2011年9月号

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魅力的な舞台人 インタビュー / 舞台レポート

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2010/7/14(水) レポート
『裏切りの街』 後編
過酷な演出に応えた、田中の繊細、秋山の存在感、松尾の怪演

撮影:谷古宇正彦

 『裏切りの街』は公演前、一部の演劇ファンから「さすがの三浦大輔も、商業演劇の劇場ではいつもの赤裸々度を下げるのでは」という声が上がっていた。しかしそれは杞憂に終わった。登場人物は誰ひとりとしてドラマチックでなく、人を傷付けない代わりに自分も傷付かないほうを選ぶ、ずるくて低温な人ばかり。演劇的には、自意識にフタをしてテンションをローのままキープする、役者にとっては過酷な演出が貫かれた。三浦のその要求に役者陣はよく応えたことも、この舞台の成功の要因のひとつだろう。


 主人公でありながら最も開放感のない裕一を演じた田中圭には、その点で殊勲賞を進呈したい。チープな言い訳で、バイトを休み、親に金を無心し、彼女に浮気がバレないように取り繕い、叱られれば逆ギレする。通常、観客が主人公に抱くシンパシーをことごとく拒否するダメ青年を、丁寧に演じきった。下着まで脱いだ秋山菜津子とのベッドシーンも含め、プライドや羞恥心など相当のものをこの舞台で捨てたのではないかと予想する。裕一と夫の間で揺れ、やはり楽なほうに身を任せる主体性のない主婦・智子を演じた秋山菜津子はさすが。華やかな美人でありながらそれがうまく発揮できず、地味な男との愛のない結婚を選ばざるを得なかった女性のうっ屈、自信のなさを、全身からにじませる。


 そして、出てくるたびに観客の目を惹きつけた松尾スズキ。ストーリー上でもこの物語のキーパーソンとなる智子の夫・浩二を、ぬめぬめした存在感で演じた。妻を疑いながら問いたださない男には2つのタイプがいる。それをきっかけに妻が自分から離れるのが怖いという夫と、自分にも秘密があるから波風を立てなくない夫と。浩二はどちらなのか、両方か、あるいはどちらでもないのか。松尾の演技はなかなか尻尾を出さないが、そこに注目するのはこの舞台の楽しみ方のひとつ。裕一とふたりだけで会った時の浩二のせりふにも、ぜひ注目してほしい。大人になりきれないダメ人間ばかりが登場するこの作品で唯一の、大人の言葉がそこにある。それは怖いと同時に、ぬるくもあるのだが。


 7月にはポツドールとしてドイツで初の海外公演を果たした三浦大輔。ますます注目が集まる彼の、これは大きな転換点となる作品だ。


文:徳永京子(演劇ジャーナリスト)


リアルxエロス「裏切りの街」
リアル×エロス「裏切りの街」

06年に岸田戯曲賞を受賞した三浦大輔。秋山菜津子、田中圭、松尾スズキら注目の俳優達による話題の舞台。テレクラで知り合った男女を軸に徹底したリアリズムで描く衝撃作。

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