このコラムがアップされるのは、世界陸上も終了して、ダイヤモンドリーグが再開しているころだと思うが、原稿を書いている今、僕はモスクワにいて、世界陸上を取材している。ダイヤモンドリーグで春先から活躍してきた選手が順当に勝つケースもあれば、今季はもう一つかなと思っていた選手が見事なまでにきっちりとピークを合わせてきて頂点に立つケースもあって、どの種目からも目が離せない。この結果が、大会後のダイヤモンドリーグ残り3戦にどう影響していくのか、各種目のポイント争いには大きな変化が生じるのか…。想像するだけでわくわくしてくる。
その世界陸上は、意外なことに大会終盤を迎えてもスタジアムが満員となることはなく、決勝種目が続く午後のセッションですらも空席が目についた。また、来場している観客にしても、応援の仕方を見る限り、陸上を知らない、あるいは競技場での観戦に慣れていない人がけっこう多い印象で、陸上大国ロシアであっても、そうなのだなと少し驚いた。
世界陸上やオリンピック、国内大会でいうなら日本選手権のように、予選から勝ち上がってタイトルを獲得する大会というのは、ラウンドが進むごとにたくさんのドラマが起きるので、陸上競技を知る者にとっては見応えがあり面白い。しかし、競技場のあちこちで複数の種目が同時進行していくがゆえに、陸上をよく知らない人がいきなり競技場で観戦すると、“どのタイミングで、何を見たらいいか、全くわからない”という状態に陥りがちだ。
それに比べて、ダイヤモンドリーグは単純明快といえるだろう。2〜3時間くらいの間に決勝種目が続けて行われ、その種目ごとに華やかなスター選手が出てきて優劣を競うという構図なので、陸上競技を知らない人でも、状況を把握しやすく楽しみやすい。
僕は、競技をやっていたころから、もっともっと日本で陸上競技の人気を高めるためにはどうしたらいいかということをずっと考えていて、自分にできるさまざまなアクションを起こしてはきたのだが、実際に競技場が満杯になるほど観客が集まる陸上大会の実現にはまだ至っていない。もしかしたら、十何年に1回の割合で世界陸上を開催するだけでなく、ダイヤモンドリーグの1戦を毎年日本で開催するようにして、会場へ足を運ぶファンを増やし、定着させていくようなアプローチがあってもいいのかもしれない。
もし、日本でダイヤモンドリーグを開催することになって、僕がミーティングディレクターとして大会の盛り上げを命じられたらどうするだろうか。
陸上競技に限らず、基本的に日本のスポーツ大会はすごく真面目。はっきり言って面白みがない。僕がダイヤモンドリーグを日本で開くとしたら、まず、その真面目すぎる部分を、いかにそうじゃなくするかに腐心すると思う。
スポーツが「体育」という名のもと、教育活動の一環として扱われてきた歴史のある日本では、スポーツ大会の運営についても、教育活動の延長線上でシステムが構築されている。それはそれで素晴らしいことではあるのだが、「競技する人」ばかりに意識が向いてしまっていて、残念ながら「見にきてくれる人」に楽しんでもらおうとする配慮に欠けている。
スポーツの語源はもともと「楽しむ」「遊ぶ」といった意味。スポーツの感覚は、まず「楽しい」が最初に来るべきだ。陸上競技大会をイベントと捉えると、ライバルとなってくるのは映画やレジャー、ゲームなど。観客を集めるためには、それらに勝てるような魅力的なアイデアが必要になってくる。