【木村浩嗣コラム】レベルの底上げをするクラブに注目。混戦時代の新しいリーガの見方

  • 2018/11/13

text by 木村浩嗣

リーガが混戦になっている。
首位バルセロナがこのままのペースでゴールインしても勝ち点は83ポイントにしかならない(第11節終了時点)。95-96シーズンに勝利には勝ち点3が与えられるようになって以降勝ち点90を突破したチームは、バルセロナ(8回)、レアル・マドリード(6回)、アトレティコ・マドリード(1回)しかない。09-10シーズンから2強独走時代に入り、13-14にアトレティコ・マドリードが優勝し3強となっても、その他17チームとの差が埋まることはなかった。
しかし、優勝ラインが70点台後半から80点台前半に下がれば2強、3強以外にもチャンスがある。ちょうど90年代後半から2000年代初めにかけて、デポルティーボ優勝(99-00)、バレンシア優勝(01-02、03-04)、レアル・ソシエダ最終節で優勝逃す(02-03)という混戦時代があったが、いちリーガファンとしてはあの再現を願いたい。

優勝慣れしていないチームの快挙というのにはホームタウンが盛り上がるのはもちろん、アンチ3強を含めたサッカーファン全体が応援するという特別な昂揚感があるものだ。プロサッカー界も格差社会であるゆえに、逆境にある者が不利を克服するストーリーに人は引き付けられるのは当然だろう。3強ファンには気の毒な願いではあるが、そこは絶対的な強さと優位さの裏返しであると理解してほしい。

◆スモールクラブの奮闘が目立った第11節


混戦の理由はいくつかある。
強豪に集中するW杯参戦組の疲労(ウムティティ、ヴァラン、モドリッチ、グリーズマンの不調はその象徴)、16-17シーズンから実施される放映権料のより公平な分配(それでも2強に総売り上げの20%が集中しているが、以前は30%超だった)、2強、特にクリスティアーノ・ロナウド退団のレアル・マドリードが過渡期にあること。だが、もう1つ今季ならではの現象がある。
それが欧州カップ戦の圏外にあるクラブ、実績的にも経営規模から言っても、失礼ながら“小クラブ”と呼ばざるを得ないクラブの奮闘である。アラベス、レバンテ、ヘタフェ、バジャドリード、ジローナ、エイバルといった上中位に食い込んでいるクラブだけでなく、降格圏内のレガネス、ラージョ、ウエスカも十分強い。

こうしたスモールクラブの奮闘ぶりは第11節の3強の慌てぶりを見れば明らかである。
レガネスはリードすれば圧倒的に強いアトレティコ・マドリードに追い着いたし、バルセロナにピケをCFにして放り込む、という禁じ手を使わせたのはラージョだったし、ヴィニシウスのラッキーゴールまでレアル・マドリードの本拠地サンティアゴ・ベルナベウで優勢だったのは2本のシュートが枠に弾かれたバジャドリードだった。振り返ればバルセロナに唯一の黒星を付けたのはレガネスで、レアル・マドリードの4敗のうち2敗はアラベスとレバンテによるものである。“小さければ弱い”というのが、戦力がお金で買えるプロサッカー界では道理。だが、これらのクラブは小ではあっても弱ではない。
なぜか?

1つは欧州カップ戦の負担がないこと。
週2試合の過酷さは、セビージャ以外のCL、EL出場組ベティス、バレンシア、ビジャレアルがリーガでは苦戦していることでもわかる。奮闘小クラブは1週間きちんと練習をして、休養もモチベーションも十分で最高の心身のコンディションで週末の晴れの舞台に臨む。この点が主力を温存したり、疲労を引きずったりしているCL、EL出場組とは絶対的に違う。

