愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!
杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】
第28回 ロード・トゥ・グランドスラムの活動についてのご報告 その2
自分から発信できるような選手に

選手によって、一人一人課題は違います。例えば、動き方に問題がある子もいれば、呼吸がうまくできなくて力んでしまう子もいるし、試合態度に問題のある子もいる。ですから、「これがいいよ」と、何か一つ、ドンと与えたところで選手自身に響くとは限りません。
自分自身のことを振り返っても、コーチにどんなに良いことを言われても、自分の胸にコトンと落ちないとやらないんですよね。逆に、コーチとのやりとりの中で「こうしたい」「これやろうかな?」と自分で発信したものって、それこそ自分のものになるというか、伸びていくと思うんです。気持ちがハングリーになっていて、そこにフィットした言葉がスッと入ってくるから、やる気が起きるのでしょうね。そうしたアドバイスが選手には一番大切だと思います。
ですから、コーチの側から一方的に言うのではなくて、選手の側が納得したうえで取り組むということが大切になります。結局、コートでプレーするのは選手です。だから、自分で気づけて、自分で直せる、自分でコントロールできるというふうにしていかなくてはいけない。コートの外からは何もできないんです。その意味では、みんなが成長しないとダメなんですよね。それは繰り返し話していることです。何かしっくりこなかったら、どういうふうにしっくりこないか言ってね、ということも話しています。そうしたやりとりが、選手のコミュニケーション力を高めることにつながっていくんですよね。
1回目と2回目のキャンプの間の2カ月、選手には宿題を与えました。すると、みんな一所懸命にこなしてきてくれて、劇的に変化していました。その姿を見て、「あ、この子たちはちがうな」と。このように努力のあとが見えるのは、私にとっても楽しいことです。毎日見ていると、マンネリにもなるし、選手の変化に気づきにくいところがあると思うのですが、キャンプとキャンプの間のインターバルで選手の変化が見られるのは、私たちのメリットになるととらえています。
もちろん、常に前進できるわけではありません。キャンプでは必ず誰か泣いている子がいます。調子が悪くて、こういうふうにやりたいのにできない、ということなのでしょう。でも、それもいいかなと思います。悔しいという気持ちもすごく大切だと思うし、それは絶対、バネになると思うからです。
自分自身のスタンスとしても、理想的な形で活動ができていると思います。仕事のバランスを考えれば、毎日コートに立って、毎日レッスンしてというのは正直、なかなか時間と気持ちが続かないと思います。でも、今の形であれば、やるときは100%の力をジュニアに注ぎ、それ以外にも選手のことを考えている時間もあるし、すごくいい形なのかなと思います。私自身、とてもやりがいを感じながら取り組んでいます。
スタートして半年ですが、回を重ねるごとによくなっていると感じます。こういうふうにしていこうかなというアイディアも少しずつ出てきていますし、いい方向に行っているなというのも実感しています。
- 杉山 愛
- 生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。