「イギリスのコブラ」フロッチの凱旋防衛戦
マックをスピードと強打で圧倒か
「コブラ」の異名を持つフロッチは12年5月、ルシアン・ビュテ(ルーマニア)を衝撃的な5回TKOで破って3度目の戴冠を果たした35歳。IBF王座を獲得して最前線に戻り、かつて苦杯を喫したライバルのWBA(スーパー)&WBC王者アンドレ・ウォード(アメリカ)やWBA王者ミッケル・ケスラー(デンマーク)らに再戦をアピールしている。
フロッチはユダヤ系ポーランド人の父親とイギリス人の母親の間に生まれ、少年時代はサッカーに興じていたという。ボクシングは9歳のときに始め、アマチュアでは01年の世界選手権で銅メダルを獲得したほかイギリスの国内王者にも2度つくなど96戦88勝8敗の戦績を残している。02年に24歳でプロ転向を果たし、ここまで31戦29勝(21KO)2敗というレコードを誇る。左のジャブで牽制しながら距離とタイミングを計り、好機に一気に攻め込む好戦的な強打者だ。09年のジャーメイン・テイラー(アメリカ)戦で喫したダウンがアマ、プロ通じて唯一のダウンというから、耐久面も一定以上のものがあるのだろう。
ビュテ戦に続いて故郷ノッティンガムでの試合ということで、今回も高いモチベーションを抱いてリングに上がることだろう。オッズも19対1と防衛を後押ししている。
挑戦者のマックは「マック・アタック」と呼ばれる勇敢な32歳で、これが2度目の世界タイトル挑戦となる。前回は11年6月、タボリス・クラウド(アメリカ)の持つIBFL・ヘビー級タイトルに挑んだもので、8回TKOで敗れている。その後は2連勝と復調、S・ミドル級での世界挑戦にこぎ着けた。37戦31勝(17KO)4敗2分と比較的高い勝率を誇るが、4敗がすべてKO、TKOによるものである点が気になる。もっともリブラド・アンドラーデ(メキシコ)、グレン・ジョンソン(ジャマイカ)、クラウドら名だたる強打者が相手ということを考えれば仕方ないともいえるのだが。
実績だけでなく地力でも両者の間には顕著な差が認められるだけに、ここはフロッチの勝利は不動とみるのが妥当だろう。興味はマックがどこまで食い下がるか、フロッチがどう戦い何ラウンドで仕留めるのか、そのあたりが最大の焦点といってもよさそうだ。
Written by ボクシングライター原功
2階級制覇の豪腕 VS フランスの実力者
アブラハムの強打が炸裂か
ミドル級で10度の防衛を記録したアブラハムだったが、S・ミドル級転向後は壁にぶつかっていた。参戦した「スーパー・シックス」ではアンドレ・ディレル(アメリカ)に11回反則負け、カール・フロッチ(イギリス)とアンドレ・ウォード(アメリカ)に12回判定負けと、デビューから31連勝のあと14ヵ月の短期間で三つの黒星を喫してしまった。30歳を超えての停滞だけに、その将来に対して厳しい見方がされたのは当然といえた。しかし、そこから3連勝を収め再び頂に辿り着いた。やはり相当の地力があるのだろう。
このアブラハムはアルメニアの首都エレバンの出身だが、14歳のときにドイツに移住。そのころ自転車競技のドイツ国内大会で優勝した実績を持っている。ボクシングは18歳で始め、2000年のシドニー五輪アルメニア代表の座を狙ったが挫折。03年にドイツでプロ転向を果たした。ミドル級王者時代には試合中に顎を骨折しながら最後まで戦い抜き判定勝ちを収めたこともある。ガードを固めながらじわじわと相手に圧力をかけ、中近距離で左右の強打を打ち込んでけりをつける豪快な戦い方をすることで知られている。反面、攻防分離が顕著なため勝ち味が遅いという傾向もある。
そんなアブラハムに挑むブアドゥラは、フランスの国内王座をはじめIBFインターナショナル王座、WBA&WBOインターコンチネンタル王座などを獲得した実績を持っている。アブラハムと同じ年の2月に生まれた32歳で、プロデビューも同時期だった。決定的に異なるのは、ブアドゥラが世界の壁を破っていない点だ。11年6月、無冠時代のミッケル・ケスラー(デンマーク=現WBA王者)に6回TKO負けを喫しているのである。「欧州以上、世界未満」というのが現在のブアドゥラの立ち位置といえる。
