愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第115回 ウィンブルドンへの誘い
芝コート。民家にステイ……ウィンブルドンには普段と違う時間が流れています

写真:ロイター/アフロ
芝は年に3大会しかプレーできません。短いグラスコートシーズンだからこそ、現役時代は貴重な時間だと感じていたし、天然芝でテニスができることに、ありがたいなという感謝の気持ちがありました。また、自分にとっては得意なサーフェスだったので、ここでどれだけ長くプレーできるか、どれだけたくさん試合ができるかと、わくわくすると同時に気持ちの高ぶりがありました。
ウィンブルドンは会場自体に長い歴史があり、施設も様々に整備されてきました。大会本部や選手ラウンジのあるミレニアムビルディングができてからは、人の移動も楽になりました。以前は施設が見る人のために作られていないようにも感じたのですが、最近は大きな観客席のあるコートも増え、改善されています。ショーコートが増えれば見る方々も見やすいし、選手にとってもプレーしやすいのです。
会場にはシンボルカラーであるグリーンと紫紺が至る所に使われています。あじさいなどのお花もきれいです。テレビのスタッフが仕事をする建物の近くにはラベンダー畑があったり。さすがイギリス、ガーデニングの国だなと感じさせます。
ウィンブルドンならではの特徴のひとつが、2週間の真ん中の日曜日、ミドルサンデーには試合を行わないことです。そして翌日の月曜日には、4回戦が男女そろって一斉に行われます。全米オープンの「スーパーサタデー」ならぬ「スーパーマンデー」ですね。ミドルサンデーがあるからこそ、4回戦というシード勢同士が当たるレベルの高い試合が同じ日に一斉に行われるのです。
相当な数の試合をこなすので、メインのコートだけではなく小さいコートにもビッグネームのプレーヤーが登場します。グラウンドチケット(メインのコートには入れないが、それ以外は自由に観戦できる入場券)さえあれば、有名選手の試合を観戦できる可能性があります。しかも、小さいコートだから選手をより身近に感じられます。私がもし、一人のファンとして見に行くなら第2週の月曜日は絶対に外さないでしょう。
選手にとっていつもと違うのは、地元の民家にステイできること。ウィンブルドンは郊外なので近くに大きなホテルもなく、その代わりに、近くの住民がバカンスに行っている間に第三者に自宅を貸し出すシステムがあるのです。仲介の人が入り、ベッドルームの数、広さ、庭付きかそうでないかなどいろいろな条件で家を探し、ステイ先に選ぶことができるのですが、これもウィンブルドンならではですね。
私はスタッフも多かったので、ベッドルーム3つとか4つとかの、庭付きの家を借りることが多かったですね。かなりお値段は高いのですが、いいお天気の時は庭で朝ごはんを食べられるなど、それだけの価値はありました。
グランドスラムは普段のツアー以上に緊張するし、高ぶるし、精神的にプレッシャーがかかるのですが、そういう空間で自分の時間が持てることで、ツアーの慌ただしさから少し解放されるような気がしました。普段のツアーとは異質な時間が流れ、私にとっては一番好きな2週間でした。
ウィンブルドンのエリアは富裕層も多く、立派なお家も多いのですが、家とか空間にはお金をかけても生活自体は案外、質素だと感じます。みなさん、クオリティライフというのか、質素でありながら質の高い生活を送られているようです。そういう地元の方々の暮らしぶりを感じられるのもいいですよね。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。