【木村浩嗣コラム】メッシへのアウェーファンの拍手とコールが証明したもの

  • 2019/03/29

text by 木村浩嗣

第28節ベティスvsバルセロナの一戦にて。歴史的な瞬間に立ち会っている、という実感があった。記者席の前のファンが立ち上がり視界が塞がった。スタンディングオベーション。続いて、コールがスタンドに響き始めた。

「メーッシ!メーッシ!」

美しいゴールだった。センタリングに走り込み合わせたシュートは、綺麗な弧を描いてGKパウ・ロペスが伸ばした手の上をギリギリに越え、ネットを揺らした。1-4。ロレンのゴールで一瞬起きた反撃の機運は幻となって萎んだ。そんなベティスファンにとって落胆の瞬間に、誰からともなく拍手が起き、ヒーローの名が呼ばれ始めたのだった。

断っておくが、あの夜ベニート・ビジャマリンを埋めた5万4000人の観衆のおそらく95%以上はベティスファンだった。拍手とコールはバルセロナファンが先導したものではなかったし、メッシにもそれまで激しいブーイングが飛んでいた。

何が罵倒を絶賛に変えたのか?
ベティスファンの気持ちを想像してみた。
あのゴールで最初に心に湧いたのは、失望であったはずだ。ふがいない自チームへのブーイングが起きていてもおかしくない。なにせ、カンプ・ノウでバルセロナを破る(バルセロナ3-4ベティス)という快挙を経ての対戦であり、ベティコ(ベティスファン)の試合前の期待は大いに膨らんでいたのだ。

しかし、落胆よりも先に拍手したくなった。敵と味方を忘れるほど、美しいフィニッシュだったからだ。ノートラップでメッシが足を振ってから、GKの精一杯のジャンプ、クロスバーをかすめてネットが揺れるまで、滞空時間の長さもあって、まるでスローモーションのようだった。魅了されて思わず手を叩くというのは、鑑賞者の自然な反応ではないだろうか?

サッカーの“美”とは

GKパウ・ロペスは信じられない、というふうに目を見開き大きく息を吐いた。“なんてゴールだ”という声が聞こえてきそうだった。地元ラジオの解説者も「なんて、ビチャラコ(俗語で「怪物」)だ。彼の前では何にもできやしない」とため息。それは悔しさと驚きを通り越して、感心ですらあった。

「サッカーに美は関係ない。勝てれば良い」という意見がある。私はそれは違うと思う。プロスポーツはエンターテインメントであり、ショーである限り美しいか否か(美の基準は人によって違うにしても)は、重要な要素である。スタンディングオベーションとコールは、メッシのアイディアが大胆で、技術的に超高難度で、ループシュートの軌道が息を呑むほど繊細だったからこそ、起きた。あれ、ワントラップして普通に強く蹴り込んでいたら、憎き敵と情けない味方への容赦ないブーイングとなっていたはずだ。美しさに見惚れたからこそ思わず、ブラボーという声が出た。
試合後のエルネスト・バルベルデ監督とキケ・セティエン監督の反応は、「驚嘆」を通り越して「感謝」ですらあった。
「生で見られる幸運をみんなが味わえるわけではない」(バルベルデ)。「彼と一緒の時代を生きるのは特権だ」(セティエン)。セティエンはベティスファンの行為を「サッカーを楽しくする偉大な選手を正当に評価する大変好ましいもの」と称えた。

敵味方を超えた称賛の形

アウェーファンが敵の選手を拍手する、というのはめったにないが、初めてではない。リーガのファンならば05-06シーズン、サンティアゴ・ベルナベウのファンがロナウジーニョにスタンディングオベーションをしたシーンを覚えているかもしれない。あの時もレアル・マドリードの選手をぶっち切って手玉に取るロナウジーニョのあまりの凄さに、宿敵のファンは思わず立ち上がった。

選手のクオリティに対する評価だけではなく、功労という意味でもW杯優勝ゴールのイニエスタと、スーパープレーにも胸を張らない素朴な人柄とが愛されたバレロンは、どのスタジアムでも喝采で迎えられた。今なら、大ケガから復活したサンティ・カソルラと、大ベテランのホアキン(もちろん宿敵セビージャのホームスタジアム以外)に対しては、アウェーファンからも拍手が起きる。

だが、今回のメッシへのようにコールまで鳴り響く、というのは前代未聞である。
イニエスタやカソルラらと違い、メッシの場合は当日のパフォーマンス(スーパーゴールとスーパーFKを含めてハットトリック)への称賛であるから、次にベニート・ビジャマリンを訪れた時は、普通にブーイングとなるだろう。それが当然である。
が、だからこそ、あのメッシのプレーがいかにスーパーで、あの夜がいかにスペシャルであったか、という証拠でもある。
家路につく私の気持ちは、多くのベティスファンと分かち合えるものだったと想像する。
「一生忘れられない瞬間に立ち会え、本当に良かった」

写真:getty images
文:木村浩嗣

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