「松岡修造観戦記」松岡修造さん特別寄稿

2026.10.05

これから「圭チャレンジ」のスタートだ!

錦織圭選手、現役最後の試合。有明のセンターコートは「ありがとう」で包まれていた。

会場にいた人も、テレビの前で見ていた人も、世界中で圭を応援してきた人も、それぞれの「ありがとう」を錦織圭に届けていたと思う。

僕も、「ありがとう」だらけだった。
11歳の圭に初めて出会ってから、僕は圭の世界へのチャレンジをずっと追いかけてきた。
圭が世界へ進んでいくたびに、僕も一緒に世界へ連れていってもらった。

だから今、僕なりの「ありがとう」を圭に伝えたい。

🎾ありがとう。
僕に、第二の青春をくれて。

現役を退いた僕に、もう一度、世界のテニスを教えてくれた。

グランドスラムの決勝という景色を見せてくれた。
「日本人でも、ここまで行ける」
その可能性を、言葉ではなくプレーで証明してくれた。
僕にとっても、圭のテニス人生は、まさに青春そのものだった。

🎾ありがとう。
本当のテニスを教えてくれて。

僕は圭から、本当のテニスも教えてもらった。
現役時代の僕は、とにかく一所懸命だった。
力を入れる。走る。声を出す。
それが頑張ることだと思っていた。
でも、圭は違った。

力が抜けている。柔らかい。
苦しい場面でも、自分をコントロールしている。

だからこそ、一瞬で相手を見て、感じて、選択して、誰も想像できないショットを生み出すことができた。

僕は圭を見ながら気づかされた。

一所懸命とは、力むことではない。
自分の力を一番発揮できる状態をつくること。

圭は僕に「正しい一所懸命」を教えてくれた。

🎾ありがとう。
僕を「テニスの松岡修造」でいさせてくれて。

現役を退いてから、僕はたくさんのスポーツを取材し、応援する立場になった。

でも圭が世界で戦い続けてくれたから、僕はずっとテニスにしがみつくことができた。

圭の試合があるたびに、僕の心は現役時代に戻った。

一球に震え、一球に叫び、一球に夢を見た。

圭、僕をずっとテニスの世界につなぎ止めてくれて、本当にありがとう。

🎾ありがとう。
日本のテニスを大きくしてくれて。

圭が勝てば、テニスがニュースになった。
どんな大会でも大きく報じられ、グランドスラムでは日本中が一球一球に一喜一憂した。

それは圭が強かったからだけではない。

決して大きな体ではない。
何度も怪我で苦しんだ。
負ければ、本気で悔しがった。
それでも工夫して、考えて、何度でも立ち上がった。

そんな圭の姿に、「自分もできるかもしれない」という思いを重ねていた人も多かったのではないだろうか。

🎾ありがとう。
日本のスポーツの可能性を広げてくれて。

今、日本のアスリートが世界のトップで戦う姿を、僕たちは当たり前のように目にしている。

でも、男子テニスという世界中の選手がしのぎを削るプロスポーツで、日本人が世界ランキング4位まで行き、グランドスラムの決勝に立つ。

圭がそこまで行く以前、それを現実の景色として想像できた人が、どれだけいただろう。

圭が世界の常識を変えたことで、「日本人でもできる」は夢ではなくなった。

その姿に勇気をもらい、世界を目指したアスリートは、テニスだけではないと僕は思っている。

🎾ありがとう。
日本のジュニアたちに「世界」を残してくれて。

圭が修造チャレンジに参加していた頃、僕が子どもたちに世界のテニスを説明するとき、例に出すのは海外のトップ選手たちだった。
でも、今は違う。
錦織圭がいる。

同じ日本で育った先輩が、世界ランキング4位まで行った。
しかも圭は、ジュニアの頃からすべてが一番だったわけではない。
特に、合宿のなかで毎回同じフィールドテストを行っていたが、圭の数字は決して目立つものではなかった。
だからこそ、その数字や圭が歩んできた道を知ることで、子どもたちは思える。
「自分にも、できるかもしれない」
圭は、日本のジュニアたちに「世界」を現実の目標に変えてくれた。
それは、日本テニスに残してくれた最も大きなエネルギーの一つだと僕は思っている。

そして、錦織圭最後の試合――。

僕はずっと願っていた。

最後の試合で、もう一度「本当の錦織圭」に会いたい。
何より、圭自身にもう一度「自分のテニス」と出会ってほしい、と。

そして試合の中で、
「圭が、圭に出会えた!」
そう感じる瞬間が、何度もあった。

鋭いリターン。
唯一無二のバックハンド。
柔らかなタッチ。

最後の最後まで、圭は勝ちにいっていた。

だから試合が終わった後、圭からは世界一の負けず嫌いの言葉が次々と湧き出てきた。

悔しい。
もっとできたはず。
もっといいテニスをしたかった。

僕は、その言葉がうれしかった。

最後まで負けず嫌いだった。
最後までチャレンジャーだった。
最後の一球まで、錦織圭だった。

ありがとう、圭。

もう十分戦った。
十分、自分と向き合った。
僕たちには想像できないほどの痛みや、犠牲もあったと思う。

だからこれからは、心の底から好きなことをしてほしい。

……と言いたい。

でも、僕は知っている。

錦織圭という人は、きっとそれだけでは終われない。

勝負が好きだ。
挑戦が好きだ。
まだ誰も見たことのない場所へ行くことが好きだ。

だから次は、どんな「錦織圭」を見せてくれるのだろう。

人を育てるのか。
新しいテニスの世界をつくるのか。
それとも僕たちの想像を、また超えてくれるのか。

僕にはわからない。

でも、一つだけわかっている。

錦織圭の「チャレンジ」は、今日で終わらない。

今度は僕が、「圭チャレンジ」を陰ながら応援させてもらいたい。

今日、一つの青春は終わったのかもしれない。

ただ、不思議な思いが湧き上がる。

これを書いている今も、
僕の心は熱くなっている。
震えている。

それはきっと、
錦織圭からもらった「できる」が、
僕の中ではまだ生き続けているからだ。

さあ、これから「圭チャレンジ」のスタートだ!

圭、これからも僕たちを、憧れさせてください。

ありがとう、錦織圭🎾

松岡修造

#ありがとう錦織圭

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