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愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!

杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】

第61回 私の選手人生を大きく変えた「呼吸法」との出合い

緊張する場面でも常に“自分でいられる”

愛'S EYE

写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 前回、試合前日の準備として、イメージトレーニングと呼吸法のトレーニングを併せて行うと書きましたが、その呼吸法について、もう少しくわしく書いてみたいと思います。

 テニスはメンタル面の占める割合が大きいスポーツです。心身ともに良い状態の時は、頭で描いたイメージと体の動きが一致していきます。このフィーリングはプレーヤー冥利に尽きるというか、本当に心地よいものです。まさに"フロー"の状態、つまり、体も心も心地よくて、なんの力みもなく自然に体が動き、とても楽なのです。

 一方、心身の状態がバラバラの時は、なにかぎくしゃくしていて、自分自身、「なんか違うな」と思いながらプレーしています。常にポジティブな精神状態で試合を進めていきたいのですが、相手もあることですから、なかなかそうもいきません。

 私にとって大きかったのは、呼吸法を身につけたことです。私はもともと呼吸が浅く、スポーツ選手としては肺活量も少ない方でした。肺をあまりうまく使えない感じで、緊張すると、なおさら息がうまくできなくなります。呼吸ができないと思考も鈍り、冷静な判断ができなくなってしまいます。でも、呼吸法を覚えたことで、これが改善されたのです。

 私は上がり症で、若い頃は、試合で自分の力が出せなくて空回りしてしまい、「もっとできたのに」と悔やむことも少なくありませんでした。そこで、どうやったらリラックスできるかというのを探っているときに、塩谷信男さんという方が書いた本に出合ったのです。

 塩谷さんは医学博士で、ご自身も105歳まで生きた方なのですが、その本で、ご自身で編み出した呼吸法を紹介していました。本は何冊か出されていますが、正しい呼吸と、良いイメージを頭に描くことを一致させるという点で一貫しています。本を読んで「あ、これだ」と。まさに私が求めているものだったのです。

 呼吸法を学んだといっても、コートの上で、特にパニックになっているようなときは、なかなか落ち着いて「スー、ハー」などとできるものではありません。でも、普段からやることによって、コートの上でもできるようになります。

 そこで私は、朝晩のルーティンワークに呼吸法を取り入れてみました。朝起きたらまず30分、自分の気持ちと呼吸を合わせながら、その日、いいテニスができるように、いい練習や試合ができるようにとイメージします。夜は夜で、また30分、呼吸法によってリラックスした状態を作ります。

 こうして、日常的に自分がどうしたらリラックスできるかというのを訓練していくと、いざコートで必要になったときに、パッとできるのです。

 もちろん、いろいろな場面で緊張することもあるし、新しいことにトライするとうまくできないこともあるのですが、その中でも、この呼吸法によって、いつも「自分でいられる」と感じます。この本に出合えたのは奇跡で、それが自分の選手人生を劇的に変えたと思っています。

 朝晩、30分ずつ、この1時間が私にとっては大切な時間でした。そこまで時間をかけることは難しくなりましたが、呼吸法は今でも続けています。このコラムを読んでくださっているみなさんにもオススメしたいですね。また、私の場合は呼吸法でしたが、自分に合うやり方でいいと思うので、リラックスする方法、メンタル的に良い状態を作り出す方法を探してみることをおすすめします。


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杉山 愛

杉山 愛
生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。

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