【木村浩嗣コラム】ベティスと正反対、エイバルと似て非なるアラベスで、乾はどこまでやれるか?

  • 2019/02/12

text by 木村浩嗣

エイバル→ベティス→アラベス。
この乾の足取りは戦術的な観点からすると滅茶苦茶面白い。というのも、全然スタイルが違っており、この3クラブで欧州の主要スタイルを網羅することになるからだ。アラベスの乾を見る前に、エイバルの乾、ベティスの乾をおさらいし、それぞれの戦術と相性を確認しておこう。

エイバルの乾は“前からがんがん”

まず、エイバルの乾はどうだったか?
エイバルのプレースタイルを今流行の言葉で「ストーミング」と呼ぶ。その名の通り、嵐のようなプレスですぐさまボールを奪い返し、相手の陣形が整う前に攻め切ってしまう、というサッカーだ。
アグレッシブにがんがん前から行き、どんどんクロスを送り込んだ結果、エイバルのクロス数549本(第22節までの通算。以下同)は2位ヘタフェを160本以上引き離す、圧倒的なリーガ最多の数となった。
ホセ・ルイス・メンディリバル監督は「ポゼッションにはこだわらない」と言っているが、ボール支配率55.6%(前半戦の通算。以下同)はリーガ4位。ラインを上げ相手陣内でプレーすることを目指すゆえに、マイボールの時間は自ずと長くなる。だが、奪ったボールをゆっくり回したりせず直線的に相手ゴールを目指す。前からのプレスの結果、ボールの奪回点は敵陣深くのはずで、回り道をする必要はないのだ。
リヴァプールのクロップ監督がドルトムント時代に採用して有名になったが、スペインではメンディリバルが学んだアスレティック・ビルバオの伝統的なスタイルである。
このストーミングチーム、エイバルでの乾のタスクは、やはり前からがんがん行け、というものだった。
[4-4-2]の左サイドが主戦場だった彼の典型的なプレーは、激しくプレスを掛け、ボールを奪ったら2トップとコンビをするか、自分からドリブルを仕掛けるか、サイドバックの上がりを待って対角線に切り込むかで、クロスまたはシュートでプレーを終える。後ろで味方がボールを奪い返した時は、カウンターの起点になるために開いてサイドでボールをもらう。逆サイドでプレーが展開している時も、開いてサイドチェンジに備える。
いずれにせよ、乾の背中には常にサイドラインがあり、内に絞る相手のマークからは自由でスペースがあった。戦術眼があり守備に忠実で、スピードがありドリブルが得意で肉弾戦にハンデがある彼には、ストーミングは向いていた。

ベティスの乾は“窮屈な中で自由との葛藤”

次に、ベティスの乾はどうだったか? ベティスのスタイルは言わずと知れた「ポゼッション」。ボールを支配することで試合の主導権を握り、適切にポジショニングした選手間でボールを動かしながら相手ゴールに迫る、というスタイルだ。
ボール支配には味方の攻撃時間を長くし相手を消耗させ、守備の負担を軽くする効果がある。ベティスのボール支配率64.9%は貫禄のナンバー1で、あのバルセロナよりも上。1万2726本のパス本数はバルセロナ、レアル・マドリーに次ぐ3位で、その9割以上がショートパスである。
ただし、ボール支配は「攻撃中の状態」を意味するものの、「支配率が高いほど攻撃的」、とは限らない。ベティスの26得点は中位でエイバルの29点よりも下。「我慢」というキケ・セティエン監督の口癖通り、辛抱強くパスを繋ぎに繋いでやっと点が入る、という感じだ。ストーミングは「アグレッシブでスピーディ」、ポゼッションは「オフェンシブで支配的」と形容できるかもしれない。どっちが好きかは好みの問題だと思う。
このポゼッションチーム、ベティスでの乾のタスクは、ポジションを乱さずボールを繋ぐ、というもの。
[3-4-2-1]の「左寄りトップ下」という立ち位置の曖昧さが象徴する通り、エイバル時代ほど求められるプレーが決められていなかった。ドリブルしても良いがパスをしても良い、という感じ。エイバルならサイドでもらったら突っかければ良く、それが求められていた。が、ベティスでは周りに必ずパスコースがあるから、単独で行くかコンビネーションをするか、前へ行くか一端戻すかを判断しなければならない。なまじオプションがあるゆえに難しいのだ。
キケ・セティエンの求めるものにはメンディリバルのような明確な決まりが無いように見えた。“自由にやっていいけどベストを選べ”と言われているようなものだったのではないか。それでいて、ポジショニングには非常に厳格なルールがあって、サイドに流れてボールをもらうのは原則禁止されていた。ポゼッションサッカーには「ポジショナルプレー」と呼ばれるボールを効率的に支配するためのポジショニングの原則があるから、見かけほど自由度は高くないのだ。
左サイドは左ウインガーの領域で、乾のものではなかった。彼はスペースの無い中寄りのゾーン、遅攻であるゆえに裏へ飛び出す余地も無いゾーンで窮屈そうにプレーしていた。周りとの感覚的なコンビネーション、個とチームの優先順位などを考え過ぎているうちに迷路に入り込んでしまい力が出せなくなってしまったのではないか。当たられると弱く器用さよりダイナミックさで勝負する方。少なくともあのシステムと並びでプレーする限り、乾はポゼッションには向いていない、と結論せざるを得なかった……。

