【木村浩嗣コラム】アドゥリスのゴールにみる、リーガを読み解く3つの教訓

  • 2019/09/20

text by 木村浩嗣

「サッカーはこういうことが起こるから美しい」
こう、アドゥリスが振り返ったゴール、開幕節アスレティック対バルセロナの決勝点は、ロマンチックな要素が散りばめられたものだった。38歳、地元育ち、ファンとチームの一体感……。これらは大きなサッカー界の流れで言えば失われつつあるものだ。

若者好きのサッカー界で、38歳の価値

まず38歳という年齢。
自戒を込めて言えば、サッカーメディアは若い選手が大好きだ。十代がデビューしゴールを決めたりすれば大騒ぎ。十何歳何カ月で史上最年少であるとか、スター誕生だとか、はやし立てる。これは16歳、18歳の選手を欧州のビッグクラブが買い、育てて高く売り儲けるという最近のサッカービジネスの流れとも連動しているし、インターネット社会の新しいものを求め続けるニーズにも合っているから、今後さらに加速するとみる。
だけど、金銭的価値やニュース的価値はともかく、よく考えてみればサッカー選手としての本当の価値は、実は史上最年長ゴールの方にある。
アドゥリスが38歳まで積み重ねて来たのは、1999年のデビュー以来、世界最高レベルのリーグで通用してきた、という実績に他ならないからだ。「将来性」というまだ達成していない可能性の話ではなく、すでに達成済みの話である。
いや、達成中と言った方が良いか。今季限りで引退をする男が、出て来るや否やあんなアクロバティックなバイシクルシュートを決めるのだから。心身の鍛錬、準備具合はいかばかりだろうか、と想像するだけで頭が下がる。16歳でゴールの若者の才能も凄いが、38歳までゴールし続けた年長者の才能+努力はもっと凄い。
今季のリーガ登録選手の平均年齢27歳は、5大リーグの中ではプレミアと並んで最も高く、徐々に上がっている印象を受ける。ベテランの活躍が近年目立っているからだ。
アドゥリス(38歳)、ホアキン(38歳 ベティス)、ディエゴ・ロペス(37歳 エスパニョール)、ホルヘ・モリーナ(37歳 ヘタフェ)、ブルーノ・ソリアーノ(35歳 ビジャレアル)、シャルレス(35歳 エイバル)、クエージャル(35歳 レガネス)、サルバ・セビージャ(35歳 マジョルカ)、サンティ・カソルラとアルビオル(34歳 ビジャレアル)、ソルダード(34歳 グラナダ)、ヘスース・ナバス(33歳 セビージャ)……。

移籍市場大商いの中で、地元育ちの価値

この夏リーガは13億1900万ユーロを選手獲得に費やした。これは欧州最高額で、リーガとしても史上最高額だった。しかし、この数字から受ける印象とは違って、リーガは最も自国育ちの選手が多い(59%)リーグである――プレミアリーグ(35%)、セリエA(42%)、ブンデスリーガ(47%)、リーグ1(54%)――。
リーガは欧州で最も優秀な育成組織を抱えており、特にアドゥリスのいるアスレティックは最優秀だ。このチームはバスク地方出身者のみで構成されているので、それも当然なのだが、それでリーガ創設以来一度も2部に落ちたことがない、というのが凄い。
各チームの下部組織出身者の数を比較するとアスレティック・ビルバオは貫禄の17人でナンバー1なのだが、2位以下のチームも決して遅れを取っていない。近年、育成に定評のあるレアル・ソシエダは13人、セルタは12人、ビジャレアルとエスパニョールは10人ずつ。一昔前まで「育成」と言えばバルセロナとR・マドリードだったが、両チームはそれぞれ9人、6人に留まっている。
2強の育成力が落ちているとは思わないが、トップチームへの定着率は下がっている。例えばバルセロナは13-14シーズンには17人だった。対照的に、レアル・ソシエダ、セルタ、ビジャレアル、エスパニョールは十年ほど前までの外国人選手中心のチーム作りから180度の方向転換を果たした。アドゥリスのゴールは、新旧育成王者の勝敗を決した、という点でも象徴的だったのだ。

スタジアム劇場化の中で、ファンと一体化

アドゥリスのゴールは、奥さん、子供、義理の父ら家族総勢6人がスタジアムで目撃したそうだ。あのガッツポーズと駆け寄る選手たちによるセレブレーションは、さぞ忘れられない光景になっただろう。
アドゥリスが地元生まれで下部組織出身であることは、ファンとの一体感を特別なものにする。クラブとファンの関係は、多分知り合いの知り合いには下部組織を含むアスレティックにいる(いた)者がいるくらいの距離感ではないのか、と想像する。おらが街の選手だから応援に一層身が入り、声を張れる。アスレティックのホームスタジアム、サン・マメスの雰囲気は異様なものがある。アドゥリスのゴールの祝い具合、バルセロナへのブーイングの大きさ……。計ったわけではないが、観客の一人当たりの声量ではリーガナンバー1だと思っている。声量の総量ではキャパシティが大きいスタジアムには敵わないだろうが、サン・マメスの野太い声とは音質も違う。
外国人や観光客も相当数いるカンプ・ノウやサンティアゴ・ベルナベウでの観戦は、観劇にたとえられる。芝居を見るように優雅に超一流スターのパフォーマンスを楽しむものなのだ。このスタジアムの劇場化は、リーガのグローバル化とともに間違いなく進行していく。だが、その一方で、アスレティックのようなローカルのクラブも必ずや残るだろう。スペインはサッカーでは世界の中心に近いが経済では欧州でも端っこであって、グローバル化なんて不可能な地方クラブが大半だからだ。
アドゥリスのゴールが教えてくれたこと――リーガの主流ではない3つの傍流――は、私たちの観戦体験をより豊かにしてくれるものと確信している。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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