペインを離れても長く続くような関係は言葉を介しての意思の疎通がないと不可能に近い。

我が身を振り返れば、在住二十数年にして恥ずかしながら全部言えないし全部伝わらない、とはすでに言った通り。同時に、たとえ完璧に言葉が操れたとしても、宗教とか文化とか社会とか家族関係とかの壁を克服するのは極めて難しい(もっとも、重要なのは「克服」ではなく「克服のための努力」である)。

数年前、ホセ・ルイス・メンディリバル監督が乾のことでこんなことを言っていた。

「頭が良くてスペイン人以上に私の言っていることが通じる。だけど、練習後に仲間とビールを飲みに行ったりはできず、どうしても一人になってしまう。そういうのを見ていると可哀想に思うんだ」と。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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