【木村浩嗣コラム】今は戦術を語る時ではない。ジダン新監督の“キャスティング”が始まった

  • 2019/04/08

text by 木村浩嗣

驚くべき辞任から驚くべき復帰をしたジダン。さて、ウエスカ戦でどんな采配を見せるのかと思ったら、“ジダンの新戦術”なんてものはなく、あったのは“ジダンの新起用”だった。むしろジダンは好きにやって良いよ、と送り出したようにさえ見えた。
戦術が無いのが戦術、というのは形容矛盾のようだが、一つの戦術である。例えば、ロシアW杯の日本代表。各自が最も力が発揮できるポジションで得意なプレーをさせるというやり方で、無数の組み合わせの中からチームとして最高のパフォーマンスを出せる11人の並びと顔ぶれを時間の無い中で的中させたのは、西野前監督のとんでもない功績だと思う。
もっとも、戦術が無くてもチームとして機能したのは、局面での個人戦術が身についていて、集団のために個を犠牲にできる日本人だからこそでもあった。日本以外で自由にやらせると、どうなるか?
その見本があのウエスカ戦だった。

モダンフットボールの真逆を行ったレアル

ボールを持った者は個人で仕掛けて自らの技を披露する。トラップ、ドリブル、フェイント、クイックターン、ヒールキック、そしてあのマルセイユルーレットまで。曲芸のようなトリッキーで楽しいプレーの連続。数的有利を作っての打開を忘れ、ほとんどすべてが1対1での打開なので、攻守の切り替えの遅いこと! 居るべきところに居ないからあちこちに大穴が空き、プレスがかけられないからボール回復が遅れ、ワンタッチパスも出せない。
要するに、レアル・マドリードがやっていたのはモダンなフットボールの真逆。タレント任せのフリースタイルで創造力あふれる、しかし遅くて効率の悪い古風なフットボール。むしろウエスカがやっていたのが、モダンなフットボールだった。

試合が面白いシーソーゲームになったのは、レアル・マドリードの戦術的な緩さを非常に良く鍛えられた戦術でウエスカが突いてきたからだった。戦術はタレントの差を埋める。最下位のチームにしてこの戦術的レベルの高さは、リーガのレベルの高さを証明するものだった。と同時に、好チーム、ウエスカの努力を最後はタレントが制してレアル・マドリードが勝利する、という幕切れもまた、モダンなフットボールの無情さをよく象徴するものだった。スモールクラブの大健闘はしばしば、ビッグクラブの並み以下の内容に及ばない。勝敗を分けたもの、それは財政力の差、すなわちタレントの差だった。

来シーズンを見据えて「チームを変える」

ジダンにしても、さすがに自由にやって来いと送り出したわけでなかったことは、ハーフタイム後に修正してきたことからうかがえた。
イスコがボランチで、ブラヒム・ディアスが右インサイドMFで、マルコス・ジョレンテがトップ下で、ベイルがCFってことはなくなり、ちゃんとそれぞれ右インサイドMF、左FW、ボランチ、右FWというポジションを守った。ポジションチェンジをする時には必ず周りの同意&サポートの上だった。
ジダンにはちゃんと浸透した戦術がある。攻撃時[4-3-3]、守備時[4-4-2]、1ボランチ、2インサイドMF、両SBが高いポジショニングをし、攻守の切り替えが速く主にカウンターで点を取るサッカーだ。しかし、選手がこのチャンピオンズリーグ3連覇を達成したスタイルを守らなかったのは、新監督へのアピールの場だ、と考えたからではなかったか。それも、来シーズンへのアピールである。

チームにタイトル獲得の可能性はほとんど残っておらず、コンペティションの重圧は無い。クルトワ、ヴァラン、クロース、モドリッチが招集されず、ケイラー・ナバスとカゼミーロがベンチに置かれた結果、周りにはこれまであまり出番の無かった者ばかり――リュカ・ジダン、オドリオソラ、ナチョ・フェルナンデス、マルコス・ジョレンテ、ダニ・セバージョス、ブラヒム・ディアス、イスコ、ベイル――。この状況で、良いところを見せようと張り切る余り個人技に走るのは無理の無いことのように思える。
ジダンも残り試合を来シーズン用の選手の選択、いわば“キャスティング”として使うことを否定していない。
「来シーズンはどうなるかという話題が出ているが、すべての選手を尊重して欲しい」、「今は来シーズンのことを話すべき時ではない」と断りながらも、「我われは(チームを)変える」と断言しているからだ。

ジダン復帰の条件の一つは、選手の取捨選択に関する全権委任だと言われている。これまでフロレンティーノ・ペレス会長主導だった補強を監督自らが行うことになるのだ。つまり、まずは彼のスポーツディレクターとしてのお手並み拝見、新戦術というものが見られるとすれば、チーム作り終了後のプレシーズンになるはずだ。残り試合は、逆に戦術的縛りを緩めて個を発揮しやすくさせる、というふうに臨むのではないか。

写真:getty images
文:木村浩嗣

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