【木村浩嗣コラム】ラ・リーガ2部の日本人選手のみどころ

  • 2019/08/30

text by 木村浩嗣

ラ・リーガ2部が思わぬ形で脚光を浴びることになった。1部での成功を夢見てスペインにこだわった柴崎岳、ブンデス、プレミアで華やかなスポットライトを浴びやって来た香川真司と岡崎慎司。「いつかは●●(豪華高級車の名)」というCMが昔あったけど、リーガというブランドへの彼らの憧れが、スペインサッカーの魅力を物語っている。

人生が終わる前に行きたい。「いつかはスペイン」

イングランドにもドイツにも、おそらくイタリアにもフランスにも、そして日本にも無いものがスペインにはある。それは素朴さだったり、熱狂だったり、やたらサッカーに詳しく、それゆえに「チームに多くを望まない」分別があるクラブ愛だったり、選手をアイドル視せずグラウンドを離れれば放って置いてくれるファン気質だったり、高級食材だが手づかみで食べて良い生ハムだったり、やたら暑くて寒いがカラッとしている気候だったりするのだろう。スペインは住みやすく気持ち良くプレーしやすい。人生が終わる前に行ってみたい。「いつかはスペイン」なのだ。
柴崎がラ・コルーニャ、香川がサラゴサ、岡崎がマラガと観光でそんなに有名な街ではなく、ガリシア州、アラゴン州、アンダルシア州と全土に散らばって風土が異なっているのも良い。バルセロナやマドリードだけがスペインでもリーガでもない。2部には気取ったところ、ゴージャスなところは無く、この国の「地」が丸出しになっている。明日できることは今日しない、バケーションは3週間、中央に集権せず“おらが土地”を誇る、政治的正しさなんか気にしない……そういう空気を3人の笑顔を通して日本の皆さんにも感じてもらえるもの、と期待している。活躍してもしなくても、彼らは2部のサッカーと地のスペインを楽しんでくれるに違いない。

兵隊として飄々と、必死の形相で戦う柴崎

2部の現実を知るには、柴崎のデポルティーボを見れば良い。指揮するアンケーラは、選手を兵隊、試合を戦争にたとえる“政治的に正しくない”監督だ。「2部のシメオネ」と呼ばれる彼のサッカーはガチガチのカウンター。ラインを下げ、ボールの後ろに人数を割き、CFへロングボールを放り込む、モダンとはほど遠いもの。結果こそが現実であり、勝負は勝てば良い――そんなスタイルが攻撃サッカーの本場で生きていることに日本のみなさんは驚くかもしれないが、2部とは、夢とファンタジーにあふれた1部に是が非でも上がりたいクラブが、決死の覚悟でバトルするところ。「決死」というのは誇張ではなく、実際に昇格できなければ消滅なんてクラブもある。
そんなデポルティーボで柴崎は戦っている。トップ下でファンタジーを任されるかと思ったら、[4-2-3-1]のボランチでボール出し、潰し、創りまでやらされている。いつもの通り飄々としているが、心中の必死の形相が伝わって来る。ウエスカ戦のように押し込まれると、ボールを追うだけ、肉弾戦でぶつかり合うだけで、オビエド戦のようにボールを持てると、長い距離をドリブルして完全に崩してから仲間にボールを供給する、という得意のアシストの1本前のパスを見せてくれる。

“理想を少々”のチームでやることはやった香川

サラゴサのビクトル・フェルナンデス監督はそんな2部の現実主義に何とか理想の風を送り込もうとしている。彼はかつて日本代表監督の候補に名が挙がったほどの、攻撃サッカーの代名詞だったのだ。そこで香川は[4-2-3-1]のトップ下(テネリフェ戦)、[4-4-2]の中盤ダイヤモンド型の頂点(ポンフェラディーナ戦)をやっている。思いっ切りファンタジーを出せるポジションだが、肝心のボールが来ない!
テネリフェ戦ではライン間が間延びし過ぎてプレスが効かずボールが奪えない。ほんのたまにロングボールが入ればGKと1対1級のビッグチャンスになるものの、それ以外は手持無沙汰。ポンフェラディーナ戦ではチームはコンパクトになり、マイボールの時間が長くなり登場機会も増えた。後半は消えそうな展開となったが、カウンターから逆サイドでボールをもらい、右足でシュート、リバウンドを左足で叩き込んで先制点。こういうところを決めるのがスターであり、クオリティだろう。
内容の悪さは帳消しになって万々歳かと思われたが、最後に追い着かれた。相手は2部Bからの昇格組だったが、侮ることはできない。一昨季のウエスカ、昨季のマジョルカと、2部Bからの昇格組は2季連続で1部昇格を果たしている。実力が拮抗しているのも2部の特徴であり、だからこそ、勝ち点1を獲りに行く保守的な堅守速攻を採用するチームが多いのだ。

ポジションは空けてあるのに登録枠が無い

そして、マラガの岡崎は試合に出ていない。それどころか、選手登録自体がされていないのだ。財政が悪化しファイナンシャルフェアプレーの規定に引っ掛かっており、岡崎を登録するためには高額年俸の選手を売るしかないのだが、それが滞っている。開幕して2週間、そして9月2日の移籍市場最終日まで1週間を切っている。契約書にサインするまで会長の決済のために8日間も現地で待ちぼうけだったことと併せ、これもスペインらしさというものだ。
が、ビクトル・サンチェス監督のサッカーは悪くない。デポルティーボ時代やベティス時代のようなロングボールサッカーをするかと思いきや、ボールを良く触るし、後ろから繋いで来る。グラウンド外がトラブルの渦中で期待していなかったが、グラウンド内の仕事はきっちりなされている印象。3チームの中では一番内容が良い。コンパクトだし攻守の切り替えも速い。ラス・パルマス戦では攻撃的MFアドリアンが偽CFという苦し紛れの布陣だったが、その不在部分に岡崎がはまった時にどうなるか、楽しみだ。

photo by getty images
text by 木村浩嗣

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