【木村浩嗣コラム】リーガを楽しむ、格差を楽しむ、サッカーの公平性を楽しむ
text by 木村浩嗣
スペインの18-19シーズンは先週末のスペイン国王杯決勝、バレンシア優勝で幕を閉じた。バルセロナのファンの方には大変申し訳ないが、マルセリーノ・ガルシア・トラル監督やキャプテン、パレホの涙を見ていると、良い終わり方だったと感じる。
というのも、勝利にこだわった方が順当に勝利したからだ。創立100周年の記念を作ろうとクラブを挙げて必死になった方が、リーグ優勝は果たしたもののCLに敗退したショックを引きずり、本気になれなかった方に勝った。
もう一つ言えば、予算規模で小さい方が3.8倍の大きさのチームに勝った。モチベーションの差で戦力の差を引っくり返すというのは、スポーツとして健全な証拠だと思うからだ。
リーガに存在する「現実」と「夢」
クラブの予算は戦力に正比例する。予算が大きいほど強い。
夢を壊すようだが、優秀な監督や選手に高値が付いており、市場の原理で流通する限り、それが現実である。もちろん、クラブ愛を抱く選手が金の誘惑に負けず残留したり、優秀なフロントがいて安値で強いチームを作り上げたりということもある。
例えば、今季のヘタフェは予算で16位なのにコンペティションでは5位。2部時代からの監督ホセ・ボルダラスを信頼し、ホルヘ・モリーナやアンヘルら主力が他クラブのオファーに耳を貸さず、優秀なスカウティングでハイメ・マタを獲って来たことで、予算差を覆した。
予算が戦力に比例する、という「現実」があると同時に、サッカーには「夢」がある。
ヘタフェとセビージャには予算にして4倍以上の差があるが、グラウンドでは11人対44人で試合をするのではない。11対11で、手ほど器用に使えない足で丸いボールを蹴るという不確実性の支配する競技で、ファンが声援で味方に自信を与え敵に心理的な揺さぶりをかける限り、金銭的な弱者が強者に勝つチャンスは常にある。ヘタフェはアウェーとホームの直接対決に完勝し5位となり、セビージャは6位となった。
サッカーは社会を映す鏡である、とよく言われるが、サッカーも我われの社会同様、格差がある。しかし、社会と違うのは前述のようなサッカーの特殊性によって逆転の可能性がより大きいことだ。
現実もあるが夢もある。それがサッカーでありリーガなのだ。
リーガの楽しみ方として言えること
リーガの楽しみ方として1つアドバイスすると、現実を知っておいた方が夢の方も広がるよ、ということだ。
例えば、バルセロナとバジャドリードの対戦はホーム&アウェーとも前者の勝利に終わった。しかし、予算規模で最下位のバジャドリードと首位のバルセロナには26倍の差があることを知ると、そのバジャドリードの2敗が0-1、1-0の惜敗だったことの本当の意味が見えてくる。エイバルはレアル・マドリードに勝って(3-0)、アマヤ・ゴロスティサ会長は「この歴史的な勝利を楽しみたい。だってこれは夢だから!」と大喜びしたが、両者の予算差に13倍以上の開きがあることを考えれば、歓喜にも共感できる。
念のために断っておくが、予算があることは素晴らしいことだ。
バルセロナとレアル・マドリードが覇権を分け合い、アトレティコ・マドリードが第3勢力として台頭、バレンシアとセビージャが追う。こうしたリーガの勢力図は予算の勢力図と完全に一致している。ビジネスに勝利しサッカーに勝利することは、そのクラブのメリットであり、ビジネス部分も含めてリーガでありプロサッカーなのだ。ビジネスの強者がコンペティションの強者であり、彼らに注目が集まりスポットライトが当たることはある意味公正である。
ただ、ホームタウンの人口や地理的な位置や社会的・歴史的重要性によって、ビッグクラブにはどんなに努力してもなれない、残留争いをし続けることが宿命付けられているスモールクラブもまたリーガの一員なのだ。
世界的なスターはいない、地元の選手を育てて、ダイヤモンドの原石を探し出し、レンタルを駆使するなどのやりくりで、強豪たちに抵抗し時には勝ってしまう。それもまた別の意味で公正であると思う。
今シーズンはどうもありがとうございました。ご縁があれば来季またお会いしましょう。
写真:getty images
文:木村浩嗣
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