愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第113回 全仏オープン 日本選手の戦いを振り返って
クレーの王者ナダルと対戦。錦織選手はまた私たちをワクワクさせてくれました

写真:テニスジャパン/アフロ
3回戦のペールは勢いに乗っている選手、しかも何をやってくるか分からないトリッキーな選手で、錦織選手も対戦前、「やりにくい相手」と言っていました。そのペールは、4回戦の対ナダル戦を目指して自分にプレッシャーをかけすぎたのか、試合中、常にいらいらしていました。ただ、相手が集中できていないときというのは自分自身も集中しにくいものです。自分にフォーカスしようと思っていても、リズムをこわされてしまうのです。その中で錦織選手は自分のやるべきことに徹し、自分のゲームができていたと思います。
キーは第3セットでした。あそこを取ったことで相手にダメージを与え、肉体的にも精神的にもダウンさせることができました。どんな相手にも対応できる幅が出てきたなと感じさせる試合でした。
そして、ナダルとの4回戦ですが、やはりクレーの王者は強かった! 3回戦までと比べ、一層レベルを上げてきました。全仏で7回優勝という記録も持っていますが、実際、その記録にふさわしいプレーを見せていました。特にボールの跳ね具合は、これを押さえるのも大変だなと思えるくらいのクオリティでした。こんなショットを持った相手と対等に戦っていかなくてはいけない錦織選手は本当に大変だなと思います。
それでも、センターコート、相手はナダルと全てが整ったビッグマッチで、見る者をわくわくさせてくれました。彼なら、この経験を生かし、次のステップに上っていくでしょう。
添田豪選手は今、ちょっと元気がありません。全仏までの成績を見ても、去年の勢いがないかなとは思うのですが、実際にテニスを見ると、何が悪くなっているわけではなくて、自分を信じる気持ちとか、ちょっとした気持ちの持ちようで変わりそうな印象を受けました。クレーコートはベストのサーフェスではないと思うので、得意のグラスコート、ハードコートシーズンに期待したいと思います。元気な豪くんがまた見たいですね。
森田あゆみ選手はランキングを再びトップ50に持ってきて、ツアーでは格上の選手にも勝っています、それだけに、今回の結果にも内容にも本人が一番がっかりしていると思います。やはりピーキングの難しさですね。調子は悪くなかったのですが、それを試合に出し切れなかった。本人が一番悔しい思いをしていると思います。
実力が付いてきているのは確かだし、あとは、この大舞台で、いつも通りの、また、いつも以上のエネルギーあふれるプレーを発揮することができれば自信にもなると思います。もうグランドスラムで活躍できる時期にきているなと思うので、そこが次の課題ですね。あとは、できればランキングでトップ30に入り、四大大会でもシードを獲得することができれば戦い方がずいぶん楽になると思います。
クルム伊達公子選手は3月からのケガもあって、シングルスではクレーコートの今シーズン初戦がこの全仏ということで、「あまり期待していない」と話していました。ただ、その中でも、どこかねらっていた所はあったと思います。特にグランドスラムの1回戦は誰もが硬くなるので、密かにチャンスととらえていたことでしょう。ただ、相手のストーサーはクレーコートが得意ですし、あの試合はかなりいいコンディションだったと思うので、伊達選手にはタフな戦いになったなという印象です。
もっとも、期待していないと言っていただけに、切り替えは難しくないのかなと思います。グラスコート、ハードコートが一番得意なサーフェスなので、また大舞台で活躍する姿が見られると思います。
土居美咲選手はしばらく勝ちから離れていましたが、前哨戦のストラスブールで久々にベスト8、シード選手の謝淑薇(台湾)に勝つなどクレーでのいい調整ができていたと思います。実際、練習を見てもボールも伸びていました。ただ、ビッグサーバーであるキーズの勢いのあるプレーに、出だしで引き離されてしまいました。本人が試合後、「もう1回初めからやりたい」と言っていたのが印象的で、「もっとできたのに」という手応えがあったんだなと思いました。見ていてもそう思えたし、本人も相当くやしそうだったので、この経験を次に生かしてくれると思います。
クレーコートで十分戦えるだけの、しっかりしたスピン、重いボールをもともと持っている選手ですから、更にフットワークも磨きをかけたいところです。体格的には小さいので、エラーニやスアレスナバロのように、フットワークでしっかりリズムをとっていけるような選手になってほしいですね。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。