愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第139回 “杉山愛的”2013年の5大トピックス@
女子の若手の台頭と、バルトリ選手の突然の引退

写真:アフロ
今回は2013年シーズンを振り返ります。といっても、四大大会やツアーの総括ではなく、「杉山愛的」トピックス。主観をまじえて、印象に残った出来事を挙げていきます(順不同です)。
まず、バルトリ選手の引退。ウィンブルドン初タイトルの直後の引退表明は衝撃的でした。
コーチであったお父さんとの取り組みが実ったのがウィンブルドン優勝でした。独特の、言い方は悪いかもしれないけれど、変わったトレーニングに取り組んできたバルトリ選手。お父さんとともに、おそらく試行錯誤してやってきたやり方だと思うのですが、ポイント間の行動も、素振りにしてもステップにしても、ある種独特でしたね。
きっとつらい時期もあったのではないかと思います。トレーニング一つとっても、正統派のやり方とは言えないので、あれを徹底してやりきることには大きなエネルギーを使ったと思います。恥ずかしいとか、見た目も気になったでしょう。正直、並大抵ではできないことだと思います。それでも彼女はお父さんを信じて、なりふり構わずやった。そもそも、自分を信じる力がものすごくある選手です。そういう芯の強さがウィンブルドンの優勝に結びついたのだと思います。
ただ、その積み重ねが目に見えないストレスにもなっていたのでしょうか。引退後の彼女には、ふっきれたような言動が目立ちます。もちろん、達成感、充実感からくるものでしょう。ただ、今の彼女の姿を見ると、現役時代は相当なストレスと闘っていたんだろうなとも思えてきます。
あのときはやめたい気持ちが急に盛り上がってやめてしまったのだと思いますが、彼女が本当に満足して引退したのかというと、どうしても「?」マークが残ります。まだ29歳。今は選手寿命も伸びているし、まだできますよね。正直、衝動的な決断ではないのかなという疑問が私の中にはあります。
本当に満足と思えているのであれば、有終の美を飾ったわけですから、それ以上の幸せはありません。でも、本当にそうなのかなと。だから、カムバックの道も残しているんじゃないかなという気もします。そうなれば、それはそれで楽しみですね。
2つ目のトピックスも、女子ツアーから。以前、このコラムでも取り上げましたが(第131、132回)、若手選手に勢いが見られたことです。代表格が20歳前後のスティーブンス、ブシャール、ロブソン、プイグといった選手たちです。
一時期、「若手がそんなに勝てないね」と言われた時期がありました。テニスは経験がものを言うので、期待されている選手でも急に勝てるようにはならないのです。ところが、彼女たちは少し違うなと感じます。
この前も書きましたが、彼女たちにインタビューして感じたことは、年齢は若手だけれど気持ち(メンタリティ)は若手じゃないなと。外国人選手にはもともと早熟な選手が多いのですが、精神面とか物事の見方、解決する力、自分との向き合い方、自分を知っているということに関して、彼女たちはティーンエイジャーや20歳そこそこの選手には見えないなというのが率直な印象でした。
その中で11位までランキングを上げて大躍進したのが22歳のハレプです。彼女は自分のテニスというものを見つけたんだな、と思います。これをやっていたら私は勝てるという確信をつかめたからこそ、そのテニスに徹底し、安定してそういうプレーができているのでしょう。体もすごくフィットしているように見えます。来年、どんなプレーを見せてくれるか、どこまでランキングを上げるのか、すごく楽しみです。
彼女は身長も160センチ台で、すごく大きいわけではないし、すごく大きな武器もない選手と言っていいでしょう。トップ10プレーヤーのエラーニもそうですが、大きくなくても、フットワークがよくて、頭も冷静で、賢くて、展開で勝っていく選手たちも頑張っています。そういう選手を見ると私は、つい日本選手に重ねてしまいます。そして、日本選手にもチャンスあるなと、勇気がもらえるなと思うんです。(次回に続く)
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- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。