愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第56回 ボールにまつわるいろいろな疑問にお答えします
新品に近いボール。縁起のいいボール。
こだわる人はとことんこだわります

写真:アフロ
もちろん、あれはできるだけ新品(ニューボール)に近いボールを選んでいるのです。ボールは基本的に9ゲームごと(試合開始直後は第7ゲーム終了時)にニューボールになりますが、数ゲーム使っただけでもボールはダメージを受けます。今はハードコートでも表面はかなりざらざらに仕上げてあって、ボールが削れやすくなっています。選手もボールをつぶすように打つので、みなさんが思っている以上にボールの消耗が激しいのです。
公式戦ではボールを6球使ってゲームを行うのですが、使っているうちに消耗度には偏りがでてきます。きれいなボールはいつまでもきれいで、「これ、使ってないんじゃない?」というようなボールがあったりします。ラリーが続けば続くほどダメージを受けるので、たまたまそのボールを使ったときにラリーが続かなかったのでしょうね。
それで、選手はできるだけきれいなものを、あまり毛羽立っていない、新品に近いボールを選んでいるのです。一般の方は、その日に缶を開けたボールならどれも同じというか、こだわりなく使っていると思うのですが、選手はそこにこだわります。私はあまりこだわらないタイプでしたが、男子だと、4個も5個も受け取って少しでも新品に近いボールを選ぶ選手は少なくありません。
縁起担ぎをする選手も多いですね。自分がポイントを取ったボールをもう一度ちょうだい、というわけです。昔の選手でいうと、コンチータ・マルチネスがそうでした。必ず「そのボール、そのボール」と、使いたいボールが来るまで待っていました。使いたくないボールを渡されると、ラケットでポーンと外に打ち出してしまう選手もいるほどで、こだわる選手はこだわるのです。
ボールパーソンはベースラインの両側にいますが、どちらか一方からしか受け取らない選手もいます。そういうところでも選手は運を引き寄せたいというか、こだわるんです。それくらいギリギリのところで戦っているというわけですね。私は、縁起かつぎは作っているときりがないというか、面倒くさくなってしまい、「○○じゃないとダメ」というのは作らないようにして、「どっちでも勝てる!」と思いこむようにしていました。
選手によって違うのは、ファーストサーブがフォールトになったところでボールパーソンからボールをもらうかどうかですね。私はそこでボールをもらうということができません。ボールを渡すタイミングがボールパーソンによって人それぞれなので、そこはやはり自分のタイミングでできないと気持ちが悪いのです。だから、常に2個目のボールをスパッツの下に入れていました。どうしたらリズムをつかみやすいかというところなので、そこは選手によって自分なりのルーティンがあるんですね。
そのセカンドサーブ用のボールを、どこに入れているんですか、気にならないのですか、と聞かれるのですが、私はスパッツの下にキュッと入れています。スパッツに入れていれば、ボールがあることすらわからないくらいなので、まったく気になりません。男子はポケットにボールを入れる選手が多いのですが、ときどきショートパンツの裾が巻き上がってポケットがクルッと出てきてしまうことがありますね。あれはさすがに気になると思うのですが、どうなのでしょう。
ルーティンワークと言えば、サーブの前のボールつきもそうですね。多くの選手が、決まった回数、ボールをついて、それからサーブの動作に入ります。これはもう、儀式なんですね。ルーティンワークをすることで、選手は気持ちを落ち着かせ、集中をはかるのです。ジョコビッチは、サーブの前に何十回もボールつきをしますが、あれはルーティンワークとは少し違います。回数が決まっていませんからね。彼はボールつきをしながら、次のプレーをずっと考えているんですよ。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。