旅情あふれるミャンマー鉄道に揺られ、世界が注目する新興国の今に触れる。

希望の大地ミャンマーを行く

国民のおよそ9割を仏教徒が占め、その教えから“笑顔の国”と呼ばれるミャンマー。改革開放が進み、民主化という新たな歩みを始めたこの国は今、経済だけでなく観光の分野でも世界中から注目を浴びています。開発著しいヤンゴンから、第2の都市・マンダレーへと向かい、王朝の歴史や仏教文化、さらには少数民族の文化にも触れる鉄道の旅です。

INTERVIEW

現地取材ディレクター インタビュー

Q3年ぶりとなるアジア圏取材で、ミャンマーを取り上げられたのは何故ですか?
A「一言でいうと旬な国だからです。新政権が2011年に発足以来、政治的にも経済的にも国が沸いている情報がどんどん入ってくる中、次はミャンマーを取材したいと常に候補に挙げていました。また日本の中古の鉄道車輌がミャンマーで再利用されているという話は前々からキャッチしていて、鉄道の観点からも面白い絵が撮れると確信していたんです」。
Qミャンマーはどんな国でしたか?
A「とにかくこれからの国なのでインフラは整っていないし、つい最近まで軍事政権だった国で撮影許可がどこまで下りるか、心配は山ほどありました。だからこそ逆に、今が一番面白いタイミングと期待していましたが、行ってみると本当にびっくりするほど国民性が良かったです。子どもから年配の人までニコニコしている“笑顔の国”。冗談抜きで、東京砂漠で始終イライラしている自分は人間ができていないと反省するくらい、その笑顔には教わるものがありました。特に撮影に同行してくれた情報省と鉄道省の2人が非常に協力的で、あれもこれも撮りたいというリクエストに穏やかに対応してくれました。まともな地図がない中、鉄道省の方だからこそわかる最適な撮影スポットに案内してくれたり、忙しい時には次の駅に弁当を用意してくれることもあって。ミャンマーの人々には根本的に怒りを表に出すことは恥という考え方があるそうですが、2人はいつも笑顔でしたね。なんか、旅って出会った人で印象がぐっと変わりますよね。その1点から見てもミャンマーはストレスのない、気持ちのいい国でした」。
Qロケ中に困ったことはまったくなかったんですか?
A「電車が遅れる、ハエが飛んでる、なんてことは当たり前にありましたが、置き引きにも物乞いにも会いませんでした。むしろホテルなどは思っていたほど悪くなくて、どこも快適でしたよ。ただヤンゴンのホテルのキャンセル料が、予約した時点から100%というのには驚きました。海外の企業が続々進出している今は、超売り手市場なんです。インレー湖では欧米の旅行者を多く見ましたし、ビジネスだけでなく観光面からもミャンマーを訪れる人は非常に増えているんです。都市化が進む他のアジアと違い、ミャンマーにはまだ欧米人が憧れる東南アジアらしいゆったりとした空気が流れているからなんでしょうね」。
Q中でもここは良かったと思う街を教えてください。
A「ミャンマーにこれから行く人に是非おススメしたいのは、オールドバガンです。寺院や教会を世界中で見てきて、ヴァチカンの荘厳さや威圧感は凄いと思っていたけれど、それに匹敵する迫力がありました。特に我々は気球から遺跡を見下ろすチャンスがあって、その景観たるやこの国が信仰心に篤い仏教国であることをしみじみと教えてくれました。またその仏教にも他にはないミャンマーらしさを感じることがしばしばありました。例えば、ピィのシュエミェッマン・パヤーのご本尊やインレー湖の仏像。眼鏡をかけた仏像も、金箔だらけで原型を留めていない仏像も、ナニコレ?と笑ってしまうようなところがあります。仏像って本来崇高なものですが、見る者を笑顔にするような表情や状態の仏像に、大らかで穏やかなミャンマーそのものがあるように感じました」。
Q鉄道の観点からもミャンマーの魅力を教えてください。
A「パート1で紹介していますが、やはり日本の中古車輌が走っているということでしょうね。我々が取材したのは九州で走っていた車輌でしたが、武蔵野線や千代田線やJR北海道のディーゼルなども実際には走っていて、そういうのが現役で活躍している姿を見るのは鉄道ファンにはたまらない発見だと思います。それに中古車輌といっても国ごとに規格が違うので、そのまま使えるわけじゃないんです。ミャンマーではトンネルが低いため、日本の中古車輌は屋根を切って高さを低くカスタマイズされて走っています。そんな発見も面白いと思います。それから番組のゴッディ鉄橋は是非じっくり見てほしい映像です。運転席などから鉄橋を撮った映像は、プロだからこそ撮れた絵になったと自負しています」。
Q番組の制作者として、この番組でもっともこだわったことは何ですか。
A「“希望の大地ミャンマーを行く”と題したこの番組で、一番表現したかったのは今、ミャンマーにあふれる活気や息吹といったものです。ただ新生ミャンマーを代表する建物はどれも現在建設中で、絵にならない。その暗中模索の日々で出会った若者の表情には、すごく惹きつけられるものがありました。列車に乗って出稼ぎに行く彼らの瞳が希望に満ちているんです。国が変わったという実感が誰もにあるんでしょうね。ぎゅうぎゅう詰めの車内で、整備されていない線路を走る列車はガタンゴトン揺れて、決して乗り心地がいいわけではないけれど、心からの笑顔があふれているんです。開発が進んだ10年後ではもしかしたら撮れない絵とストーリーが、今回のRailway Storyには流れていると思います」。