このアイデアは、ヒースロー空港の新ターミナル5がちょっとしたドタバタオープニングを迎えているのを見て思いついたんだ。何もかもが悪いほうへと進んでしまい、ブリティッシュ・エアウェイズのCEOは、TVニュースのインタビューで、何がまずいのかを見つけ出すために現場で調査したかったが、そんなことをすれば皆に自分の正体が分かってしまっただろうと話していた。本当にそうかなと私たちは思ったんだ。大企業の最前線で働く大抵の社員は、自分たちのボスがどんな外見をしているかを実際には知らず、彼らが作業現場にやって来ても、スーツも着ず、丁重な扱いも受けていなければ、おそらくボスだとは気づかないんじゃないかって。今まで『アンダーカバー･ボス』の多くのエピソードを制作してきて、私たちの考えが正しかったと分かったよ。番組で取り上げたボスたちの中で、正体を見破られた人は誰一人としていなかった。実際、会社の上役たちでさえ、ボスとすれちがっても気づかないこともあった。なぜって、最前線で働く労働者のように変装しているからね。

テレビの新番組は大抵、他の番組の要素を備えているし、もちろん『アンダーカバー･ボス』と『ザ・シークレット･ミリオネア』は、主要登場人物が実は何者であるのかという真相が、番組の終わりまで伏せられるというアイデアが共通している。でも、さまざまな異なった業種の会社や組織の中でボスたちが潜入（アンダーカバー）をするのだから、『アンダーカバー･ボス』のほうが、『シークレット･ミリオネア』よりもずっとバラエティに富んでいると思うよ。また、ボスのほうも、経営上うまくいっていないことを改善したいという極めて切実な動機があるので、問題を見つけ出す目的で潜入（アンダーカバー）をする事に、非常に強い意欲を持っているしね。

このシリーズには、非常に多くの感動的な瞬間があるので、1つだけ選ぶのは難しいな。セブン-イレブンのエピソードでは、セブン-イレブンの配送ドライバーで、カザフスタン出身のイゴールという素晴らしい登場人物がいる。セブン-イレブンのCEOは、このイゴールにいたく感動して、最終的には、ものすごいことだけど、セブン-イレブンのフランチャイズを無料で与えることに決めたんだよ。

いろんな意味で予想外な出来事は起こるよ。最も衝撃的だったのはレストランチェーン、フーターズのCEOがテキサスの店で遭遇した出来事だね。テキサスの店のマネージャーは自ら考案したゲームをウエートレスたちに強要していたんだ。それはかなり不適切なもので、あるときマネージャーが彼女たちに命じたのは、手を使わずに皿から豆を食べ、一番早かった者が家に帰れるというゲームだった。CEOはショックを受け、結局そのマネージャーは会社を辞めることになったんだよ。ただ多くの場合、一番驚かされるのは、一生懸命働いている従業員がその働きぶりをCEOから評価され感極まるという場面。ニューヨーク・タイムズ紙のテレビ評論家アレッサンドラ・スタンリーは第1シーズンをこう評している。「働く人たちの謙虚さ、純粋な驚き、小さな思いやりにあふれた行動といったものが印象的だった。『アンダーカバー・ボス』を観ていると不景気の時は、組織と対峙し敵対関係になることを望む人は少ないということが分かる。大抵の人が望むのはごく小さな願いごとであり、また思いがけないような幸運といったものなのだ。」

この番組は、ずば抜けた成功を収めている。平均1700万人以上の視聴者を獲得し、今季のアメリカの新番組でナンバーワンだったが、これを超えたのは、『アメリカン・アイドル』『ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ（原題）』『NCIS 〜ネイビー犯罪捜査班』のみで、今週はプライムタイム･エミー賞のリアリティ番組部門にノミネートされたばかりだ。ものすごい成功だよ。この不況時に、これほど大勢の人々の心に訴えかけたのだから。

この番組が、他の多くのリアリティ・ショーと違って、人に恥をかかせるような内容じゃないから、いつもはリアリティ・ショーを見ない人たちにも受け入れられているんだ。

多くの視聴者は、自分たちの雇い主の間抜けなやり方に悪態をつき、ボスが1週間でも自分たちと同じ立場で働いてくれることを願っているけど、『アンダーカバー・ボス』では、それを目の当たりにすることになるんだよ。この番組は、大いなるユーモアと、そして強い感動に満ちている。ボスが最前線の仕事で奮闘するのはとても面白いし、各エピソードの終わりでは、従業員たちは、一緒に働いていた同僚が実はボスで、自分たちが今までどれほど懸命に働いてきたかがついに認められるのだと知る。その時、感情が開放され涙で満たされるんだ。