愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第116回 ウィンブルドンで活躍するのはこんな選手
難しい芝へのアジャスト(適応)。根本的な芝への適性も問われます

写真:ロイター/アフロ
昔のウィンブルドンというと、芝も今より長く、地面も少し柔らかで、バウンドが低かったように思います。なかなか自由にパッシングショットが打てないことを考えると、ネットに出たほうが断然有利とされていました。そこで、主にサーブ&ボレーという形がとられていました。
ボリス・ベッカー、ステファン・エドバーグ、あるいはマーク・フィリポーシスといった選手の活躍を記憶している方も多いと思います。女子ではマルチナ・ナブラチロワが代表的なサーブ&ボレーの選手です。もっと前にはビリー・ジーン・キングさんもいましたね。
彼ら、彼女たちのように、ネットプレー主体、つまりサーブ&ボレーが、長い間、ウィンブルドンに最も適したプレースタイルとされていたのです。ところが今は、リターン力が上がっていること、どの選手もグラウンドストロークがしっかりできるということもあって、芝でもある程度、ラリーが見られるようになりました。
コート環境の変化も影響しています。私も現役時代の後半は、同じ芝コートでも年々、硬くなって、ボールが以前よりしっかり弾むようになってきたと実感していました。
ですから以前ほどサーブ&ボレーが有利とは言えなくなったわけですね。前のようにサーブ1本で終わりというような単調なゲームではなくなった、という言い方もできます。クレーほどの応酬はないとしても、以前より面白いラリー戦が増えたなと思いながら見ています。
とは言っても、芝は芝ですから、スライスは他のサーフェスより滑ってくるし、有効なショットであることは変わりません。ドロップショットもしっかり止まるので効果的です。これらは、他のサーフェスで使うよりもさらに有効なショットと言っていいでしょう。また、以前ほど圧倒的ではないとしても、ネットをとることで優位に立てる場面も少なくありません。
ですから、芝で求められるのは、ひとつにはそういうバラエティですね。ウィンブルドンで活躍するのは、ネットもできるし、グラウンドストロークもできるというオールラウンドのプレーヤーです。
男子シングルスのディフェンディング・チャンピオン、ロジャー・フェデラーはまさに芝向きというか、芝で活躍しやすいプレースタイルです。彼のようにオールラウンドに、すべてにおいてバランスよく、という選手はなかなかいるものではありません。ノバク・ジョコビッチもラファエル・ナダルも、アンディ・マレーもディフェンス力に関してはフェデラーを上回るものがあると思うのですが、芝ではオフェンスがどれだけできるかというのが、より重要になってきます。
女子では、サーブ力があり、グラウンドストロークでも一発で仕留める力を持ってるセレナ・ウイリアムズが一番、芝向きの選手と言っていいでしょう。彼女も昨年の女子シングルスを制しています。
最近はハードコートの球足が遅めになったこともあって、クレーコートプレーヤーもハードコートへの対応が上手になっています。逆に、普段ハードコートでやっている人でもクレーをうまくこなす柔軟性を持った選手が増えています。とはいえ、芝は別。多くの選手は年に3大会くらいしか出場の機会がありません。そこで、どれだけ早く芝にアジャストできるかというのが問われます。
始まったと思ったら、あっという間に終わってしまうのが芝コートシーズン。なかなかグラスコート用の技術を磨く時間がないというのも事実です。ですから、アジャストはもちろん大切ですが、元々持っている自分のスタイルがどれだけ芝に合っているか、というのも見逃せない要素なのです。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。