【木村浩嗣コラム】VARの見えないインパクト

  • 2018/12/07

text by 木村浩嗣

リーガに今シーズンから導入されたVAR(審判補助システム)のインパクトを測る面白いデータがある。12月3日(月)付『AS』紙が現在の順位表とVARが導入されてないと仮定しての順位表を比較しているのだ。

それによると、第14節終了時(月曜開催のレバンテ対アスレティック・ビルバオのみ未消化)で、VAR導入により得したチームは5つ。勝ち点プラス5がジローナ、3がレバンテ、プラス2がセビージャ、プラス1がエイバルとレガネス。損をしたのは9チーム。勝ち点マイナス2がアスレティックとラージョ・バジェカーノ、ウエスカ、マイナス1がレアル・マドリードとエスパニョール、ヘタフェ、バレンシア、セルタ、ビジャレアル。変動なしがバルセロナ、アトレティコ・マドリード、アラベス、レアル・ソシエダ、ベティス、バジャドリードの6チームである。

6位で欧州カップ戦出場圏内に肉薄するジローナはVAR抜きでは14位に、中位(11位)のレバンテはVAR抜き降格圏ぎりぎりの17位に転落していたことになる。だが、この2チームを除けば順位が劇的に変わるわけではないし、勝ち点差も14試合を終えてプラスマイナス2くらいなら大したことがないように見える。だが、これは大間違い。1ポイント差で優勝と準優勝、CL出場権とEL出場権、欧州カップ戦出場と不出場、残留と降格の分かれることはざらにあるし、しかも今シーズンはご存じの通りの混戦である。
さらに言えば、この統計はゴールに関するミスジャッジをVARが正しそれが勝敗に影響したケースのみ(12回)に限定したものだ。

VARの公正さへの追求

勝ち点に換算できないVARの影響というのは膨大にある。例えば、エイバルがクラブ史上初めてR・マドリードを破った試合(3-0)でのエスカランテの1点目。審判のジャッジ通り認められず0-0で後半に入っていたら、エイバルはR・マドリードの攻勢を耐えられただろうか?
エイバルの選手たちは、ミスジャッジを疑いながらもナーバスにならず平常心でいられただろうか?

ゴールが試合の流れを作り、選手のメンタリティも決める。あの試合、エイバルの先制点がファウルで取り消されていたら、私は勝敗が逆になった可能性は小さくないと思う。先の統計には、エイバル大勝の筋道を作った先制点を認めるという、VARの決定的な役割は反映されていない。その他VARによる正しい退場処分が勝敗を分けたこともあったろうが、これも換算されていない。

1つのミスジャッジが勝敗を分けることは珍しくない。ミスジャッジが勝負を決め、それで順位が上下して天国と地獄に分かれる、なんて不公平があっても良いのだろうか?
そう、良かったのだ、昨シーズンまでは。“ミスジャッジもサッカーの一部”なんて偉大な寛容さで誰もが我慢を強いられていたのである。しかし、まだシーズンの半分も終わっていないがVARの公正さを経験した今となっては、不公平な過去へは戻れない。

スペインでの成功が追い風になって、UEFAが来シーズンからの導入予定を今シーズンのCL決勝トーナメントからに前倒しにすることを検討中だという。当然だろう。VARはより公正なジャッジによるより公正なコンペティション実現に間違いなく貢献しているのだから。VARに勝ち点が減らされた監督や選手でも、チームの努力が公正にスコアや勝ち点に反映されることに異を唱える者はいないだろう。

VARの導入は成功か失敗か

VARにも改善すべき点がある。
例えばセビージャ・ダービーでのロケ・メサの退場はミスジャッジだったが、VARは介入しなかった。VARの審査対象が一発退場に限定されるからなのだが、2枚目のイエローにも対象を広げても良いのではないか。また、VARの映像をチェックするのは結局人間だからミスジャッジはゼロにはならない。特にビデオでは見えないハンドの故意か否かの判断では問題ジャッジも依然生まれている。

しかし、最も激しい論争を起こしていたゴールラインを越えたか否かの判断、オフサイドか否かの判断については、VARが完全に抗議の声を沈黙させた感がある。VARによる中断を問題にする者もいるが、抗議による中断が激減した分埋め合わせはできているのではないか。

取り消しの恐れがあるので、選手のゴールパフォーマンスもスタンドのファンの歓喜も控えめになったというマイナスはある。私の取材した試合でセビージャのゴールが数分間に2回連続で取り消されたことがあった。スタジアムの絶叫アナウンスもクラブのセレブレーション映像も見事に空回りしたが、溜息や失笑が漏れてもブーイングは思ったほど起きなかった。“VARの判定だから正しいに違いない”という説得力がファンの間にも浸透しつつあるのだろう。

VARに関するスポークスマンを務めているロシアW杯でVARを経験した審判のマテウ・ラオスがこんなことを言っている。
「ジャッジを楽しめるようになった。前は家に帰った時『どうしてこれが見えなかったのだ?』と自分を責めることがあった。今はVARのおかげでああいう眠れない夜を過ごすことがなくなった」
リーガのVAR導入、大成功と言って良いだろう。

文:木村浩嗣

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