愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第39回 澤さんの言葉で振り返る、なでしこジャパンの快挙
「サッカーの神様が降りてきた」と澤さん。想像するだけで鳥肌が…

写真:PanoramiC/アフロ
ワールドカップでは、ドイツに出発する直前に、澤(穂希)さんから「行ってきます」とメールをもらいました。その時点では、一般の方々はワールドカップがあることすら知らない人が多かったと思います。でも、予選リーグを勝ち上がり、ドイツに勝ったあたりから、日本中がざわざわしてきて、期待もふくらんできましたね。そのドイツ戦も、完全に押されていたのですが、この頃からなでしこは神懸かりのような強さを見せ始めたと感じました。
もちろん勝利の女神が微笑んだというのもありますが、そこでものを言うのは普段からの積み重ねです。その時のために備えておかないと、女神がせっかく微笑んでくれても自分でつかみきれないものなのです。
特に澤さんは、長年にわたってリーダーとしてチームを引っ張ってきました。今までワールドカップでも五輪でもメダルに届いたことがないのですから、優勝とかメダルとか口にしても、自分自身なかなか信じられないというか、現実のものとして見えてこないこともあったと思います。それでも自分たちを信じて最後まで戦い、こうして金メダルを手にしたのです。
私自身、試合を見ながら鳥肌が立つくらい感動しました。あらためて"スポーツの力"ってすごいな、スポーツしか与えられない元気とか感動ってあるんだなと、なでしこのみなさんに教えてもらいました。決勝は特に、日本中が元気と勇気をもらったと思います。
その優勝に続き、今回の五輪予選も1位で通過。また女子のパワーで日本を元気にしてくれて、同じ女子として、うれしい限りです。
澤さんは、ワールドカップ優勝ですごく忙しい中、電話とメールで連絡をくれました。寝る暇もないくらいテレビに出ていたのですが、時間を作ってくれて祝勝会ができました。ちょうど国民栄誉賞を受賞する前日でしたが、「女子アスリート会」で全部で14人集まってお祝いして、その時にいろいろお話を聞くことができました。
決勝のアメリカ戦で、1−2から宮間あやさんのパスで澤さんが入れたシュートも素晴らしかったのですが、一番印象に残っているのは、1−1から1−2にされた時の澤さんの表情でした。残り時間もあまりありませんでしたから、澤さんに「どうやって気持ちを切り替えたの?」と聞きました。テレビにも「次、次。行くよ!」というような澤さんの表情が映りました。意識してそういう態度を見せたのか、本当にできると思えたのか、どっちなんだろうと思って聞くと「本当に、まだ何となくいける気がした」と言うのです。
その「気がする」というのがスポーツ選手にとってどれだけ大きいことか。私自身、試合をたくさんやってきた中で、スコアはどうでも、たとえ負けていても、まだいける気がすると、たとえ相手にマッチポイント握られていても、なにかいけるような気がすると思えることがありました。また、その逆もあるんです。5−1リードとか、ポイントではリードしているのに「なにか不安」というときもありました。その「いけそうな気がする」の怖さと強さと。自分もそれと似た経験をしたことがあったから余計にそこが面白く感じました。
それにしても、ワールドカップの決勝の舞台で「まだいける気がする」と思えたなでしこはすごいなと感動しました。
「サッカーの神様が降りてきていたよ」と澤さんが言っていましたが、彼女は降りたのを感じたのかと思うと、それを想像するだけで鳥肌が立ちますね。テレビで見た感じでもそうでしたが、本当に彼女自身そう感じていたのですね。それを当人の口から聞けて、うれしかったです。人生で何度も味わえないような、貴重な体験だったのだろうなと思います。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。