こぼれ話 ブラジル編
こぼれ話 ロケ日記 いろんな意味で大国!なブラジル!!
ブラジルは、この番組16年の歴史の中でも初めての取材国。個人的にこの国に対するイメージは「格闘技大国!」である。400戦無敗のヒクソン・グレーシー、極真カラテ初の外国人チャンピオン、フランシスコ・フィリオ、プライド絶対王者ヴァンダレイ・シウバ…。この大国の発展の歴史と人間力の強さを感じたいと、強く思いながら取材は始まったのであった。
第1話 後頭部にブラジリアンキック?
マウリシオとイーゴル 11月28日、リオ・デ・ジャネイロ取材開始。コルコバード鉄道で半裸のサンバダンサーに迎えられ、イパネマ海岸では超ミニサイズ水着の女性に視線を奪われ…と顔面神経が弛緩し続ける。とはいえ道中は緊張感のあるもので、ベテランコーディネーター木下さんの要望により、2人のセキュリティーを付けた。彼らマウリシオとイーゴルは、アメリカの総合格闘技UFCの元世界ミドル級王者ムリーノ・ブスタマンチも所属する、「ブラジリアン・トップ・チーム」の格闘家である。しかし木下さんが嫌なことをボソッと言う。「彼らでも、拳銃を持ったギャングに襲われたらひとたまりもないんですけどね…」
苦笑いをしながら路面電車ボンジーニョの撮影に入る。旧市街は地元ドライバーでも治安を心配する地区。たまたま我々の横に自動小銃を装備した警官のパトカーが停まっていて安心したのもつかの間、ほどなく無線連絡が入り、警官隊は事件現場に向かってしまった。聞き耳を立てていた木下さんが言う。「銃撃戦があったみたいですね」 ついさっきまで水着女性にニタニタしていたダメディレクターの後頭部に、K1戦士グラウベ・フェイトーザのブラジリアンキック並みの衝撃が走り、早々と撮影を切り上げたことは言うまでもない。このメリハリ、本当にいろんな意味で大国である。
ページの先頭へ
第2話 首元を三角締め?
日曜市 ヴィトリアはドセ川河口の港町。鉄鋼産業で賑わうこの街は我が国とも縁が深く、多くの日本人鉄鋼マンを見かけた。ブラジルの旅客鉄道は多くが経営難で廃止され、残る路線は観光鉄道が多い。そんな中、ヴィトリア・ミナス鉄道は、低運賃で沿線住民のために運行されている庶民の足である。
鉱物資源で潤うベロ・オリゾンテへは12時間以上の旅。沿線のウジミナス製鉄所で働く人々や、息子家族に“幸福の苗木”を運ぶ老婆など、いろいろな顔に出会った。最も印象深いのは、ヴォーヴォシキンヨ児童擁護施設の子供たち。虐待を受けたり置き去りにされた子供たちなのに、その表情は底抜けに明るく、まさに我々がイメージするブラジル人の顔であった。「子供たちのこんな笑顔を日本では見ることができない。彼らの方が、本当の幸せを知っているのかも…」 しかし、笑顔の裏に隠された彼らの人生を思うと、かつてリングスやプライドでも活躍した現UFCへビー級暫定王者アントニオ・ホドリゴ・ノゲイラの三角締めを首元に極められたような、息苦しい感覚に襲われるのだった。
ベロ・オリゾンテで名物の日曜市を撮影していると、串焼屋の親父にコーディネーターが絡まれていた。「日本人は自殺する人が多いんだって?悩み事なんて、仕事終わりにビールを飲みながら女のケツでも眺めてれば治るのにな〜!」 この柔軟性、本当にいろんな意味でブラジルは大国である。
ページの先頭へ
第3話 脳天にココバット?
