
これから「圭チャレンジ」のスタートだ!
錦織圭選手、現役最後の試合。有明のセンターコートは「ありがとう」で包まれていた。
会場にいた人も、テレビの前で見ていた人も、世界中で圭を応援してきた人も、それぞれの「ありがとう」を錦織圭に届けていたと思う。
僕も、「ありがとう」だらけだった。
11歳の圭に初めて出会ってから、僕は圭の世界へのチャレンジをずっと追いかけてきた。
圭が世界へ進んでいくたびに、僕も一緒に世界へ連れていってもらった。
だから今、僕なりの「ありがとう」を圭に伝えたい。
🎾ありがとう。
僕に、第二の青春をくれて。
現役を退いた僕に、もう一度、世界のテニスを教えてくれた。
グランドスラムの決勝という景色を見せてくれた。
「日本人でも、ここまで行ける」
その可能性を、言葉ではなくプレーで証明してくれた。
僕にとっても、圭のテニス人生は、まさに青春そのものだった。
🎾ありがとう。
本当のテニスを教えてくれて。
僕は圭から、本当のテニスも教えてもらった。
現役時代の僕は、とにかく一所懸命だった。
力を入れる。走る。声を出す。
それが頑張ることだと思っていた。
でも、圭は違った。
力が抜けている。柔らかい。
苦しい場面でも、自分をコントロールしている。
だからこそ、一瞬で相手を見て、感じて、選択して、誰も想像できないショットを生み出すことができた。
僕は圭を見ながら気づかされた。
一所懸命とは、力むことではない。
自分の力を一番発揮できる状態をつくること。
圭は僕に「正しい一所懸命」を教えてくれた。
🎾ありがとう。
僕を「テニスの松岡修造」でいさせてくれて。
現役を退いてから、僕はたくさんのスポーツを取材し、応援する立場になった。
でも圭が世界で戦い続けてくれたから、僕はずっとテニスにしがみつくことができた。
圭の試合があるたびに、僕の心は現役時代に戻った。
一球に震え、一球に叫び、一球に夢を見た。
圭、僕をずっとテニスの世界につなぎ止めてくれて、本当にありがとう。
🎾ありがとう。
日本のテニスを大きくしてくれて。
圭が勝てば、テニスがニュースになった。
どんな大会でも大きく報じられ、グランドスラムでは日本中が一球一球に一喜一憂した。
それは圭が強かったからだけではない。
決して大きな体ではない。
何度も怪我で苦しんだ。
負ければ、本気で悔しがった。
それでも工夫して、考えて、何度でも立ち上がった。
そんな圭の姿に、「自分もできるかもしれない」という思いを重ねていた人も多かったのではないだろうか。
🎾ありがとう。
日本のスポーツの可能性を広げてくれて。
今、日本のアスリートが世界のトップで戦う姿を、僕たちは当たり前のように目にしている。
でも、男子テニスという世界中の選手がしのぎを削るプロスポーツで、日本人が世界ランキング4位まで行き、グランドスラムの決勝に立つ。
圭がそこまで行く以前、それを現実の景色として想像できた人が、どれだけいただろう。
圭が世界の常識を変えたことで、「日本人でもできる」は夢ではなくなった。
その姿に勇気をもらい、世界を目指したアスリートは、テニスだけではないと僕は思っている。
🎾ありがとう。
日本のジュニアたちに「世界」を残してくれて。
圭が修造チャレンジに参加していた頃、僕が子どもたちに世界のテニスを説明するとき、例に出すのは海外のトップ選手たちだった。
でも、今は違う。
錦織圭がいる。
同じ日本で育った先輩が、世界ランキング4位まで行った。
しかも圭は、ジュニアの頃からすべてが一番だったわけではない。
特に、合宿のなかで毎回同じフィールドテストを行っていたが、圭の数字は決して目立つものではなかった。
だからこそ、その数字や圭が歩んできた道を知ることで、子どもたちは思える。
「自分にも、できるかもしれない」
圭は、日本のジュニアたちに「世界」を現実の目標に変えてくれた。
それは、日本テニスに残してくれた最も大きなエネルギーの一つだと僕は思っている。
そして、錦織圭最後の試合――。
僕はずっと願っていた。
最後の試合で、もう一度「本当の錦織圭」に会いたい。
何より、圭自身にもう一度「自分のテニス」と出会ってほしい、と。
そして試合の中で、
「圭が、圭に出会えた!」
そう感じる瞬間が、何度もあった。
鋭いリターン。
唯一無二のバックハンド。
柔らかなタッチ。
最後の最後まで、圭は勝ちにいっていた。
だから試合が終わった後、圭からは世界一の負けず嫌いの言葉が次々と湧き出てきた。
悔しい。
もっとできたはず。
もっといいテニスをしたかった。
僕は、その言葉がうれしかった。
最後まで負けず嫌いだった。
最後までチャレンジャーだった。
最後の一球まで、錦織圭だった。
ありがとう、圭。
もう十分戦った。
十分、自分と向き合った。
僕たちには想像できないほどの痛みや、犠牲もあったと思う。
だからこれからは、心の底から好きなことをしてほしい。
……と言いたい。
でも、僕は知っている。
錦織圭という人は、きっとそれだけでは終われない。
勝負が好きだ。
挑戦が好きだ。
まだ誰も見たことのない場所へ行くことが好きだ。
だから次は、どんな「錦織圭」を見せてくれるのだろう。
人を育てるのか。
新しいテニスの世界をつくるのか。
それとも僕たちの想像を、また超えてくれるのか。
僕にはわからない。
でも、一つだけわかっている。
錦織圭の「チャレンジ」は、今日で終わらない。
今度は僕が、「圭チャレンジ」を陰ながら応援させてもらいたい。
今日、一つの青春は終わったのかもしれない。
ただ、不思議な思いが湧き上がる。
これを書いている今も、
僕の心は熱くなっている。
震えている。
それはきっと、
錦織圭からもらった「できる」が、
僕の中ではまだ生き続けているからだ。
さあ、これから「圭チャレンジ」のスタートだ!
圭、これからも僕たちを、憧れさせてください。
ありがとう、錦織圭🎾
松岡修造