攻防の組み立てに雑な面があるアブラハムだが、ツボにはまったときの爆発力はとてつもないものがある。そんな最高のパフォーマンスを披露することができるのか、それとも豪打が不発に終わるのか。前者を期待したいところだ。
Written by ボクシングライター原功
ルシアン・ビュテ
S・ミドル級トップ戦線の現状
WBAスーパー:アンドレ・ウォード(アメリカ)
WBA:ミッケル・ケスラー(デンマーク)
WBC:アンドレ・ウォード(アメリカ)
IBF:カール・フロッチ(イギリス)
WBO:アルツール・アブラハム(アルメニア)
09年秋から11年12月にかけて開催されたS・ミドル級最強決定トーナメント「スーパー・シックス」。数々の番狂わせが起こったすえアンドレ・ウォード(アメリカ)の優勝で幕を下ろしたイベントだが、現在の主要4団体の世界王者は奇しくも全員が「スーパー・シックス」参戦者である。ウォード以外の3人は挫折を味わったわけだが、そこから再浮上して現在の地位を確立している。
こうなると各カードの再戦を期待したくもなるというものだ。
現にIBF王者カール・フロッチ(イギリス)はWBA王者ミッケル・ケスラー(デンマーク)に再戦を打診していると伝えられる。試合が実現すれば双方に200万ユーロ(約2億4000万円)を超す報酬が確約されるとみられているほどだ。フロッチはケスラーとの再戦に向け、今回のユーセフ・マック(アメリカ)との初防衛戦は絶対に落とせない試合といえる。
フロッチには敗れたが、前IBF王者ルシアン・ビュテ(ルーマニア)も忘れてはなるまい。再起戦の内容に不満と不安が残ったことでフロッチとの再戦を先延ばしにする意向と伝えられるビュテだが、サウスポーからの強打は魅力的だ。
IBF1位のアドニス・スティーブンソン(カナダ)、WBO1位のジョージ・グローブス(イギリス)らが王座を狙っている。その一方、右肩を手術したウォードが戦線離脱したことや、そのウォードへの挑戦が消えた元ミドル級王者ケリー・パブリック(アメリカ)が引退表明するなど、寂しいニュースもある。
【S・ウェルター級特集1】
NABO北米S・ウェルター級タイトルマッチ
NABO北米S・ウェルター級チャンピオン
カルロス・キンタナ
(プエルトリコ)
アメリカ・S・ウェルター級
キース・サーマン
(アメリカ)
WBAインターコンチネンタル・S・ウェルター級タイトルマッチ
WBAインターコンチネンタル・S・ウェルター級チャンピオン
ジャック・クルカイ
(ドイツ)
元IBFインターナショナル・S・ウェルター級チャンピオン
ジャン・ミシェル・アミルカーロ
(フランス)
S・ウェルター級特集
カルロス・キンタナ(プエルトリコ)対キース・サーマン(アメリカ)の試合は、元世界王者対無敗のホープという構図になる。キンタナは08年2月にポール・ウィリアムス(アメリカ)に初黒星をつけて戴冠を果たした元WBO世界ウェルター級王者。再戦で敗れ、アンドレ・ベルト(アメリカ)にもTKO負けを喫したが、12年5月には躍進中だったディアンドレ・ラティモア(アメリカ)を6回TKOで下して再浮上してきた。サウスポーの強打者で、戦績は32戦29勝(23KO)3敗。
サーマンはキンタナよりも12歳若い24歳。北京五輪の米国内予選トライアルで決勝に進むなどトップアマとして活躍後、07年11月にプロデビュー。以後、いきなり8連続1ラウンドKO勝ちを収めたのを含め、これまで19戦18勝(17KO)1無効試合の戦績を残している。まだ評価を定める時期ではないが、その破壊的な強打は注目の的となっている。サーマンにとって今回のキンタナ戦は、世界トップ戦線に割り込むための重要なテストマッチとして位置づけられる。
ドイツのスター候補、ジャック・クルカイ(ドイツ)にも注目したい。08年の北京五輪こそ1回戦敗退だったクルカイだが、翌年の世界選手権ではウェルター級では優勝するなどアマチュアで126戦95勝28敗3分の戦績を残している。09年12月にプロデビューし、ここまで13戦全勝(9KO)と順調に成長している。
対するジャン・ミシェル・アミルカーロ(フランス)は、24戦17勝(6KO)4敗3分の26歳。恵まれた体格を生かしてスター候補にひと泡吹かせたいところだが……。
Written by ボクシングライター原功