【木村浩嗣コラム】カナーレス、サンティ・カソルラ、ムニアイン……。カムバックの男たちが胸を熱くさせる
text by 木村浩嗣
先日ベニート・ビジャマリンで見たセルヒオ・カナーレスは、9年前サンチェスピスフアンで見た彼とは違っていた。
ベティス対ジローナ戦の54分、山なりのロングボールに飛び出し相手DFを置き去りにしたカナーレスは、ペナルティエリア内で切り替えしてマークを外し、センタリングを送った。これをロレンが叩き込んで同点。その後ロスタイムに決勝のPKを決めた。
ちょうど9年前、19歳の彼のGKの頭の上を越えるループシュート、GKとDF2人を抜いてのシュートという芸術的2ゴールを私は目撃していた。凄い選手が現れたと思ったら、すぐにレアル・マドリードに引き抜かれた。が、天国から地獄への道がそこから始まる。モウリーニョのパワー系のスタイルに合わず“ひ弱な選手”とレッテルを貼られて、バレンシアにレンタルに出される。新天地で2度右膝の十字靭帯を切り、移籍したソシエダで今度は左膝の十字靭帯を切断。昨夏ベティスにやって来た時は自由契約で、“ガラスの肉体を持つかつての天才”という印象だった。
だが、苦難を経たカナーレスは変身していた。あのスピード、さらに急ブレーキをかけての切り替えしに膝の不安はみじんも感じられず、太腿は太く体幹はごつくなっていた。気紛れな性格どころか、終了間際のPKキッカーを名乗り出るリーダーになっていた。彼の台頭が乾の道を塞いだのであり、日本人的には憎らしい存在だが、計2年近いリハビリを経ての復活劇には胸を熱くさせられる。これでリーグ5得点。9年前の自己記録6得点を更新しそうである。
復活を遂げた愛すべきベテランたち
大ケガからの復活と言えば、サンティ・カソルラ(ビジャレアル)もそうだ。
アーセナル時代の15年、左膝の十字靭帯断裂から6カ月ぶりに復帰したのもつかの間、右足首の骨とアキレス腱のケガで翌16年10月を最後にプレーできないまま、昨夏自由契約で古巣のビジャレアルに戻って来た。当時はリハビリ中で、医者に「子供と庭を歩くことができたら満足すべき」とさえ言われた彼が、先日のR・マドリード戦ではまさかの2ゴール! カソルラの歓喜はスペインだけでなくイングランドでも拍手と驚きで迎えられた。
同じビジャレアルのセルヒオ・アセンホも茨の道を乗り越えて来た。
アトレティコ・マドリード時代の10年に右膝十字靭帯を損傷したままEL決勝でプレーし優勝に貢献するも、翌年レンタル先のマラガで今度は左膝十字靭帯を断裂。さらにビジャレアルで15年に右膝の十字靭帯、17年に左膝の十字靭帯を切った。4度の重傷のリハビリ期間の合計は860日以上に及ぶ。「それでも引退しようとは一度も思わなかった」という。チームは苦しんでいるが、だからこそGKが光る。カナーレスとともに代表入りを押す声が上がっている。
ムニアイン(アスレティック・ビルバオ)の復活もうれしい。
12年19歳で代表デビューした早熟の天才も15年に左膝、17年に右膝の十字靭帯を断裂。15年の時はセビージャ戦だったので目の前で倒れるところを見ていた。アウェイにもかかわらずサンチェスピスフアンのお客さんが激励のスタンディングオベーションで担架を送り出したことを覚えている。いずれも回復したものの、怖がっているのか1対1を仕掛けない消極的さが気になっていた。しかし、今シーズンはドリブルのスピードも回復し、持ち前のパス能力を生かしてトップ下として新境地を開いている。何より、アニメ『ザ・シプソンズ』のいたずら小僧バートというあだ名の通りの、子供のような笑顔が戻って来たのがうれしい。
サッカー選手が負傷する可能性は「工場労働者の1000倍」
サッカー選手にケガはつきものだ。UEFAのメディカルレポートによると、負傷の危険性は「工場労働者の1000倍」であり、1チーム当たり常時2、3人がケガをしている状態だとされる。今回取り上げたカムバック選手のほとんどがキャリアの絶好調時に最初の大ケガを負っている。それだけに精神的なショックも大きかったはずだ。全治1カ月以上の重傷を3回以上経験した選手が鬱(うつ)など「心の健康に問題を抱える可能性は2~4倍」という調査もある。“なぜ自分が……”、“なぜこんな時に……”という嘆きを克服し、医者でさえ悲観的にならなければいけない状況で復帰を信じ続けた心の強さが、私に「やればできる!」という、忘れかけていた言葉を思い出させてくれるのだ。 今も長期負傷中の選手たちがいる。ラフィーニャ、ウムティティ(ともにバルセロナ)、ジエゴ・コスタ(アトレティコ・マドリード)、アマット、マイケル・ベルガラ(ともにヘタフェ)、モヒカ(ジローナ)、ルイジーニョ(ウエスカ)、ノリート(セビージャ)、ルイスミ(バジャドリード)らだ。彼らの復帰を祈りつつ、カムバック組を応援し励みにしていきたいと思う。
文:木村浩嗣
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