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愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!

杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】

第101回 ランキングのABC その1

トーナメントの出場権を決めるのがランキングです

  今回はランキングシステムのお話をしてみます。

 男子のATP、女子のWTAツアーとも、ランキングは過去52週の成績を集計し、男子は成績のよかったものから順に18大会、女子は16大会のポイントを合算して順位をつけています。

 原則的に日曜日にトーナメントが終わるので、その翌日、月曜日に毎週、ランキングが更新されます(四大大会などの期間を除く)。

 女子ツアーはグランドスラム(四大大会)、プレミア、インターナショナル、WTA$125の各グレードに分かれていて、その下に位置づけられるのがいわゆる下部ツアーのITF女子サーキット。選手のランキングによって、どのグレードの大会に出場できるか、本戦から出場できるのか、あるいは予選から出なくてはならないか、というのが決まってきます。

 簡単に言えば、トーナメントへの出場権を決めるのがランキングです。オリンピックのマラソンではよく代表選考の難しさが話題になりますが、テニスはポイント制ですから明確ですべての選手にとってフェアなシステムだと思います。

 ただ、完璧なランキングシステムを編み出すことは簡単ではありません。ツアーでは常に課題とされていて、これまでにも何度もシステムが変わっています。

 例えば上位選手を破るとボーナスポイントが得られる時代もありました。私は、2003年のWTAツアー選手権でジュスティーヌ・エナンに勝ち、シングルスで初めてトップ10に入ることができたのですが、この時は当時1位のエナンを破ったことによるボーナスポイントが大きかったのです。

 グランドスラムではもっとたくさんのポイントを獲得できるようにすべきではないか、という議論も時々起きています。

 ランキングではナンバーワンでありながらまだ四大大会のタイトルを取っていない選手が出てきたため、もっと四大大会重視のランキングシステムにすべきだという考え方が出てきたのです。確かに四大大会は賞金額も大きく、選手にとって大きな舞台ですから、ツアー大会と獲得ポイントに大きな差をつけるべきだという考え方にも一理ありますね。

 ある選手が大会で活躍したのに、翌週発表のランキングでは逆に順位が下がっていて、「なぜだろう?」と思ったことはありませんか?

 これには、ポイントの「ディフェンド」が関係しています。

 最初に書いたようにランキングは52週の集計なので、獲得したポイントは52週間は有効ですが、52週が過ぎると失効してしまいます。つまり、1年前の同じ大会(あるいは同じ週に行われた大会)と同じかそれ以上の成績を挙げなければ、ランキングは下がってしまいます(もちろん他の選手の成績も関係してくるので一概には言えませんが)。

 そこで、52週前と同程度の成績を残すこと、つまりポイントの「ディフェンド」が選手にとって一つの目標になります。

 私自身は常に先手先手というか、早めのディフェンドを心がけていました。ポイントの期限が迫ってから「ディフェンドしなくては大変!」という事態にならないように、例えば100ポイント稼いだのであれば、いつ来年のこの大会が来てもいいように早めに100ポイント稼いでおくことを意識していました。

 ここで勝たなくてはランキングが下がる、となってしまうと、1年前に活躍した大好きな大会であっても、プレッシャーの中で試合をすることになりますよね。ですから、自分にプレッシャーをかけないでツアーを回るために、万が一、そこで1回戦負けしてもランキングが大きくは下がらないようにしておきたかったのです。

 仕事なら、締め切りがぎりぎりで「もう、やらざるを得ない」という時にいい仕事ができるということもありえますが、テニスはプレッシャーが大きくなってそれどころではなくなってしまいます。だから、先手先手、と。その方が実力を出しやすいんです。

 錦織選手は昨年、楽天ジャパンオープンで優勝して500ポイントを獲得しました。彼は、その約1年前に上海でベスト4、バーゼルで準優勝してたくさんのポイントを稼いでいましたが、先手を打って楽天オープンでディフェンドに成功したということになりますね(「その2」に続きます)。

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杉山 愛

杉山 愛
生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。

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