チラデンチス広場 12月2日より、かつてゴールドラッシュで栄えたオーロ・プレットを取材。ポルトガルの入植で発展した町だが、それを支えたのはアフリカから連れて来られた奴隷たちであった。ここはブラジル独立運動の父・チラデンチス縁の地でもある。しかし現地の人は言った。「我々にはチラデンチスよりも大切な人がいる。それは家族です!」 そうだよね、俺も会ったこともない福沢諭吉より家族の方が大事だもんな、などと思う。また、サブコーディネーターの宮本さんは言った。「ブラジルは本当に人種差別が少ない国だと思う。それと本当にありがたいのは、日本人=勤勉というイメージを作ってくれたかつての日系移民たち。こんな僕でもみんな尊敬の目で見てくれるんですよ」と。こんな話も聞いた。日本人男性はブラジル人女性にモテる、なぜなら真面目に仕事をすると思われているから。
治安の悪化や貧富の格差など問題は山積しているが、ブラジルを知る人は「世界中で最も住みやすく、生きやすい国だ」と言う。それは、国の根底を支えたアフリカ人奴隷たちが、良いものは良いと判断し、差別が少ない国へと導いたからなのかもしれない。
古い格闘技ファンには懐かしい名前、ボボ・ブラジル。「頭突き世界一決定戦」で必殺「ココバット」を連発したレスラーだ。リングネームは「人種差別のないブラジルに行きたい」という、幼少時の夢から付けたという。オーロ・プレットのアフリカ系移民の歴史や、身近な人から聞いたいろいろな逸話を思うと、彼のココバットを受けたように脳天がクラクラしてしまうのであった。この国民の寛大さ、本当にいろんな意味でブラジルは大国である。
キリスト像の前にて 元来の身体能力で世界のサッカー界を圧倒するブラジル。サンバの熱気で世界を陽気にするブラジル。そして、身長230cm・格闘技界史上最大の選手というギミックを持つジャイアント・シルバが生まれたブラジル。その多様な魅力は計り知れない。ロシア、中国、カナダ、アメリカに次ぐ、世界第5位の国土面積を誇るこの大国は、優しさと可能性に満ちている。そして、そこに貢献している日本人が少なからずいることも、実感できた今回の取材であった。
ページの先頭へ
運賃から邪推する南米鉄道台所事情
2008年2月18日、今回の南米取材で私にもなじみのできた会社名が、紙上を賑わした。
鉄鉱石、65%値上げへ 自動車や家電に波及も
『新日本製鉄とJFEスチールは、08年度における鉄鉱石の調達価格を今年度よりも65%程度高くすることで、鉄鉱石最大手のリオ・ドセ社(通称ブラジル・バーレ)と合意した。過去最高の価格水準で、鉄鋼各社は製品の販売価格に転嫁する方針だ。鉄鋼を使う自動車や家電などの価格にも鉄鉱石値上げの影響が及ぶ可能性がある。』
北京オリンピック特需で沸く鉄鋼業界。我々が取材したヴィトリア・ミナス鉄道を運行するリオ・ドセ社は、まさにその渦中にいるのだ。ヴィトリア〜ベロ・オリゾンテを結ぶ664km、12時間40分の1等車運賃は32ドル(日本円で約3200円)。同じルートのバスより安いので沿線住民から重宝されている。具体的な収支決算を知ることはできないが、この運賃での鉄道運営はかなり厳しいのではないだろうか。しかし世界的な(儲けを得ている?)リオ・ドセ社は、住民のために採算を度外視しているのかもしれない。
ちなみに観光鉄道ペルーレイルが運行するクスコ〜プーノ間385km、9時間30分を過ごすアンデアンエクスプローラーは145ドル(日本円で約1万4500円)。アルゼンチンのブエノスアイレス〜マル・デル・プラタ間399km、5時間34分の運賃は39ドル(日本円で約3900円)であった。アルゼンチンの列車は、映像ではわからないと思うが、正直かなり整備不良な車両であった。
その観光的性質や車両の快適さなど、料金を比較すること自体が愚挙であり邪推ではある。しかしただでさえ旅客列車の少ない南米各国の、鉄道が目指す方向性を垣間見られたようなニュースであった。
ページの先頭へ