愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第68回 全仏オープンのみどころ
トップ4以外も充実の男子。女子はアザレンカ、セレナらに注目
写真:アフロ
私にとってレッドクレー(赤土)は一番難しいサーフェスでした。でも、見る者にとっては一番面白い、奥が深いサーフェスですね。いろいろなショットを、最もいいタイミングで使わなければポイントに結びつきません。四大大会の中でも、一番単調ではない、一番深みのあるプレーが見られるのが、この全仏だと思います。
打っても打っても決まらない、逆の立場で言えば、打たれても打たれても、しっかり走れば守り抜ける、それがクレーの戦いです。決まらないからこそ忍耐力が求められ、攻撃すべきところと守るべきところの見極めが大切になります。普段よりポジションを下げる選手も多いのですが、その分、ネット際に落とすドロップショットやショートアングルなど多彩なショットが求められます。そのあたりに注目してテレビ中継をご覧になると面白いと思います。
前哨戦を見ると、男子も女子も、まだ優勝候補は絞られていないな、という印象です。去年はジョコビッチが、それ以前はナダルが前哨戦からドミネート(他を圧倒)していました。だから、全仏もそのままの勢いでいくだろうという予想が成り立ったのですが、今回は前哨戦でフェデラーが優勝するなど、絞り込みが難しいと感じます。
もちろん、優勝争いの中心はジョコビッチ、フェデラー、ナダル、マレーのトップ4です。最近はどのグランドスラムでも彼らがしっかり勝ち残り、安定感は抜群です。ただ、デルポトロ、ベルディヒといった2番手グループも力をつけ、一段と層が厚くなっています。
注目したいのはコートコンディションです。全仏のクレーは、その年によって、晴れが続いて硬めになっていることもあれば、雨が多いときは重くなったりと、天候がコンディションに影響してきます。このことで有利不利が出てくることも考えられます。晴れが続いてコートが速ければ、フェデラー、デルポトロ、ベルディヒなどフラット気味の球質の選手に有利に働きます。普通か遅めのコンディションなら、やはりナダルやジョコビッチにとって有利なサーフェスになります。大会前、そして開幕してからの天候に注目すると、一層興味深く試合を見ていただけると思います。
次に女子の注目選手を見ていきましょう。今季、一番の安定感を見せているのがアザレンカです。前哨戦のローマで肩痛のため棄権したのは気がかりですが、プレーそのものは、クレーでも十分戦える質の高さを持っています。去年の全仏ではWOWOWのブースにも顔を出してくれました。その頃から勢いが出てきて、ランキングも1位に。ここ1年で最も成長した選手ですね。
ここへきて、元気が出てきたな、乗ってきたなという雰囲気があるのがセレナ・ウイリアムズ。前哨戦のマドリードでは決勝でアザレンカを破っています。アザレンカがどんなコンディションだったのか、詳しくは分かりませんが、スコア、スタッツを見る限り、セレナが完全に圧倒しています。ナンバーワンを相手にこんな試合ができるのは、セレナだけでしょうね。
あとは、私のイチオシ選手であるクビトバですね。最近、少し安定感に欠けていますが、去年のウィンブルドンで証明したように、グランドスラムでも十分戦える選手です。全仏では我慢強くプレーすることが必要になるので、そこが彼女にとってキーになると思います。 以上の3人に、今シーズン好調のシャラポワを含めた4人が、この全仏で注目したい選手です。
次に日本勢ですが、今回は添田豪選手と伊藤竜馬選手が本戦にストレートインしました。こうして複数の男子が安定してグランドスラムに出られているのは嬉しいことですね。期待もふくらみます。クレーコートの中でもローランギャロスは不規則なバウンドも少なく、日本選手にとって一番戦いやすいコートです。両選手とも、スピンでぐりぐりやるタイプではありませんが、あのサーフェスなら十分に戦える、勝機があると思います。
クルム伊達公子選手と森田あゆみ選手にとって、この全仏はロンドン五輪出場を懸けた戦いになります。全仏が終わった時点のランキングで五輪の切符が決まるからです。ともに70位台で、ボーダーラインにいるふたりには、すごく大きなチャレンジになります。これも目が離せないところですね。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。
