例えば、観客がもっと競技会に参加できるような仕組みをつくったらどうだろうか。
僕は、スポーツの本質的な面白さというのは、主体性と能動的であるところだと思っている。スポーツを自分で「する」場合はもちろんのこと、スポーツする人々を「支える」ことも自発的な行動だ。スポーツ観戦――つまりスポーツを「見る」場合も、ただ目の前に起きていることを眺め、受け止めるだけよりは、能動的に観戦できるような仕掛けをつくったほうが、より楽しめるのではないかと思うのだ。
ダイヤモンドリーグ自体は、長くても2〜3時間。メインとなる競技自体に手を加えるのはちょっと無理かもしれない。でも、例えば、その前に誰でも50mのタイムが測定でき、自分のスピードが時速でわかるようにしたうえで、レースの際にトップ選手の時速が出るようにすれば、選手のスピードをより体感できるではないか。
また、予選のときに1レーンだけ枠をもらって、そこに日本の高校生や中学生、小学生を出場させることはできないか。きっと、その子たちにとっては、かけがえのない経験になるだろうし、レースを見守る観客だって、試合がより身近なものに感じられるようになるはずだ。
別の形の参加の仕方だってあると思う。
例えば、それぞれが観客席から撮った写真をその場でウェブ上にアップして、会場にいる人で1つのものをつくれるようにするとか、2時間程度の大会中に劇的な瞬間の撮った人の写真に「いいね!」を押せるようにして、最後に一番「いいね!」を集めた人を表彰するなんていうのはどうだろう。スポーツイベントとして選手が競うのと並行して、観客による写真のコンペティションが行われるなんて、なんとなく面白いじゃないか。
あるいは、電光掲示板の一部に、ずっとTwitterで大会の感想が流れていくようにしてもいいだろう。これは、すでにシンポジウムなどの会合では定着した感がある。僕が担当しているニュース番組でも行っているが、視聴者の声がダイレクトに伝わってきて、すごく“一緒に番組をつくっている感じ”を味わうことができる。これを競技場でやってみたい。
日本のITとかゲームソフトとかの領域というのは、すごくレベルが高いと思うのだが、それらと陸上競技を結びつけるソリューションはまだ出てきていない。そういう方向の面白さと陸上競技の面白さとをうまく結びつけるというのが、日本には向いているのではないだろうか。
僕自身の競技経験からも、今の立場で改めてダイヤモンドリーグを見ていても、「やっぱり陸上競技ってヨーロッパのものだよなあ」と感じることは多いのだが、といって日本はヨーロッパではないわけで、ヨーロッパの真似ばかりしていてもそれを超えることはできない。日本が得意とする技術や日本人が好むやり方を柔軟に取り入れて、日本の特徴を生かした競技会をつくり上げていく。そういう方向がベストだと思う。
ダイヤモンドリーグがスタートしたのは2010年。そう言うとまだ歴史が浅いように感じてしまうのだが、実は、国際陸上競技連盟(IAAF)が「グランプリ・サーキット」という名前のもとに、各国で開催されていた人気の高い競技会を1つのシリーズにまとめて、トップ選手たちが転戦していく仕組みをつくったのは1985年で、28年も前のことになる。その後、新たなクラスを発足させたり、クラス数を拡大したり、そもそもの名称を変更して再編成したりといった変遷を重ねて現在の形となった。世界最高峰のリーグとしてより高いレベルで選手たちを競わせるために、そして、何よりも、より魅力のあるエンターテイメントとして観客を満足させられるようにと、システムそのものをブラッシュアップしてきている。
いつか、日本でダイヤモンドリーグが開催され、日本の陸上ファンが毎年楽しみにするようになってくれたら…、海外のトップ選手たちが出場することをステイタスと感じてくれるようなイベントに育ってくれたら…。そんな思いを抱きながら、残る2戦を楽しむことにしよう。