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愛’S EYE WOWOWテニス・スペシャルコメンテーターの杉山愛が、 世界を舞台に戦ってきた経験を基に、 試合を分けたポイント分析から、 テニスを通じて得たさまざまな知識・経験まで、 独自の視点を披露する!

杉山愛 オリジナルコラム 【愛'S EYE】

第23回 クルム伊達選手にウィンブルドンを振り返っていただきました

「スコアより何より、楽しんでテニスができたことがよかった」
(クルム伊達公子)

クルム伊達公子

写真:ロイター/アフロ

杉山愛 2回戦のビーナス・ウイリアムズ戦では素晴らしい試合を見せてくれましたが、その時のフィーリングや手応えを聞かせてください。

クルム伊達公子 クレーコートシーズンには絶不調に陥り、自分のテニスを見失っていたのですが、グラスコートシーズンになって気分もリフレッシュできました。ITF(下部ツアー)のダブルスでは優勝できましたし、試合の中で芝に慣れることができて、ウィンブルドンに入りました。ドロー運にも恵まれ、やっとシードではない選手と1回戦を戦えたのも、自分には大きなことでしたね。2回戦のビーナスとは初めての対戦だし、パワーテニス、スピードテニスを引っ張ってきた先駆者ですから、対戦が決まったときは「サーブに触れるのかな」と思っていたくらいで、どういうプレーになるか想像もできませんでした。でも、それだけに、やってみるしかないという気持ちで試合に臨みました。芝のプレーに手応えを感じていましたから、この試合では久々に楽しんでテニスができました。スコアよりも何よりも、それがよかったのかなと思います。

杉山 本当に楽しそうにプレーされていたのが印象的でした。センターコートは伊達さんに似合うな、と思いました。それにしても、今シーズンは1回戦負けも多く、内容はともかく結果が出ないことは自信を失わせる要因になりますよね。でも、その負けにしっかりと向き合って、乗り越えてきたことがすごいなと思います。全仏オープンテニスでは「フィーリングがない」とまでおっしゃっていましたが、そこまで調子が出ないとさすがに心が折れそうになると思うのですが、その時の気持ちはどうだったのですか?

伊達 練習で課題に取り組み、練習では克服できていても、試合の中でできない。1試合を通してできていても、いちばん肝心な1ポイントでできなくて、勝ちに恵まれない。その繰り返しでした。ですから、そんなに毎回毎回、すべてが悪い悪い悪い、というものでもなかったのです。あまり競っていないようなスコアに見えても、あのポイントが取れていたら、あのゲームが取れていたら、っていうのがすごく多かった。だから、最初はジレンマで、そこから今度は自信がなくなって、何をしていいか分からなくなって。確かに、心は苦しかったですね。でも、周囲のみんなには「1週間空けてオフをとったほうがいいんじゃないか」とか「一旦、日本に帰ったほうがいいんじゃないか」とか、気分を変えることをすすめられたのですが、私は「来週も出る!」と言って(笑)。

杉山 意地ですか?

伊達 意地っていうか…。

杉山 試合の中でしかつかめないものをつかむと…。

伊達 うん、そういう気持ちの方が強かったのかな? 練習すれば戻るという域を超えたスランプになっていたので、とにかく試合に出続けて……。それでまた落ち込んでという連続だったけれども、でも、練習はそれほどイヤじゃなかったんですよね。

杉山 それは、実際には良いテニスをしていたからなのでしょうね。そこから立て直して、2回戦のような素晴らしいテニスをしたわけですね。ところで、伊達さんが引退する前とカムバックしたあとでは、何が違うのか――もう、全部違うと思うんですけれども――何が違うから、今こうやって頑張っていられるのでしょうか。後輩たちにも参考になると思うのですが、若い頃には気づけなかったことなど、そういうことがあれば教えてください。例えば、今は「テニスを楽しむ」ということをすごく感じていらっしゃるように見えるのですが。

伊達 90年代はツアー自体があまり好きではなかったのですが(笑)、その私が半年、日本に帰らないで、ずっと遠征に出て、試合に出続けている、このこと自体が大きな変化ですよね。日本食も食べていないし。変わったことはたくさんありますが、なんでそうなのって言われると、なぜでしょうね(笑)。ただ、自分ではそこまでテニス一辺倒ではないと思っていましたが、一度離れてみると、やっぱり90年代は「テニス、テニス」だったんだなと思いました。勝つことにもこだわっていたし、負けたらこの世の終わりみたいになっていた、と。それが、一度離れたことによって、一つの負けは人生においてはたいしたことじゃない、それこそ人生の中ではもっと大きな試練も起きるだろう、と思えるようになりましたね。もちろん、試合に負ければ、その瞬間はそのことに執着して、「何がいけなかったんだろう?」と考えて落ち込んだりもするけれど、切り替えが早くなったことは大きな変化かなと思います。

杉山 そうですか。今回は素晴らしいテニスを見せてくれて、このレベルでも十分戦えるという手応えをつかんだと思うのですが、そのことであらためて目標を設定し直したとしたら、それを教えていただけますか。

伊達 もともと具体的な目標がない中での「チャレンジ」で、どこに向かおうとしているかというのは、数字でもなければ年齢でもない、とにかく自分らしいテニスを追求してきた3年間でした。これからも、どこまでできるか分かりませんが、とにかく自分のテニスができないとなかなかチャレンジも楽しめないので、まずはそこですね。手応えをつかんだからといって、なにか具体的なゴールを設定するということもないでしょうし。でも、今回のビーナス戦では納得のいくプレーができたとはいえ、他の選手たちに研究されているのをひしひしと感じます。ですから、このあとまた苦しい状況が必ず訪れるというのは分かっています。その中で、自分がどう対処できるか、自分のテニスの質を上げるためには何が必要かというのを追求する、そういう繰り返しになっていくと思います。年齢とブランクを考えると、トップ100にいられること自体が奇跡であるのは百も承知なので、まあ、行けるところまで突っ走りたいなと思っています。

杉山 ありがとうございました。これからも頑張ってください。

【インタビューを終えて】

 どんなにタフなドローであったとしても、1回戦負けが続き、結果が出ていないと、選手はどうしても落ち込むし、「これでいいのか?」と考えるものです。でも、伊達さんは、そんな状況でも本当にテニスを楽しんでいて、苦しい中でも自分に何ができるか冷静に考えていたのだと思います。ひとつひとつの結果に向き合って、その時にやるべきことをやっているからこそ、こういうチャンスが来たのでしょうね。苦しみながらも自分で活路を見出した結果が、今回のビーナス戦につながったのだと思います。試合直後の伊達さんは悔しそうでしたが、あれだけのパフォーマンスができるというのは、もちろんファンの感動を呼ぶでしょうし、私自身、感心するところです。

具体的な目標がないというのも、今の正直な気持なのでしょう。いつまでできるか、本人もわからないと思うし、だれにも予測できないことだと思います。ですから私たちは、期待しすぎず、彼女が楽しんでいるのを楽しませてもらう、という感覚で応援していけばいいのでしょうね。彼女が楽しんでできている限りは、これからも今回のような素晴らしい試合を見せてもらえると思います。(杉山愛)

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杉山 愛

杉山 愛
生年月日:1975年7月5日
出身:神奈川県
主な戦績:
WTAツアー最高世界ランク シングルス8位 ダブルス1位
国際公式戦勝利数:シングルス492勝 ダブルス566勝
WTAツアー:シングルス優勝回数6回
ダブルス優勝回数38回
公式戦通算試合数:1772試合(シングルスとダブルス)
グランドスラム62大会連続出場のギネス記録を持つ。

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