日本曹洞宗の開祖である道元と怪しげな新興宗教の教祖の、信仰と人間社会の裏と表を描く。
日本曹洞宗の開祖・道元と、妖しげな新興宗教の教祖。時空を越えて、夢の世界でもつれあう二人の男の記憶と思想。“冒険”の果てに描き出される、信仰と社会の狂気―。時は寛元元年―。 舞台は日本曹洞宗の開祖、道元によって開かれた宝林寺。開山七周年の記念に、道元の前で弟子の禅僧達による余興『道元禅師半生記』が上演されようとしていたが、片腕である懐奘は、最近、急に眠り込んでしまう道元の体調を気にしている。この日もふとした拍子に夢の世界に引き込まれる道元。またいつもの夢―。夢の中で、道元は道元でなくなり、婦女暴行の容疑で拘留されているひとりの“男”になっている。自身と交わった女性の血は清められ、原罪を許されるという怪しげな新興宗教の教祖である“男”もまた、度々見る僧侶(道元)の夢に翻弄され、言動の奇妙さから精神鑑定の準備が進められているのだった。目覚めた道元を待っていたのは、新仏教をたちあげ、既存の仏教に否定的な道元を敵対視する連合軍の僧兵や幕府や朝廷からの来襲。悟りをひらき、人間の感情を超越できたと思っていた道元だったが、その圧力に動揺してしまう。「私の半生は無駄だったのだろうか?見せてくれ、私の半生を!」再び『道元禅師半生記』が始まった。高い理想を持って比叡山に出家した道元少年だったが、先輩僧たちの志しの低さ、幕府と癒着し出世を目指す師たちの姿に幻滅してしまう。本当の師を求め彷徨いはじめる、劇中の自分を見つめ続ける道元の姿もそこにはあった。困窮する道元の目の前に“男”が現れる。お互いを、自分の幻でしかないと言い合う二人の男が対峙した先に見えるものとは―。