大会展望

ナダルの完全復活でフェデラー連覇に黄信号、混戦女子を抜け出すのは誰か?

R・ナダル/R・フェデラー

R・フェデラー Photo:Action Images/アフロ
R・ナダル Photo:アフロ

 パリが一年でもっとも美しい5月。風薫る季節にレッドクレーを舞台に繰り広げられる全仏オープンは、「世界でもっとも過酷なトーナメント」だ。

 球足が遅いクレーでは必然的にラリーが長くなる上、男子の場合は5セットマッチである。体と心を問わずコンディションに不安を抱えていてはとても戦いきれる2週間ではなく、手術後のフアン マルティン・デル ポトロや故障中のニコライ・ダビデンコ、キム・クライシュテルスなど男女すでに10人以上が欠場という事態もその証拠といえるかもしれない。

 2年前にジュスティーヌ・エナンが3連覇中だった全仏の直前に引退したのもローランギャロスの怖さを知るからこそだっただろうし、4年間ここで負けたことのなかった“キング・オブ・クレー”ラファエル・ナダルですら、昨年はひざの故障を隠し通せなかったのだ。

 そのリベンジに燃えるナダルは、2年ぶり5度目の優勝に向けて「今までよりも新鮮で穏やかな気分」と最高の状態に仕上げてきた。出場した前哨戦3大会はすべて優勝。最後のマドリッド・マスターズではロジャー・フェデラーとの1年ぶりの対決を制しており、これ以上の筋書きはない。

 しかし敗れたフェデラーも強気だ。初めてディフェンディング・チャンピオンとして全仏を迎える王者は、ローマ、エストリルと不本意な成績に終わったが、「僕たちのクレーシーズンはフレンチオープンで決まる」と前哨戦でついたライバルとの大差を軽視。ナダルが「僕はその意見には賛同しない」と反論するなど、ふたりの対決は本番を前にして緊張感を高めている。

錦織圭/伊達公子

錦織圭 Photo:CameraSport/アフロ
伊達公子 Photo:アフロ

 伏線も十分に張られたフェデラー vs ナダルだが、その決勝対決を阻むとしたら誰か。

 注目選手のひとりとして、今年バルセロナを制したフェルナンド・ベルダスコを挙げたい。昨年の全豪オープンでナダルとの死闘を繰り広げ、存在感を示した26歳の危険度は、得意のクレーではさらに増すだろう。また、全豪での準優勝後はスランプだったアンディ・マレーは、マドリッドのベスト8でようやくやる気をアピールしてきた。そのマレーに勝ったのがダビド・フェレールで、この1年ほど調子を落としていた元世界4位がここにきて復調の兆しを見せている。一方、過去2度ベスト4のノバク・ジョコビッチは体調不良でマドリッドを欠場するなど気がかりな面も…。

 1988年を最後に決勝進出も叶わない地元フランス勢ではジョーウィルフライ・ツォンガとガエル・モンフィスのトップ2に期待されているが、よその事情を心配している場合ではない。開幕1週間を切ったところで日本のホープ錦織圭の出場が発表された。106位で“プロテクト”されていたランキングで本戦出場が叶ったのは、先に触れたように上位に欠場者が続出したためだ。その知らせだけでワクワクしたファンがどれほど多いことだろう。最近はチャレンジャー大会で2連勝と好調だ。昨年の全豪以来の5セットマッチということでスタミナとやはり右ひじの状態が心配ではあるが、その戦いぶりは見逃せない。

 一方の女子は混戦になりそうだ。というのも、優勝候補に挙げたい選手がそろって苦戦している。脚のケガで休んでいた女王セレナ・ウイリアムズは復帰戦のローマで準決勝に進み、「こんなにいいプレーができてびっくり」と喜んだが、マドリッドでは2回戦で姿を消した。8年ぶりの全仏タイトルを狙うが、試合不足をどう克服するか。

 昨年の優勝者スベトラーナ・クズネツォワも前哨戦3大会で1勝しただけという、らしからぬクレーでの不振ぶり。過去2年準優勝に泣いた元女王ディナラ・サフィナも休養明けだが、こちらも3大会で勝ち星ひとつと振るわない。

 そうなるとやはり核になるのは3年ぶりの全仏復帰のエナン。何しろ全仏4度優勝のクレー巧者だ。ただ、シュツットガルトで優勝して最高のスタートを切ったと思いきや、1週空けてのマドリッドでは初戦敗退するなど、まだ好不調の波を抱えていることは否めない。

 そのエナンに勝ったフランスのアラバヌ・レザイは決勝でビーナス・ウイリアムズをも破っており、パリでは観客も味方につけてまた大物を食う可能性のある曲者だ。若手の期待は20歳のビクトリア・アザレンカ。今季クレーは不調だが、昨年の全仏を含めて3度敗れたグランドスラム準々決勝の壁をそろそろ突破しなくてはならない。

上位にスキだらけの今大会、日本勢は39歳クルム伊達公子と20歳の森田あゆみがストレートインで本戦に出場する。クルム伊達は復帰後初、森田はキャリア初のグランドスラム勝利をそれぞれつかみ、日本のファンの楽しみを増やしてほしい。

文・山口 奈緒美(やまぐち・なおみ)

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