アラベスの乾は…堅守速攻のチームに見える可能性

そして、アラベスの乾である。 新天地のプレースタイルは「堅守速攻」。エイバルのようにアグレッシブでなく、ベティスのようにオフェンシブではなく、デフェンシブなサッカーだ。
そのプレースタイルは以下のようなデータで想像できるだろう。ボール支配率の低さ41.8%(18位)、パスの少なさ7126本(19位)、にもかかわらずロングパスの多さ1528本(5位)、センタリングの多さ387本(6位)。ボールを相手に譲り後ろへ引いて守りロングパスでカウンターに転じる――。
要は、ストーミングやポゼッションに比べるとシンプルなのだが、非常に手作り感のある好チームである。アベラルド・フェルナンデス監督は、各ポジションの役割分担をきっちり定め、一芸に秀でた選手を配置している。「君はこれが得意だからここ」と、求めるプレーを決めてからピースを集めるやり方だ。
システムは[4-4-2]で、2トップはポストプレーとクサビ要員、両サイドはセンタリングとミドルシュートの巧者、2ボランチはフィジカルが強く運動量のある壊し屋、最終ラインは高くて強い守備&攻守のセットプレー要員で、それぞれ構成されている。個々の役割が極めて明確でシンプルで、チームとして戦術が非常に良く浸透しており迷いがない。その分レギュラーの代えも利かないし、戦術的な幅もないのだが、小クラブを強化するには最適のやり方である。身の丈に合った正しい戦い方を授けられ、持てる力を最大限に引き出した結果が、現在7位、32ポイントという数字に表れている。
この一芸に秀でた者を最強となるよう組み合わせる、というアベラルドの設計思想はプレースタイルは異なるものの、メンディリバルと共通している。最初にポゼッションサッカーありき、というキケ・セティエンのやり方とは違う。
この堅守速攻のチーム、アラベスで乾を待つポジションも役割も明確だ。右サイドで、センタリングやミドルシューター、FKのキッカーとして攻撃を作ってくれというもの。要は、冬の移籍市場でアスレティック・ビルバオへ移籍した3ゴール、2アシストのイバイの代役である。
乾にとってはスペースのあるサイドは得意なポジションだが、「逆足」(利き足とは逆のサイドを任される)だったエイバル時代とは違い「順足」でのプレーとなる。よって、求められるプレーも対角線侵入からの崩しではなく、縦へ真っ直ぐ抜けてのセンタリングあるいはアーリークロスに変わることになる。とはいえ、試合中の左右のサイドチェンジは自由だから、エイバル時代やロシアW杯で見られたような、左サイドから内へ切り返してシュートというようなシーンも見られるだろう。
加えて、イバイよりはスピードがある乾には、これまで左サイドのジョニー専門だった裏への飛び出し役も任されることになるのではないか。エイバル時代と同じくセットプレーの守備は免除されるだろうから、前に残ってスペースでボールを受けてカウンターの起点として攻め上がりを待つ。2トップの1人がエイバル時代の同僚ボルハ・バストンで、互いの持ち味を理解しているというのも有利な材料だ。

最後に、メンディリバルにもキケ・セティエンにもアベラルドにもインタビューした経験がある者として、監督の人柄についても一言。
メンディリバルは明るい親分、セティエンは頑固な哲学者、アベラルドは素朴なお兄さん、という感じだ。3人とも間違いなく良い人でビールを飲みながらサッカー談義すれば愉快な時を過ごせると思うが、一番気安く話ができるのはアベラルドではないだろうか。会った時には寿司が好きで日本に行きたいと盛んに言っていたが、サッカー以外のことにも好奇心旺盛で、乾とのコミュニケーションはまったく問題ないとみる。
地元のヒーローの後釜というプレッシャーはあるが、特徴に合った持ち場を用意されているし、エイバル時代を知るファンは親近感を抱いているだろうし、本人はバスク地方の寒くて雨が多い気候にも慣れているだろう。急ぎの補強が多い冬の移籍ではミスマッチに終わることも少なくないが、これ以上ない恵まれた条件での乾のアラベス行きだったと思う。

文:木村浩嗣

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