【木村浩嗣コラム】なぜレアル・マドリードは危機に陥ってから反発する、を繰り返すのか?

  • 2019/09/27

text by 木村浩嗣

「マッチポイントをまた切り抜けた。いったい、この人はどうなっているのだろう?」
セビージャ戦後、淡々と勝利(0-1)を振り返るジネディーヌ・ジダンを見ながらそんなことを考えていた。前週パリ・サンジェルマンに大敗し、この夜敗れればレアル・マドリードの危機であり、監督の座の危機であった。が、土俵際になると必ずうっちゃる。「ゲーム」が宣告されるはずのボールを驚異のリターンで逆転する。
しかも、そのやり方が普通ではない。
好調セビージャに内容の上で完勝したのは、戦術的な発想や個のタレントのきらめきのせいではない。全員が走り勝ったからだ。攻撃的な選手たちがポジションを下げてカルバハルとマンディとカゼミーロをサポートし、サイドで数的有利を作り続けた。そうして相手の左サイドの裏、レギロンの背後をベイル+カルバハルの2枚掛かりで攻め続け、最後はベンゼマが決めた。

チーム一丸でセビージャに走り勝つ

11人対11人だから数的有利のエリアがあれば数的不利のエリアが必ずある。このゲームで言えば、中央でセビージャの有利ができていたはずだが、それが顕在化しなかった。どのエリアでも数的有利になる魔法、それが運動量で上回ることであり、こういう勝ち方は、監督のことを選手が100%信頼し、忠誠を誓っていないとできない。
テニスのラファエル・ナダルがマッチポイントを跳ね返すのならわかるのだ。彼は強いレジリエンス(抵抗力)の持ち主で数々の逆境を乗り越えてきた。だが、ジダンは監督で、サッカーはチーム競技である。彼はプレーできず、選手に「救ってもらわなければならない」立場である。危機になる度に選手が救ってくれる。これは強い絆がなければできないことだ。
もっとも、それだけ強く結ばれていれば、危機に陥るはずがない、というのも一方の事実としてある。
今年3月にジダンが復帰してから、無気力な試合をして監督を見捨てたのかと思えばその後に信じられない一体感を見せる、というようなパターンが続いている。一体、選手たちはジダンのことをどう思っているのか? ジダンはどうやってチームに喝を入れたのか? その辺りのからくりがまったく見えない。
チームは人間の集団だから、私たちが学校や会社や家庭で経験しているような人間的なメカニズムが働いて、上向いたり、下向いたりする。が、第二次ジダン政権下のレアル・マドリードについてはそのメカニズムがよくわからない。戦術や采配の話ではなく、モチベーションの話としてよく見えないのだ。その不透明さの中心にジダンがいる。

人を超越した何かを感じる監督ジダン

監督のために汗を流した者たちの中にベイルとハメス・ロドリゲスがいる。これも私たちの日常の感覚で言えば、よくわからない。
ジダンは2人をプレシーズン中、戦力外とし続けた。ベイルに対しては「なるべく早く出て行くのがみんなのため」とまで言った。本音だったのだろうと思うが、リーダーたる者、普通は公の場でそんなことは言わないものだ。で、結局、移籍は成立せず2人はチームに残ることになった。さあ大変だ! どうやってマネージメントしよう! なんて私のような凡リーダーなら大慌てのシーンである。
が、さすがジダン。数日前までの戦力外扱いを帳消しにし、さらっとベイルを開幕戦で先発させ、ハメスにも第2節でチャンスを与える。そうして2人とも活躍し不動のレギュラーの座を手に入れる。使う方も使う方なら、活躍する方も活躍する方である。私なら「会社を出て行った方が良い」なんて言われた上司のために、必死に働くなんてことはしない。
ジダンに言わせれば、“その時点のベストメンバーを起用しただけ”となるのだろうし、ベイルとハメスの方にしてみれば、“監督の信頼に応えたかった”となるのだろう。しかし、普通はそんな風に人間集団は動かない。恨みとかしこりとかが残って、うまく機能しない。もしかして、常人には無いもの凄いエゴとエゴが衝突して強烈な推進力が生まれている、なんて超一流のアスリート集団ならではの現象があるのかもしれない。
監督ジダンの最大の強みは、マネージメント能力だ、という評価が定着している。彼をリーダーにしているのは、スーパースター時代の圧倒的な威光のためである、とも言われる。だが、何かそれだけでは説明できない不思議な力を感じる。カリスマ? そうかもしれない。例えば、彼ほど逆境に動じない監督はいない。モウリーニョなら反発し、ジュレン・ロペテギなら動揺するが、ジダンは超越しているように見える。そんなところに謎を解く鍵があるのかも。
いずれにせよ、不思議なメンタルのチームを率いる不思議なメンタルの監督の行方から目が離せない。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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