2つ目の理由が戦術の質と浸透度の違い。
彼らの戦術はポゼッションではないが、従来型の引きっ放しの堅守速攻ではない。守りを固めるためにボールの後ろに人数を裂き、スペースを無くすためにライン間を詰めはするが、最終ラインは低いままではない。攻め込まれればラインは下げるが、相手がプレスを掛けてこなければラインを上げる。ボールだって放棄しているわけではなく、チャンスがあればGKからきちんと繋いでくる。
リーガの選手がさすがだと思うのは、スモールクラブの名の知られていない選手でもボールを触らせたら滅茶苦茶うまいこと。第11節を見た人ならわかると思うが、バジャドリードのボランチのアルカラスとミチェルは楽々とレアル・マドリードのプレスをかわし、トニ・ビジャは左サイドを好きなように切り裂いていた。バルセロナを苦しめたラージョの左サイド、ポソとアレックス・モレーノのコンビ、ボランチのインビュラのプレーにも見るべきものがあった。

こうして要所、要所にハイレベルの選手を置き、スタミナ十分、集中力抜群で、練習でみっちり鍛えた効果的な戦術を遂行するとなると、かなり手強い。引きっ放しの堅守速攻は“弱者の戦法”と呼ばれていたが、今の小クラブの戦法はラインの上下動、ポゼッションも辞さない高度なもので、格上にもサプライズを起こせる強度を手に入れた。もう弱者ではなくなったわけで、“格下の戦法”ではあっても“弱者の戦法”とは呼べなくなっている。
これまでリーガのレベルは3強やセビージャが欧州カップ戦で優勝することで保証されてきた。いわば上から引っ張る形でレベルを上げてきたのだが、今季は違う。そうした欧州有数のチームを小クラブが倒すことでレベルを底上げする形になっている。

◆小クラブの健闘は“心の琴線に触れる”


さて、3強が大差で当然のように勝つ時代ではなくなって、週末の楽しみが増えるだけではなく楽しみ方も変わった。今は小クラブが3強にどう立ち向かいサプライズを起こすかに注目して観戦している。要は中立な視点ではなく、小さい方に肩入れして見るということだ。
バジャドリードやアラベスやレバンテが3強相手にリアルに勝てるようになり、感動が現実のものとなったし、結果的に勝てなくてもギリギリまで追い詰めた、というだけで喜びは大きい。なぜなら、小クラブの大健闘は必ず「心の琴線に触れる要素」――決して油断せず、走り惜しみせず、戦術のために団結し、チームに献身的であり、要所でタレントが光り、止まない応援に後押しされる――に裏付けされているからだ。

小クラブのゴールというのはほぼ間違いなく、個の100%×チームの100%の結果であり、誰かがどこかでさぼったりミスしたりすればあり得なかったというもの。言わば、練習の集大成であり、チームワークの結晶であり、全部がうまく行った奇跡の瞬間でもある。スーパースターのスーパーゴールもスーパーだが、チームによる限界ギリギリのプレーの集積としてのゴールもやはりスーパーなのだ。

小さなクラブが起こす大きな驚きとドキドキのある週末がリーガの魅力となろうとしている。3強のファンだけでなくアンチ派や贔屓チームのないファンまで含めた幅広い層が楽しめるシーズンとなってくれそうだ。

文:木村浩嗣

閉じる

My番組登録とは?

My番組登録で見逃し防止!

見たい番組、気になる番組をあらかじめ登録。
放送時間前のリマインドメールで番組をうっかり見逃すことがありません。

利用するには?

WEB会員IDをご登録のうえ、ログインしてご利用ください。

WEB会員IDをお持ちでない方
WEB会員IDを登録する
WEB会員IDをお持ちの方
ログインする
閉じる

番組で使用されているアイコンについて

初回放送
新番組
最終回
生放送
5.1chサラウンド放送
二カ国語版放送
吹替版放送
字幕版放送
字幕放送
ノンスクランブル(無料放送)
オンデマンドでの同時配信
2009年4月以前に映倫審査を受けた作品で、PG-12指定(12歳未満は保護者同伴が望ましい)されたもの
劇場公開時、PG12指定(小学生以下は助言・指導が必要)されたもの
2009年4月以前に映倫審査を受けた作品で、R-15指定(15歳未満鑑賞不可)されたもの
R-15指定に相当する場面があると思われるもの
劇場公開時、R15+指定(15歳以上鑑賞可)されたもの
R15+指定に相当する場面があると思われるもの
1998年4月以前に映倫審査を受けた作品で、R指定(一般映画制限付き)とされたもの